「天下の名瀑」の情景を再現
新たな文化発信の場となる文化芸能劇場

2022.10.18
インタビュー
文化を街へ、人へ、未来へ。箕面市立文化芸能劇場は、箕面市の新たな文化発信として2021年8月1日にオープンしました。
1,401席の大ホールは、コンサート・バレエ・ミュージカル・演劇などのライブパフォーマンスから、試写会・講演会などに至るまで、幅広い用途に使用できるホールです。箕面市の観光名所「箕面大滝」の紅葉をイメージした客席には、葉っぱの葉脈を表現したステッチ加工を施した、表情豊かなイスが納められました。
今回は、劇場を含む駅前プロジェクトや、イスのステッチ加工から納入の経緯について、館長の松本氏と、設計を担当された久米設計の兒玉氏・堀川氏にお話を伺いました。


箕面市立文化芸能劇場
館長
松本 清 氏


株式会社 久米設計
設計本部 第4建築設計室 部長
兒玉 謙一郎 氏


株式会社 久米設計
設計本部 第4建築設計室 主査
堀川 知行 氏

駅の新設へ向けた、駅前開発プロジェクト


――箕面市立文化芸能劇場をはじめとする、今回のプロジェクトの全体像についてお聞かせください。

兒玉
このプロジェクトは、繊維問屋が大阪市の船場地区から(箕面市へ)移ってきた50年ほど前から要望されていた新駅の設置に伴い、周辺まちづくり事業の一環として文化施設が計画されました。劇場・図書館・生涯学習センターの三つで構成された建物の奥には、大阪大学の外国語学部のキャンパスが入るという全体計画です。施設の前の広場はペデストリアンデッキで各施設を歩行者が自由に行き来でき、その下の1階は駐輪場、しかも駅前という、とても便の良い施設になっています。
設計者としてやるべきことは、駅前の顔を作るべきことだろうと考えました。
まず、図書館は大阪大学さんの運営になりましたので、キャンパスに近い北側に配置しました。晴れの舞台である劇場は、駅側からシンボリックなボリューム(大きさ)が見えるような形で配置した方がいいだろうと。さらに、ボリュームを分割して箱状にし、それぞれの箱に個性を持たせることで、市民が親しみやすく使いやすい施設になるようにつくりました。箱は、上へ行くにつれてセットバック(道路から後退)し、歩行者に威圧感がなく立体的なつくりにすることで、より賑わいが醸成されていくことを期待しました。
※ 北大阪急行電鉄の南北線を延伸する事業が2017年に着工。2023年度中に箕面市立文化芸能劇場の最寄りとなる「箕面船場阪大前」駅が開業する。

松本
外観は、「箕」をイメージされたというふうに伺っております。

兒玉
外観は、ボリュームを分節して箱が連なる構成にしています。その箱に特長を持たせ、駅前の顔作りということで箕面らしさを考えたときに、箕面の「箕」という文字が浮かびました。「箕」は、穀物のもみ殻を分別するときに使う籠の農機具なんですね。あと、もう一つは、敷地である繊維団地が繊維をずっと取り扱っていたということで、その繊維と「箕」を使った表現ができないかと考えて、大ホールの上のボリュームを、金属のパンチングを編み込んだような造りにしました。
また、小ホールの上にあるリハーサル室のボリュームでは、ルーバーを用いて少し繊維っぽい表情を持たせています。そうすることにより、大きな箱に特長が出てきて、より軽快な表情になり、賑わいを醸し出すのに一役買っているのではないかと思っています。

松本
建物の設計理念というものを受け止めて、それを忠実に守っていきたいなと思っております。意図してつくっていただいたものを生かすということと、ご利用者の大半になられる市民の皆さまに喜んでいただける施設でいることを、日々心がけております。

箕面大滝の情景を再現した大ホール


――大ホールは、観光名所の「箕面大滝」をイメージしたデザインだと伺いました。

兒玉
大ホールは、箕面の観光名所でもあります「箕面大滝」(箕面公園内)を想い描いてつくりました。岩場に囲まれた紅葉がきれいな滝を見て「このような空間でいろいろな演目を観られたら良いな」と思ったのです。
天井は、木々の重なりから木漏れ日が落ちるように天井を分割して照明を設け、壁面は、岩肌と滝をイメージした縦強調にしています。座席に関しては、滝壺の滝が落ちた辺りに水紋が広がるような形状(の座列)にして、そこに紅葉した葉が落ちて全体に広がっていくイメージです。そこに、皆さんがお座りになっていろいろな公演を聴けることで、箕面らしいホールになるのではないかということを期待しました。

