堺の不死鳥で一夜限りのジャズを愉しむ!フェニーチェ堺 鑑賞レポート後編

2023.04.18
レポート
オープンから約3年が経ったフェニーチェ堺で行われた、小曽根真 featuring No Name Horsesの公演「THE BEST」の鑑賞レポート。後編です。

悠久の歴史をもつ街、堺

さて、開場までの間、館内を散策してみます。

「ここ堺は、とても歴史のある街なんです。あちらに見えるのが、大仙陵古墳(仁徳天皇陵古墳)。横から見ると森にしか見えませんが、歩くと一周50分ほどもかかる大きな古墳なんです。この辺りは、古墳がとても多いんですよ。」と語るのはフェニーチェ堺の広報 福尾さん。同じく広報の山田さんは「堺は大昔から人が住んでいたので、地面を少し掘れば何かしら遺跡が出てくる、という街です。新しい建物を建てる時には工事が中断してしまうことも多くて、ちょっと困ってしまうくらいですよ」と笑います。
確かに、フェニーチェ堺の周辺を地図で見ると、きれいな形の前方後円墳があちらこちらにあります。市内に44基もある百舌鳥(もず)古墳群は、ユネスコの世界遺産にも登録されている貴重なもの。上から見られないのがとても残念です。「上空から古墳を見てみよう!ツアー」があったら、きっと参加する人がたくさんいるのでは…!そんな妄想が膨らみます。

堺市役所からの眺め

モダンなフレキシブル空間 ガレリア

フェニーチェ堺は、2000席の大ホールと312席の小ホールのほか、市民がさまざまな活動に利用できるスタジオや多目的室、そして文化交流室からなる施設です。

大ホールと小ホールの間にあるのが、ガレリアと呼ばれる吹き抜け空間。ここでは書道や現代アーティストの展示など、さまざまな催しに利用されているそう。
コンクリートと木というモダンな組み合わせの空間に、トップライトから柔らかな光が降り注ぎ、なんとも贅沢な雰囲気をつくり出しています。


小ホールはプロ公演から市民の発表会まで幅広く活用

ガレリアの隣にあるのが、「茶の湯」の街・堺を感じさせる緑のシートで彩られた小ホールです。

特別にホール内に入らせてもらいました。
ホール後方の扉から足を踏み入れます。近い!舞台上の演者の息づかいまでもが聞こえてきそうな距離感。どの席からも舞台が見やすい客席づくりが、そう感じさせるのかもしれません。
サイドバルコニーのイスは、1席ずつ舞台に向かって据えられています。隣に人がいないだけでなく、少し高い場所から客席を含めたホール全体が見渡せるため、とっても特別感のある席。「きっと、贅沢な気分で見られるんだろうな。」そんな想像が膨らみます。

舞台上から客席を見ると、淡く渋みのある鶯(ウグイス)色に近いイスの張地が、重厚感のある空間に、柔らかさをもたらしています。
「プロの公演だけでなく、ピアノの発表会をはじめとした市民の芸術文化活動の発表の場としても多く利用していただいています。こんなところで演奏できるなんて、子どもたちにとって良い経験ですよね」と山田さん。本当にその通りです。きっとすごく緊張するんだろうなあ。



フェニーチェ堺のイスは、このホールのためのオリジナルデザイン。細部まで凝った意匠で、とても格好良いです!
座の内部には、長時間の着座でも快適さを持続させるための波形スプリングを搭載しています。また、座が先端にいくにつれて薄くなる「スペーシア」の座により、着座時に足を深く引き込むことができます。
「見学ツアーを行っていた時は、どちらのホールでもイスの説明をしていたんですよ。長時間座ってもモゾモゾしない心地良いイスの秘密や、足を引き込めることをお客様にお伝えすると、みなさん感心してくれます」と福尾さん。「客席の中でこれだけの面積を占めているイスですから、影響力は大きいですよ。うちのホールは、プロの方からもお客様からも音の響きが素晴らしいと評価いただくことが多いのです。わたしは専門家ではないので確かなことは言えませんが、きっとそこにもイスが影響しているんだと思っています」
山田さん、ありがとうございます。これだけ褒めていただけるとは!イスメーカー冥利に尽きますね。嬉しい限りです。

ワクワクが止まらない、開演前の客席

さて、そうこうしているうちに開場時間になりました。今日の会場、大ホールへと向かいます。
開場したばかりだというのに、ロビーにはすでにたくさんのお客様が!チケットをもぎった先の2階ホワイエでは皆、パンフレットを手に、話に花を咲かせたり、飲み物と軽食を楽しんだりと、思いおもいに過ごしています。



チケットを片手に、席を探します。客席内には、早くも自分の座席で開演を待つ人が。
3層にわたって並ぶ大ホールのイスは、赤い張地。気分を高揚させる赤い色が、観客のボルテージをいちだんと高めます。
ステージ上には、今日のセットが幻想的なブルーにライトアップされています。小曽根さんは、あのピアノを弾くんだ!あ、コトブキシーティングのオーケストラチェア。ビッグバンドが座ってくれるんだ!こういうのもまた、楽しいひとときです。
「◯◯さん!」「あら、こんにちは。いらしてたんですね。」客席内では、そんな会話もちらほらと。地元の方が気軽に足を運べるホールって素敵ですね。フェニーチェ堺が多くの人に親しまれているのが分かります。


いよいよ開演。身体全体で聴くジャズの音色に酔いしれる

開演ブザーが鳴りました。いよいよ始まります。とくん。とくん。

今回のコンサートは、初のベスト盤をリリースした小曽根真 featuring No Name Horsesの全国ツアーです。15年以上の年月を経て創り出された名曲の中から、10曲あまりが演奏されました。
小曽根さんの、力強くもあり、優しくもあるピアノの音色と力強いビッグバンドの華やかなハーモニーが、まるで物語のページをめくるように次々と新しいストーリーを奏でていきます。ジャズならではの即興のアレンジも多いというNo Name Horsesの演奏。この素晴らしい演奏が即興だなんて!長い年月をかけて築き上げてきた、信頼関係の賜物ですね。
楽曲の中にはそれぞれの楽器のソロパートもあり、コンボ(小編成のジャズ)も楽しめます。まるで全身の毛穴から身体の内側に染み込んでいくような音色を聞いていると「ジャズって耳や五感だけじゃない、全身で聴く音楽なんだ」と感じました。

楽しいひとときは、あっという間に過ぎてしまいます。こういう時、まだ冷めやらぬ高揚感と、終わってしまった寂しさで、席を立つのを少しためらってしまうんですよね。

後ろ髪を引かれながら会場を後にします。
振り返ると、夜空の下で「また来てくださいね」と言っているようなフェニーチェ堺の姿がありました。



音楽は、私たちの日常に彩りを加えてくれます。ストリーミングやCDで聞くのも良いですが、たまには会場に足を運び、生で味わってみてはいかがでしょう。自分の中の何かが満たされたような、満足感や充実感が味わえます。そして、「頑張ってよかった」「明日からまた頑張ろう」そんな活力を与えてくれます。

劇場は特別な空間ですが、決して敷居の高いところではありません。皆さまの、日常の一コマに加えてみてはいかがでしょうか。

取材日:2023年2月10日
取材:広報企画部 M.A

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