生徒と教師がともにつくり上げた3年間
主体性を育み、未来につなぐ探究学習(京都市立開建高等学校)

2026.09.24
インタビュー
京都市立開建高等学校は、「1クラス40人」というこれまでの枠組みを飛び越え、「80人をひとつの集団(ポッド)」として捉える独自の教育システムを導入しました。
その象徴とも言えるのが、可動壁によって空間を変幻自在に操れる学習空間「L-pod」と、3人の教師がひとつの集団を担任する「複数担任制」です。
2023年の開校から3年目を迎え、全学年が揃った開建高等学校。いよいよ初めての卒業生を送り出そうとしている今、この挑戦は現場の「クラス経営」をどう変えたのでしょうか。L-podの生みの親である長澤悟氏にも同席いただき、宮越教頭、三谷学年主任へのインタビューを通して、その核心に迫りました。
※本インタビューは2025年12月取材時の内容に基づき掲載しています。



京都市立開建高等学校 
教頭 宮越 敬記 氏(写真左)
2年生学年主任・英語科 三谷 吉宏 氏(写真右)

フレキシブルな授業の運用と現実

――「L-pod」での授業において、多くの外部関係者が抱く疑問は「生徒が特定の教師に偏るのではないか」という点ですが、実態はいかがでしょうか。

三谷
80人を三つのチームに分ける時に、習熟度別に分けるのか、または講義形式か、話し合いを進めるといった学習のスタイルで分けるのか、教師間でその辺はすごくフレキシブルです。途中で生徒の理解度や好みに合わせて変えられるのはとても良い点です。ただ、生徒自身が教師を選べるのは一見素敵なことに見えますが、やはり高校生は誰に教わるかよりも「誰と学ぶか」が重要なのです。『私はこっちで学びたいけど、○○ちゃんはあっちで学ぶから私も一緒に行こう』みたいなことが、しばしば起こるんですよね。それは自由なようで実は自由ではない。だから、すべてを選択自由にする時もあれば、そうじゃない場面も結構あります。

――自由を掲げてスタートした1期生の経験から、2年目以降はあえて「制限」を設ける場面も増えたそうですね。

宮越
1期生の時は今よりも自由に選択させたのですが、そうすると多様性が薄れて、同一性の集団に偏りがちでした。4人でチームを作るように指示をしたら、野球部ばかりで集まって、そこから発想が広がらなくなってしまう。なんとかせないかん、と、2期生からは指定席をちょっとずつ増やしました。
三谷
不思議なことに、席を指定したほうが多様な学びになるんです。自由に選ばせると逆に偏ってしまって、特に女子生徒は『なんで私と仲良いのにあっちにいったん?』といったしがらみが発生するなど、すごく気を遣う。それよりも、ある程度こちらが指定してあげたほうが自由に学べる。1年生の間はあまり自由にさせすぎず、年齢が上がるにつれだんだん自由度を増していくようなさじ加減が必要だと分かってきました。

「対話発生装置」としてのL-pod

――L-podで学ぶ80人の集団は小さな社会のようです。40人程度のクラスなら1人のリーダーでまとまりますが、倍の人数ではマネジメントの難易度は大きく変わります。こうした規模でのクラス経営は、どのように工夫されていますか。

三谷
30~40人を動かすエネルギーと、80人を動かすエネルギーって、スキルの質が違うんですよ。大人でもこれだけの多人数を動かすのは難しい。それを生徒にやってもらおうとしているんです。80人に対して1人が喋ったところで、みんな話を聞かないですよ(笑)。それを『静かにせい!』と注意したところでなかなか伝わらない。やっぱり大リーダーがいて、小リーダーがいて、そこからまた伝わっていくような組織の形を作っていかないと難しい。今、生徒たちは『どうやったら話を聞いてくれるんだろう』と悩みながら、マネジメントのスキルを頑張って磨いています。

――L-podでは、生徒同士が積極的にコミュニケーションを取っているのが印象的です。なぜ、これほど対話が起きるのでしょうか?

