音の響きにこだわったフェニーチェ堺の大ホール
フェニーチェ堺は、2019年10月に開館しました。
大ホールは、オーケストラ・オペラ・バレエ・ミュージカル・ポップスなど音楽系の舞台芸術のほか、講演会・集会などにも対応した多目的ホールです。ホールそのものが楽器であるかのように、壁面から天井まで、音の響きを緻密に計算して設計されています。鮮やかな朱色と黒を基調とした内装が、格調高い雰囲気を演出。クラシカルとモダンが混ざり合う、優雅な空間のホールです。
見やすさを追求した客席の配置
2000席の客席をもつ大ホールは、平土間と3層のバルコニー客席から成ります。3層のバルコニー客席は、客席後方よりバルコニー前席まで段差のあるコの字の形状としており、欧州のオペラ劇場を彷彿とさせます。どの席に座っても見やすいホールを目指し、設計時からさまざまな検証を重ね、各エリアに座席を配置しています。
客席は、舞台を緩やかに囲む円弧状に並んでいます。着席すると、舞台が正面に見えるため、身体を傾けたり首を捻ったりせずに自然な姿勢で鑑賞することができます。通常、舞台が見えにくい左右のバルコニー席も、座った時に舞台を正面に捉えるよう、1席ずつ角度をつけた雁行配置にすることで、問題を解消しています。
また、ホール全体は、客席後方へいくにしたがって前席との段差を大きくする「すり鉢状」の客席形状を採用しています。3層目のバルコニーのイスは、舞台を見下ろす姿勢をとりやすくするために背を床と直角に近づけるなど、場所に合わせてイスの背の角度も変えることで、より鑑賞しやすい客席空間を実現しました。
華やかなホールを演出する、フェニーチェ堺のためにデザインされたイス
ホール空間を彩るイスは、建築家 柳澤孝彦氏がフェニーチェ堺のためにデザインした特注品です。
背や肘当てには、木の温もりを感じさせるオーク材が用いられました。背板の上部は、柔らかな円弧を描いています。さらに、板の厚みを感じさせずスッキリとした印象を与える斜めのカットにより、設置したナンバープレートの視認性も高めています。
脚部をぐるりとふちどる肘当ても、デザインの特徴のひとつ。手が触れる部分を平らではなく山なりの形状にすることで、隣の人に気を遣わずに肘を添えることができます。ふちどりの内側、脚部の角の一部には開口部を設け、重厚な佇まいのイスに軽やかさを加えました。
座には、ユニバーサルデザインの「
スペーシア」を採用しました。座の先端に向かって厚みが薄くなる形状により、着席時に足元の空間を広く確保できます。足を深く引きこめるため、立ち座りがスムーズです。内部には、長時間の着座でも快適に過ごせるよう、コトブキシーティングの長年の研究により開発されたオリジナルのバネが内蔵されています。
たっぷりとしたクッションには、建物の色彩コンセプトである「朱印船の赤」をイメージした赤いモケットを張りました。イスのデザインと同じく、フェニーチェ堺のためにつくられたオリジナルのファブリックです。こちらは、コトブキシーティングのテキスタイルデザインを手掛ける
FABRIKOが手がけました。木部の温かみを引き立て、華やかさを創出しています。
オーケストラによる演奏時には、オーケストラチェア
FC−701Nを並べます。演奏者のために開発されたこのイスは、水平な座面と安定感で、演奏時の姿勢をサポートします。
堺市民会館から生まれ変わったフェニーチェ堺の大ホール。ここでしか味わえない特別な鑑賞体験に出会うため、堺市民のみならず多くの人々が訪れています。
施設概要
フェニーチェ堺は、1965年に会館した「堺市民会館」の老朽化による建て替えで誕生しました。「フェニーチェ」は、イタリア語で不死鳥を意味します。堺のまちが長い歴史のなか、戦禍により焦土と化しても不死鳥のように蘇ってきたことや、中世にイタリアの自由都市・ヴェニスの如しと称されていたことから付けられました。建物の設計コンセプトは、中世の自由・自治都市を彷彿とさせるデザイン。茶の湯文化が隆盛した堺らしい、落ち着いた佇まいで、木々の緑と調和した憩いと安らぎの空間を実現しています。施設の各所には、「朱印船の赤」と「千利休の茶の湯をイメージさせる緑（利休鼠）」が起用され、空間に彩りを添えています。
大小二つのホールのほか、三層吹き抜けの創作・交流ガレリアをはじめ多目的室、スタジオ等が併設。施設と隣り合う翁橋公園と共に、市民の憩いの場として、日々の暮らしに彩を添えています。