災害・救急時に強い医療提供体制と
患者・職員に快適な環境を再開発で整備[前編]

2024.11.05
インタビュー
30の診療科と24の診療施設を擁し、病床数754床の規模をもつ山口大学医学部附属病院は、あらゆる分野の疾患を専門的かつ総合的に診療できる山口県内唯一の特定機能病院です。国立大学病院で最初に設置認可された高度救命救急センターを中核に、山口県の高度救急医療体制を担うとともに、がん診療連携拠点病院、肝疾患診療連携拠点病院、総合周産期母子医療センター、アレルギー疾患医療拠点病院、災害拠点病院等、山口県のさまざまな拠点病院に指定されています。同病院は、2015年から国立大学病院としては初となる2回目の再開発整備事業を行っており、2025年度まで日常診療を行いながら工事を進めています。
2019年6月に開院したA棟は病院の重要機能を集約し、急性期及び高度医療の充実を図ったほか、災害時医療拠点としての機能を強化。1階のオーディトリアム(大講義室)は移動観覧席を備えたホールで、災害時にはイスを収納することで約200㎡の災害用臨時治療スペース(トリアージスペース)として使用できます。また患者さんや病院職員にとって快適な医療環境の整備にも配慮しており、仮眠室にはカプセルベッドを導入しました。今回は同病院の副病院長で病院整備計画室長でもある鶴田良介氏に、新病棟となるA棟の役割や機能についてお話を伺いました。
 

山口大学医学部附属病院
副病院長
病院整備計画室長
先進救急医療センター長
鶴田 良介 氏

高度急性期医療の拠点となる新病棟の建設

――今回の再開発整備事業の概要について教えてください。

今回の再開発整備事業は、A棟、B棟、C棟の三つの区画に分けて整備しています。2019年6月に開院した新病棟のA棟は、以前は患者さん用の駐車場などがあった場所を利用しました。現在整備中のB棟(第一病棟)、C棟(外来棟・新中央診療棟)は既設棟の改修です。
地上14階地下1階建てのA棟は、高度急性期医療の機能を充実させた災害・救急時に強い病院をコンセプトに建設しました。私が所属する先進救急医療センターをはじめ、主にB棟にあった高度急性期医療の中核となる機能をA棟に移動、集約しています。設備についても、救急病床の全20床をICU(集中治療室)にしたほか、手術室や術後用のICU、GCU(新生児回復治療室)を増室・増床するなど強化しています。また収容人数の多いエレベーターを設置し、これらのユニットと屋上のヘリポートを直結させました。他の施設あるいは現場からドクターヘリで患者さんを運び、先進救急医療センター、手術室まで結ぶ最短の導線を確保しています。
B棟は、A棟に機能を移動して空いたスペースを活用し、患者さんの療養環境を充実するほか、職員の働きやすさを重視した様々な施設を整備しています。またA棟とB棟は全部のフロアを渡り廊下でつなぎ、各棟の連携も図っています。

――医療施設以外にも様々な施設を整備されていますね。

地域交流を目的に、1階のエントランス周辺にはオーディトリアム(大講義室)、ホスピタルガレリア、広場、カフェなどを設置しました。これらのスペースは患者さんや職員だけではなく、近隣住民の方々にも色々使っていただきたいと思っています。
また大規模災害時も診療を継続できるように、免震機能や自家発電機、断水対策などのインフラを整備して防災機能を充実させており、オーディトリアムも災害対策の一環となります。平常時は医療従事者向けの講習会や学会、あるいは地域住民にも利用いただけるスペースとして活用していますが、有事の際には移動観覧席を収納することで災害用臨時治療スペース(トリアージスペース)として活用します。

初めて病院内に設置されたオーディトリアム(大講義室)


――以前にもオーディトリアムのような空間があったのでしょうか。

会議室はありましたが、大人数を収容できるホールができたのは初めてです。この敷地内には、病院と医学部の2種類の建物があるのですが、これまで研修会などを開催するときは、医学部の建物内にある講義室を借りていました。だから院内にこのようなホールを持っている病院が羨ましかったですね。
オーディトリアムには電動式移動観覧席と収納可能なイスとテーブルがあり、テーブル設置時は262席、イスのみであれば最大344席まで設置できます。通常の講習会や学会であれば十分対応できる規模です。