三谷
L-podは、ある意味では少々面倒くさい教室なんです。自分の机というものがないので、机を移動する、壁を動かすなど、何をするにしても誰かと協力してやらないといけない。『壁を動かすの、誰がやる?』『この机使ったの誰? 消しカス落ちてるやん』とか。毎日そういう小さいことを積み重ねているから、生徒同士が自然と喋るようになるんです。普通の学校の30人クラスよりもバッファがあって、それが逆に良いコミュニケーションに繋がっている気がします。

――一般的に、多人数での授業は生徒から質問が出にくいとされますが、開建高校では逆の現象が起きていると。

三谷
質問、めちゃくちゃ出ます(笑)。もう時間だからって切るくらい。普通の学校では人数が多いほど皆の前で発言しにくいと思うのですが、うちの生徒はそういう場に慣れているというか、質問をするのが当たり前だと思っている。意外な子が質問してくれると、『君が質問するんや!』っていう嬉しい驚きがありますね。

教師のチーム力と「ポット」という新概念

――3人の教師が80人を担当する複数担任制について伺います。当初は「教師間の責任の所在」が課題となっていました。

三谷
複数担任制については、やりにくさを感じている教師も多いんです。3人の担任が並列のまま動いてしまうと難しいので。だから最近は、ある程度の責任感を持って動く「ポット長」を1人置き、残りの2人をマネジメントするといった形を取っています。一般的に教師は全員並列ですが、そこを一歩踏み込んで組織的に動く必要があるためです。

――個性やリソースを最適化する「対話」を、教師間にも敷くシステムですね。

三谷
三者懇談などは、人気のある教師に偏ることもあります。1人が40人分を担当したら、あとの教師は10人になることもある。でもそうなったら、その教師は40人持っている教師の事務作業を引き受ければいいのです。『喋るのは自分がやるから、書類関係はやってな』といったような。得意不得意を補い合う役割分担であり、これも対話です。うちの学校では、コミュニケーションを取らない人は担任をできないと思います。新任の教師が担任を任された時も、ほかの教師たちのコミュニケーションを隣で見て学べる。今、しんどい思いをして病んでしまう教師も多いなかで、開建高校は教師間で調節しながら育成できる。生徒にとっても、1人の教師と関係が悪くなった場合もあと2人の担任がいる。これは大きなメリットです。
複数担任制では、教師たちがユニットのようにセットで動きます。国語なら国語で3人同時に授業が入るので、同時に空いている時間も3人一緒。教師同士が打ち合わせする時間がたっぷり取れるのです。

思考力を育てる「コアスキル・カード」

――独自の科目である「ルミノベーション科」で使用されている「コアスキル・カード」は、生徒たちが自走するための重要なツールとして機能していますね。

宮越
「コアスキル・カード」は、当初はテキストブックを作る予定だったのがうまく進まなくて、『カードにしてしまえばいいんじゃない?』という現場のアイデアから生まれました。アメリカのミネルバ大学のようなスキル体系を、高校生向けにダウングレードしてアレンジしたものです。
三谷
2年生から自分の好きなことや興味のあることをテーマとする探究学習が始まるのですが、『好きなことしていいよ』と言われても何をしたらいいか分からない生徒が結構いるんです。例えば健康に興味がある生徒がスムージーを作りたいと言った時に、『比べてみる』カードを見て色々なスムージーを比べてみるといった使い方をします。カードから発想を広げ、言語化する材料にする。今では『前提を疑ってみる』とか『遡ってみる』といったカードの言葉が、教師と生徒の間の共通言語になっています。