――客席は箕面大滝の紅葉を、イスは一枚一枚の葉っぱを表現しているのですね。

堀川
はい。イスの張地には、箕面大滝の紅葉を見た方が「わぁ」と感動するような、印象的な日本の伝統色4色を選びました。そして、その色味の中に、葉っぱ(紅葉)の葉脈をイメージしたステッチを入れることによって、箕面らしさを全面的に表現しています。
葉っぱのモチーフはステッチ以外でも表現しています。たとえば、イスの側面の板は葉っぱの形状を模して少し角を取っています。また、劇場は観客が後ろから入ってくるので、背面からもデザイン的なエッセンスを入れられないかと考え、背板の下部に葉っぱのラインを感じさせる溝を掘りました。中央は、塗料を薄塗りして木目が少し見えるように、そのサイドは濃い色にすることで葉っぱの形が浮き出るような工夫をしています。

  

松本
大ホールのなかに入った第一印象は、雰囲気があたたかいということです。客席が非常にカラフルなのは少し心配もありましたが、実際に公演をしていただきお客さまが入ると、非常に評判が良いです。座り心地と、4色を使ったこの色彩がとても良いと。
出演者の方々からも、「やりやすい」と言ってくださる方がいます。これは言っていいのかどうか分かりませんが、4色をランダムに散りばめているので空席が目立ちにくいというのも、非常に大きな要素なのかなと(笑)。1色ですと、空席が目立ちますが、そういうことをある程度気にしなくても演じていただけるという意味では、大きなメリットだと思っています。

表現手法としてのステッチ加工


――ステッチ加工は、いかがでしたでしょうか。

堀川
設計のチームで「箕面大滝」をモチーフにすると話し合ったときに、新しいイスの可能性を探りたいということになりました。そのなかで、 “ここにしかないステッチ”というものを表現するのはどうかと。そこでコトブキシーティングにどういうことができるかと相談したところ、アール加工のステッチができるという回答をいただき、可能性が開けました。
こちらが描いた線に対してドンピシャのステッチをつくっていただき、良い塩梅のものができました。他の部位に関しては、塗装の塗り分けを何回か作っていただいたり、脚部側面の曲線を描いた形状も、何パターンか作っていただいたりして、チームのみんなで確認して採用に至りました。イスに関しても、サンプルを館長にも座ってもらい、座り心地を体感していただきました。

松本
座り心地が本当に良いです。長時間座っていても、疲れないイスだと思います。なにより、ステージを観やすいというのが、よく考えてくださったなと。快適性の理由の一つとしては、前後の間隔。非常に細かいことなんですが、お客さまの前を通らなければいけないときに、通りやすい配慮がなされている。そういうことも含め、非常に評判が良いです。



兒玉
今回は、イスに表情が描ければより紅葉の葉に近づくのでないかと考え、どのように表現できるか検討しました。ステッチは思っていた以上に効果があるので、館長がおっしゃったように空席時の景観などにも考慮しながら、今後はもっとデザイン表現の可能性を探って考えていきたいですね。

堀川
舞台照明という言葉があるように、ホールというのは、照明やライティングというのが非常に重要な施設だと思うんですよね。ステッチは、最初に現品サンプルを事務所で見たときと、ホールに入って見たときの印象が少し違っていて。なにが違うかというと、やはり陰影かなと。ステッチによる影や、明るいところと暗いところの彫りの深さが、とても面白いなと感じました。そこに着目して、今後、何かできたらいいなと思います。

松本
本当に、ご利用者の方には評判が良いですね。私も、これほどまで完成度の高いイスは見たことがないです。「主張し過ぎているのか」と思ったら、そうでもない。きちっと観るものに集中できる環境をつくっていただいたなと思います。なにより、こういう色彩は入ったときに気持ちが高揚するんですね。良く考えられているなと、思っております。

箕面市の未来を担う、人にやさしい日本一の劇場


――今後の箕面市立文化芸能劇場に対する期待や、これからの展望などをお聞かせください。

兒玉
開館して、いろいろと嬉しい言葉をいただいているようで、ホッとしています。これから駅が開通して、人ももっと多くなって、さまざまな演目や講演が催されるのが非常に楽しみですね。大ホールのホワイエの前には「ステップ広場」というスペースをつくっていますので、そういうところでイベントをしたり、(劇場の)内部と外部がリンクしたりするイベントがあると面白いのではないかと。いろいろと期待しています。

堀川
このホールは、デザインだけではなく音にも非常にこだわっていて、「箕面大滝」の岩肌を表現したコンクリートの壁は木リブを混ぜたデザインにしています。私がオーケストラの演奏を数回聴いて思ったのが、低音の豊かな響きの跳ね返り方は、ちょっと他のホールにはない響きじゃないかなと。音にこだわったいろいろな演目が開催されて、箕面市民の方たちがレベルの高い文化芸術に触れ合える機会が増えたらいいなと考えています。

松本
いずれ鉄道が開通した折には、プロの皆さまに頻繁に使っていただくような劇場になると思います。それから、「人にやさしい日本一の劇場」ということを箕面市様とお約束していますので、それを実現すべく、努力をしたいと思っております。


――箕面市に新たな価値を生み出す箕面市立文化芸能劇場のこれからが楽しみですね。本日はありがとうございました。

関連リンク

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箕面市立文化芸能劇場 WEBサイト
取材日:2022年5月

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