学生ファーストの視点で作り上げた
多様な学びと安らぎを提供する校舎[後編]

2023.10.19
インタビュー
【トピックス】学生ファーストの視点で作り上げた 多様な学びと安らぎを提供する校舎[前編]


学校法人純真学園 理事長
純真学園大学 学長
福田 庸之助 氏


清水建設株式会社
九州支店 設計部 設計長
登坂 壮人 氏


コトブキシーティング株式会社
九州支店
多喜田 清佳

学生に憩いの場を提供する1階のカフェ・レストラン

福田
最初、1階を歴史館にしようとしていたことは先ほどお話しましたね。でも、私がいきなり心変わりをしたのです(笑)。歴史館だと学生が気軽に来れませんし、1階に人が集まらないような建物は面白味がない。もう少し学生主体に考えてはという話になりました。やはり、学生が満足することが一番ですから。
多喜田
学生さんファーストということですよね。私も色々な学校のお手伝いをさせていただいていますが、やはりそこが一番大切だと思います。

――確かに最近は、学生が講義以外で利用できるスペースを設ける大学が増えている気がします。

登坂
学校に限らずオフィスでも、自分たちが日常的に長い時間を過ごす場所がいかに快適な環境かということは重視されてきています。
福田
特に看護学科は授業が多く学内にいる時間が長いので、憩いの場が必要ですし、どこかに遊び心みたいなものが欲しいと考えました。また、医療の仕事は心が柔らかくないと務まらないことが多々あります。人の死に直面することで本人が病んでしまうこともあり、それをいかに和らげるかも学ばなければいけないことかもしれません。だからこそ、緑のあるような心が休まる空間が大事なのです。

――カフェ・レストランには食事をする場所以外にも様々なスペースがありますね。

登坂
学生さんが自主学習できる場所が図書館しかなく、選択肢が少ないため増やしてあげたいというお話がありました。それで学生さんが自分の好みの居場所を選べるように、一人用、グループ用など色々なタイプの席をちりばめてみました。
福田
その流れで家具も様々なパターンを考えましたよね。参考になりそうな写真やパースを見ては、こうじゃないか、ああじゃないかと話をしていたと思います。
多喜田
そうですね。色々なシチュエーションに対応する家具を提案させていただきました。入口付近と奥の方では雰囲気を変え、奥にいくに従ってくつろぎを意識した家具を配置するなど、変化を持たせました。レイアウトについても、カウンター周りなど一人で使うことが多いところは、視線が気にならないように配慮しています。
またこの広い空間を緩く区切るという意味で提案させていただいたのが、グリーンやシンボルツリーです。グリーンを入れることで、リラックス効果も高まっているのではないでしょうか。

――天井照明にもこだわっていらっしゃるとお聞きしました。

登坂
床は家具などで隠れてしまいますが、天井は常に全部見えているので、少し雰囲気を変えたいというお話をいただきました。家具も雰囲気の異なるものを色々ご提案いただいていたので、天井が変わればその下の雰囲気も変わり、大空間でもスペースごとに異なる演出ができるのではと考え、高さや形、大きさがランダムなデザインの天井を提案させていただきました。
福田
最初の提案はもっと整然とした感じでしたよね。でも今のように凹凸や陰影があった方が、入ってきたときに面白みがあります。だからといって落ち着かないわけでもありません。
実は、天井が空間や家具にとって重要だと教えていただいたのは、コトブキシーティングさんの深澤会長とお会いした時です。ショールームに行ってお話を伺った際の「空間を決めるポイントは天井」という言葉が非常に衝撃的で、それから部屋に入ると必ず天井を見るようになりました(笑)。
またそのおかげか、ここは一般社団法人 照明学会九州支部の優秀照明施設九州支部長賞をいただいています。

――エントランスの木製建具に使われている大川組子も印象的ですね。

登坂
本物に触れさせたいというお話があったので、家具で有名な福岡県大川市の「大川組子」を採用しています。
福田
空間の中にあるものを見て感性が育つという効果もあるのではという話になり、郷土の伝統工芸を伝える意味も含めて大川組子を入れてもらいました。JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」の大川組子を作った方にお願いしています。扉を幹に見立てて、桜の枝が伸びていく姿をイメージしています。