地域や社会へ。学校を飛び出すプロジェクト

――1人の生徒の「餅つきをやってみたい」という発想が、地域を巻き込んだ大規模イベントへと発展した例があると伺いました。

宮越
生徒がしたいことをやってみる、がテーマの「New Horizon Day」というプロジェクトのなかで、餅つきをやりたいという相談があり、『せっかくなら自分たちだけで楽しむのではなく、地域の人も参加できるようにしてみては』とアドバイスをしました。生徒が町内会長に電話したところ、会長さんが『やり方教えたるわ』と学校に来てくれて。さらに、学童保育の小学生を50人ほど呼ぶことになりました。当日、生徒たちはお世話と振舞うことに奔走して、自分たちはほとんど餅を食べられなかった。でも、片付けをしながらニコニコして『本当によかった!』と。これは大きな学びです。
三谷
最近の悩みは、教師の知らない所で生徒が勝手に動いていること(笑)。自治会長さんと仲良くなって喋っていたり、いつの間にかテレビ出演が決まったり。きっかけはこちらで作ったとしても、まさかそこまで繋がりができているとは思わなくて。嬉しい話ですけどね。
高校教育は、新しいことを求められている割にはあまり変わっていない。開建高校はそこをがんがん攻めていますが、世の中にはまだ『とはいうものの学歴社会でしょう』という保守的な意見もある。この学校の魅力を、もっと発信して伝えていかなければならないと思っています。
宮越
学校は、どこまでいっても生徒が成長する場所じゃないと駄目です。生徒たちには、社会に出た時に困らないスキルを身に付けてあげたい。教師達には『これは壮大な実験ですから、5年ぐらいかけて方向性が見えたらいい。その代わり、良かったこと・あかんかったことをきちんと蓄積してブラッシュアップしていこう』と伝えています。


――80人の集団のなかで、対話を通じて主体的に学び、地域を動かし、プロジェクトを形にする「開建スタイル」。一つひとつのプロセスが、「自らを変え、未来社会を形成する協創者」の育成につながっています。本日はありがとうございました。

〈コラム〉L-podの生みの親、長澤 悟氏が提案する
「学びを豊かにするプレイス・デザイン」


東洋大学 名誉教授
教育環境研究所 所長
国立教育政策研究所 客員研究員
長澤 悟 氏


開建高校の校舎は、一人ひとりを見つめる教育方針が具現化された建築ですが、施設の完成はゴールではなくスタートです。今後、さらに学びを深化させるための提案をまとめました。

「家具」による多様なコミュニケーションの創出

学びのスペースに柔軟な使い方ができる家具を導入することで、空間を「施設」から「意味のある場(プレイス)」へ進化させます。

「向かい合う」から「寄り添う」形へ

円卓や勾玉型のテーブルは、座る位置によって距離感を自由に調節でき、対話を生み出しやすくします。

「余白」を活かした大テーブルの設置

一角に大きなテーブルやハイテーブルを配置することで、資料を広げて作業に没頭する、仲間と会話するといった生徒の自発的なアクションを引き出します。

 

探究学習のリズムを支える「集中」と「開放」の両立

高い集中力とエネルギーを必要とする探究学習には、「くつろぎ」の環境が不可欠です。

チェアリングによる居場所づくり

廊下や広いスペースに多様なイスを置き、待ち合わせや語らいの場に。校内に多様な居場所を生みます。

「ほっこり・ぐたっと」できる設え

探究学習の合間には心身をリラックスさせることも重要。「空を見てゴロゴロする」「ハンモックでくつろぐ」といった「開放と集中のリズム」を導く環境が、次の学びの質を向上させます。

 

社会とつながる「コ・ワーキング的」な学校運営

「地域を迎え入れる構え」をさらに一歩進め、学校全体をひとつの社会的な活動拠点として捉え直します。

図書室のコ・ワーキング化

「静かに本を読む場所」から、地域の人も仕事や活動ができる「コ・ワーキングスペース」へ。大人が働く姿を間近で見ることが、生きたキャリア教育に繋がります。

フリーアドレスの導入

特定の場所を誰かが占有(私物化)せず、皆で共有する「フリーアドレス」のルールを生徒と共につくることで、公共心と空間活用の柔軟性を養います。

 

実りのある学習のためには、これらを一気に作り込むのではなく、教師や事務職が生徒との対話を通じて少しずつ環境を整えていくことが重要です。開建高校の囚われない発想があれば、用意された施設・環境を使いこなし、教育のレディネス(準備状態)をさらに高めていけるはずです。

取材日:2025年12月

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