【インタビュー】災害・救急時に強い医療提供体制と 患者・職員に快適な環境を再開発で整備[前編]

山口大学医学部附属病院
副病院長
病院整備計画室長
先進救急医療センター長
鶴田 良介 氏
仮眠室にスペース効率の良いカプセルベッドを導入
――今回、スタッフ用にカプセルベッドを導入されましたが、病院としては初めてなのでしょうか。
導入したのは先進救急医療センターのスタッフ用の仮眠室で、カプセルベッドが入っているのはここだけです。先進救急医療センターは365日・24時間体制で救急医療を提供しており、スタッフは医師も看護師も日勤夜勤の2交代制です。夜勤のときは基本的に数時間仮眠を取るので、仮眠室を用意する必要があります。
しかし、先進救急医療センターのある1階フロアにオーディトリアムを設置したことで、スタッフエリアのスペースがやや手狭になりました。なんとか男女の個室を二つずつ設置するスペースは確保したのですが、それ以外をどうしようかと考えているときに思いついたのが、カプセルベッドだったのです。カプセルベッドは上下でベッドを設置できるので、二つ分のスペースで4ベッドを置くことができます。
――限られたスペースを有効に活用するために、カプセルベッドを導入されたわけですね。

その通りです。全部個室にできるスペースがあるならその方が良いですが、それができないのでカプセルベッドを導入しました。その結果、男性・女性それぞれの個室が2室ずつ、それ以外に4名分のカプセルベッドを設けたので、男性・女性ともに6名ずつ計12名が仮眠できます。医師と看護師以外にも、救急救命士や救命士になる前の学生、それからたまに医学部の学生も使っています。
カプセルベッドには私も寝てみましたが、2段ベッドと違い、空間としてきちんとプライバシーが保たれているし、意外と静かですよね。それぞれ自分が休みたい時に、一人になってしっかり休憩が取れる空間を作るという意味では、優れた設備だと思います。
――今回の再開発では、職場環境の整備にも注力されていますね。

救命救急センターの施設基準では、24時間の診療体制を確保するために、センター内には四六時中人がいなければいけません。そのため本来は、スタッフの仮眠室もセンター内に設置しています。でも今回はセンター内にスペースを確保することができず、廊下を挟んだ隣の空間にスタッフエリアを設けることになりました。でもその時私は、逆に「しめた」と思いました。もともと患者さんがいる空間でスタッフが寝泊りや食事をすることに、ずっと疑問を感じていましたから。
今回別の場所にスタッフエリアを設置したことで、誰かが休憩している間もセンター内にスタッフが必要になるため、医師も看護師も人数を増やしました。でも、そのお陰でしっかり仮眠を取ってもらえますし、本来それが理想だと思っています。
山口県の「最後の砦」となる災害時医療拠点を目指して
――今回の再開発では、災害に強い病院づくりを掲げていらっしゃいます。

災害時に、災害派遣医療チームであるDMAT(ディーマット)が集まって医療活動を行う場所は、県庁や市役所などではなく病院です。そのため病院における災害用の臨時スペースは、非常に重要な場所となります。オーディトリアムは室内とロビーの壁面7カ所に医療ガスや非常電源等のアウトレットを設置しており、災害時に威力を発揮できるスペースとして確保しています。また今後は、玄関ホールや広場にも同様の設備を設置する予定です。
災害時の救急医療対応で有名なのは聖路加国際病院です。聖路加国際病院は新病棟建設の際に、故日野原院長が災害時の対応を考え、ロビーや廊下など施設内の様々な場所に酸素配管を設置していました。それが1995年の地下鉄サリン事件で威力を発揮し、多くの被害者を収容、治療できたと言われています。病院というものは災害時に、ベッドが満床とか部屋がないとは言えない状況になります。将来ここが活躍してほしいとは思いませんが、オーディトリアムのような空間を持てたことは病院として非常に良かったですし、大きな意味があると考えています。
――山口県の医療における「最後の砦」としての役割を意識されているのですね。
当院は国立大学附属病院で初めて高度救命救急センターに指定されており、病院全体で救急医療に積極的に取り組んできました。私は再開発が始まるときも先進救急医療センター長だったこともあり、特に災害時の救急対応を意識しました。過去の例を見ても大規模災害が起こったときには、大学病院は地域の方々が集まる場所になる可能性が高いですからね。
今回の再開発整備事業では、当時考えられる最善の施設を計画したつもりではありますが、決してこれで安心とは考えていません。そもそも想定外のことが起こるから災害です。特に近年の災害は想像のさらに上をいくことが多く、どんなに準備をしていても被害が発生してしまうことがあります。ここまで用意をしていても本当に対応できるのか、実際に災害が起こった時に試されるのだと思っています。
――できればそのような日は来て欲しくありませんが、地域の方々にとってこの病院の存在は大きな安心感につながっていると思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材日:2024年6月
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