――移動観覧席の使い心地はいかがですか。A3サイズに対応した収納式の前テーブルが付いていますが。

このテーブルは便利ですよね。一般的には肘メモ台のタイプが多く、前のイスの背もたれから引き出すタイプはあまり見ない気がします。
それと、イスがゆったりつくられているのが良いですね。これだけのスペースがあれば出入りにも苦労しません。会議の途中でも連絡を取らなければならないことはあるので、席を外す時に周りの人に迷惑をかけずに移動できるのは便利です。

――鶴田先生は、移動観覧席の展開・収納をご覧になったことはありますか。

ありますよ。コロナ禍の時にECMO(エクモ)の山口県の講習会を行ったので、総務の人たちと一緒に収納作業を行いました。イスの移動は壮観で、見ていてすごいなと思いました。ただ、移動観覧席は電動式なのでボタン一つで収納できますが、前のテーブルとイスの収納が大変でした。人が運ばなければいけないですからね(笑)。



イスを移動すれば大きな空間になるので、色々な利用方法があります。例えば当院のイベント「キャリアナビゲーションin山大」では、各診療科(部)を紹介するブースを設置するために広いスペースが必要で、移動観覧席を収納して開催しました。また災害対策訓練の際には、トリアージセンターの設置訓練で使用しています。

平時は医療関係者、地域住民に向けた様々なイベントを開催


――普段はどのような行事で利用されているのでしょうか。

当病院は山口県唯一の特定機能病院でもあるので、山口県や中国・四国地方などの医療従事者を集めて、臨床研究のための様々な知見を身に付けてもらうという大きな役割があります。私が担当する救急医療で言えば、ドクターヘリの事例報告会という形で、山口県内の救命士や医師、看護師などを集めて研修を行いました。普段は院内スタッフの会議や研修会が頻繁にありますが、いちばん使っているのは看護師かもしれませんね。約1,700名いる病院職員のうち約半数が看護師になりますから。
これまでオーディトリアムで開催した最も大きな会議は、2024年2月の全国国公立大学病院救急部協議会です。山口県が担当で、久々にオンラインではなく対面でやることになったのですが、オーディトリアムがなければ大学の会議室でやるか、外の施設を借りることになっていたと思います。今回は開催していますが、コロナ禍の時は直前にオンラインに変更になるなど会場の急なキャンセルも多く、外の会場を借りればキャンセル料の問題もありました。でも病院内の施設であれば、会場費のことも心配しなくて済みます。

――地域の方を対象にしたイベントや、コンサートも行われていますね。

まだ十分に活用できているとは言えませんが、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した後は、色々なイベントが開催できるようになってきました。地域住民向けとしては、市民公開講座「だれもが孤立しない地域づくり」、アレルギー県民講演会などを開催しています。
コンサートについては、オーディトリアムのこけら落としを兼ねて、A棟竣工の記念式典で日本フィルハーモニー交響楽団による演奏会が行われました。
また毎年、日本フィルハーモニー交響楽団の方々のご協力を得て行っている「UBE株式会社プレゼンツふれあいコンサート」も、2023年はオーディトリアムで開催しています。入院患者さんをはじめ職員など約100名が鑑賞し、非常に喜ばれました。オーディトリアムができる前は、外来1階のホールでやっていたのですが、狭いですし音もあまり良くなかったので、プロの方たちには申し訳ないと思っていました。でもオーディトリアムなら音響も良いですし、ゆったり座って鑑賞していただけます。

――利用者からのオーディトリアムの評判はいかがですか?

全国国公立大学病院救急部協議会に参加された医師や看護師の方々は、オーディトリアムを見て感動されていました。「よく病院にこんな施設を作りましたね」と言われましたね。
当院のスタッフは日常的に使っているので、なくなって初めて便利さに気づくような当たり前の存在になっていると思います。コロナ禍が明けてほぼ全ての研修会を開催できるようになったこともありますが、毎日何かしらの予約が入っており、現在の稼働率はほぼ100%です。
取材日:2024年6月
【インタビュー】災害・救急時に強い医療提供体制と 患者・職員に快適な環境を再開発で整備[後編]

インタビュー動画

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