学生ファーストを第一に考えたチームの創意を形に

――このプロジェクトに関する打ち合わせは、どのぐらいの期間、頻度で行っていたのですか。

登坂
1年以上ですかね。頻度で言えば2週間に1回ぐらいでしたが、多いときは週1回ぐらいやっていたと思います。施工が間に合わなくなるので(笑)。
多喜田
登坂さんは今回のように走りながら進めることが多いのでしょうか。
登坂
内装関係はこうした進め方になってしまうことが多いです。本来は早期に決定することが理想なので、施工メンバーはやきもきしているかもしれません(笑)。最初から内装や家具を含めた完成形をイメージしていただくのは難しいと思うので、パ-スなどをお見せしながら、工事が間に合うタイミングまで検討しつづけるという感じです。
福田
今回は皆さんと色々な話をする中で、思いもしなかったアイデアが生まれることがありました。「セレンディピティ※」という言葉がありますが、1階をカフェに変えたのはまさにそんな感じです。とはいえ、ほぼ設計が決まっていたあの段階では無茶なことを言ったと思いますが。
※セレンディピティ:偶然の出来事から予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。あるいはその能力
登坂
でもカフェの話が出たとき、設計としてはその流れに持っていこうとしていました。1階正面が歴史館になるよりも、常に多くの人が出入りするカフェの方が大学の顔として絶対に良いものになると思っていました。
多喜田
福田理事長からそういうお話が出ても、皆さんがきちんと受け止めるのもすごいですし、次にすぐ提案が出てくるのにも衝撃を受けました。家具工事は、納めるギリギリのタイミングで発注されることも多いので、今回のように早い段階から参加させていただくことで、提案の幅が広がり、とても良かったと感じています。
登坂
私の場合は、提案を考えるときから家具メーカーさんにご協力いただくことが多いので、今回が特別早かったわけではないです。空間を提案する時には箱物だけでなく、ある程度中まで考えてイメージをお渡ししておいたほうが、できあがったときにトラブルになることも少ないですし、良いものができると思っています。

――空間を考える時は家具も一緒に考えて提案した方が良いということですね。

福田
そのお陰で、私も建物ができる前から「こんな風になるんだ」というイメージが見えていた気がします。
多喜田
登坂さんが毎回新しい提案をCGで持ってこられるのにも驚きました。天井のデザイン案の時もCGに弊社の家具も入れてくださっていて、非常にありがたかったです。
福田
でも家具は、CGだけではなく全部実物を持ってきてもらいましたよね。コトブキシーティングさんは一つひとつの家具にこだわりがあるなと思って聞いていました。なぜここにこの家具を置くのかと聞いたときにストーリーがあると面白いですし、興味も湧きます。
多喜田
はい、それなりに意味のある家具をお持ちしたつもりです。今回は比較的自由に提案させていただけましたし、ベースにある大きなコンセプトを守りながら自分なりに考えて、プランニングしていく作業は本当に楽しかったです。
それに、福田理事長の思いをダイレクトにうかがえたことも貴重な体験でした。グリーンを多く入れたプランにしたのも、途中で「ボタニカルにしよう」とおっしゃった福田理事長のアイデアでしたしね。
登坂
今回のプロジェクトでは、皆さんと一緒に作れたことに満足しています。デザイナーの中には自分の主張を強く通す人もいますが、私はどちらかというと皆さんがやりたいことを形にしていくことにやりがいを感じるタイプです。今回はきちんと話をして、その中で皆さんが良いと思ったものを取り入れて作ることができたのではと感じています。
福田
チーム医療ならぬチームプレイですね。一緒にやるチームのメンバーとは楽しく仕事をしたいと思っているので、多喜田さんに楽しかったと言ってもらえたのはすごく嬉しかったです。今回は自分が思い描いたものはほぼ形にしていただきましたし、色々な出会いがあったことも良かったと思っています。
多喜田
今日は、皆さんの変わらぬ熱意あるお話をお聞きすることができて楽しかったです。本日はありがとうございました。

取材日:2023年5月

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