「泊まれるキャンパス」へと進化 学生の教育と研究を支える一時休憩施設が誕生(龍谷大学瀬田キャンパス Rest Nest)

2025.09.02
インタビュー
龍谷大学瀬田キャンパスは、1989年に創立350周年記念の一環として、滋賀県大津市のびわこ文化公園都市に誕生しました。先端理工学部と農学部の大学生、先端理工学研究科と農学研究科の大学院生が学びに励んでいます。2024年7月には、学生や研究者の共創を促す新たな施設として、ウッドデッキ「Green Deck(グリーンデッキ)」、「Sky Deck(スカイデッキ)」、教育研究用宿泊施設「Rest Nest(レストネスト)」が完成しました。なかでもレストネストは、カプセルベッド20床を備えた、1泊1,000円で宿泊ができる全国的にも珍しい施設として、大きな注目を集めています。
この施設のアイディアが生まれたのは、瀬田キャンパスの新しい姿について考える、教職員によるワーキングでした。そのメンバーであった、農学部資源生物科学科の教授である大門弘幸氏(当時担当副学長)現在瀬田キャンパス推進室の部長を務める河村由紀彦氏(当時瀬田事務部長)に、プロジェクトの背景や、運営方法、学生からの評判などについて、お話を伺いました。


龍谷大学 
農学部資源生物科学科 教授 大門 弘幸 氏(写真左)
瀬田キャンパス推進室 部長 河村 由紀彦 氏(写真右)

新たな瀬田キャンパスの姿を描く、教職員のワーキンググループ


Green Deck


Sky Deck


Rest Nest

――2024年7月、「Green Deck(グリーンデッキ)」、「Sky Deck(スカイデッキ)」、そして「Rest Nest(レストネスト)」の3施設が新たにオープンしました。これらの建設プロジェクトは、どのようにスタートしたのでしょうか。

大門
瀬田キャンパスは緑豊かな自然の中にある、郊外型のキャンパスです。2025年4月に社会学部が京都の深草キャンパスに移転したため、現在は先端理工学系と農学系の学部生、大学院生たちがここで学んでいます。授業を受けたり、研究に励んだり、サークル活動をしたりといった、キャンパスに滞在するこれらの時間をもっと快適にできないだろうかと、教職員が集まって新しい瀬田キャンパスの姿について考えるワーキンググループが2022年に立ち上がりました。
ワーキングが始まった当時は、瀬田キャンパスには社会学部もあり今よりも学生が2,500人多く、ゆっくりお昼を食べる場所を探すのも大変な状態だったので、学生たちが落ち着ける場所づくりは、大切な課題でした。それから、好ましいことではないのですが、夜間の研究や早朝の調査などのために、研究室に寝泊まりする実態があったので、心地良く泊まれる場所があるといいよねという意見も出ました。グリーンデッキ、スカイデッキ、レストネストのスタートは、そこからでした。
河村
瀬田キャンパスに通う学生の8割は、自宅通学生です。家に帰るためには、路線バスがなくなる前にキャンパスを出なければなりませんが、深夜まで実験機器を動かしたりする必要があると、それができないんです。そういう学生たちが安心して研究に従事してもらえるための施設が必要であり、それが大学の教育研究の質の向上にも繋がっていきますよね、と話を進めていきました。
大門
最初は予算面で難しいかと思いましたが、河村部長が頑張ってくれました。(笑)
河村
ウッドデッキの一部に関しては、県から『びわ湖材利用促進事業』の補助金をいただきました。本学は全国の大学に先駆け「カーボンニュートラル宣言」※1と「ネイチャーポジティブ宣言」※2を発出しており、その観点を新たな施設にどう生かせるか課題だったのですが、ちょうど滋賀県が、地元産材であるびわ湖材を利用した建築や家具を推奨していたタイミングと重なったのです。もともと建設計画当初から、できる限り地元産材をと考えていました。レストネストの内装にも使っています。
大門
地元産材を利用することは、学生たちにとっても貴重な機会になると考えていました。木材はいったいどこから来るのか、その切り出しから製材、そして森の管理が琵琶湖にどのように影響していくのか。施設をつくることがひとつの教育になって欲しいというのが、私たちの願いだったんです。実際に山に足を踏み入れるため、あまり多くの学生は難しいということで、10名ほどに参加してもらい、伐採や製材などの各プロセスを体験してもらいました。

学生目線で始まった、カプセルベッドを利用した宿泊所づくり

――レストネストは、当初から現在のようなカプセルベッドを利用した宿泊形態が検討されていたのでしょうか?

河村
学生の自治団体である学友会を中心に、どんなものがあればいいのか、アンケートを取ったりヒアリングをしたりして、決めました。私たち教職員と学生との考えはだいぶ違うところもあったので、大変参考になりました。たとえば、今の学生たちは漫喫(漫画喫茶)世代。昔であれば、合宿所とか研修所、学生寮のようなものをつくったのかもしれませんが、彼らはそういう重厚なものよりも、簡単に泊まれて便利なものがある方が利用しやすいという考えでしたね。
大門
休むことができて、シャワーが浴びられて、泊まれる場所。学生ひとりひとりのスペースが必要だろうと、個室型の宿泊施設の検討が始まったんです。
河村
今の学生たちは、就職活動で遠方に行くときに、カプセルホテルを利用することも多いのだそうです。最近のカプセルホテルはオシャレで泊まりやすいという話を聞いていたので、瀬田キャンパスでも、カプセルベッドが使えるのではないかと考えました。コトブキシーティングさんに問い合わせをして、カプセルベッドを紹介していただいたとき、東京歯科大学さんの合宿所にも導入されていることを知って、見学に行かせてもらったのですが、既存の施設を改修して使っており、大変参考になりました。建物を新築すると建設費用や運営の負担リスクも高いですが、カプセルベッドならば、うちでもリノベーションで対応できそうだと動き始めました。

――学内に宿泊施設をつくるにあたって、これまでの施設づくりとどのような点が異なりましたか?

河村
旅館業法に触れるかどうかが、課題となりますね。自治体ごとに取扱いが異なる場合もありますが、今回の施設は保健所の方から、旅館業法に該当する施設との連絡がありましたので申請を行い、現在は、旅館業法に適した簡易宿泊施設として、許可を得て運営をしています。また、学内の施設ですので、消防関係はもともとしっかり押さえており、すんなりとクリアできました。

ノンヒューマンオペレーションで快適な宿泊空間を実現

――レストネストがある場所は、もともと教室だったそうですね。

河村
そうです。社会学部が京都(深草キャンパス)に移転して、必要な教室の数が減るタイミングだったので、有効利用できました。
大門
あの教室がこれだけ変わるのかとびっくりしました。本当に綺麗になりましたよね。
河村
オープン後は1週間ほど見学会を開いたのですが、学生たちもびっくりしていました。男女別に分かれていて、カプセルベッドは男性用が14床、女性用が6床です。最初のミニマムスタートとして、ちょうど良い数でした。増床できるスペースは残してあるので、稼働率が上がれば増やすことができます。

――宿泊予約や運営は、どのように行われているのでしょうか。

河村
予約は、学内のポータルサイトから申し込みます。電子決済後、その日限りのQRコードが発行されるので、入口にあるリーダーにかざして入る仕組みです。守衛がキャンパス内を夜間巡回する数は増やしましたが、フロントはありませんし、稼働時間に施設内にスタッフが入ることもありません。運営のための人手を増やさない方法は、計画当初から考えていました。チェックインは夕方4時、チェックアウトは朝11時なので、次のオープンまでの間に清掃が入るだけです。既存の取引があった業者さんで完結しています。
大門
キャンパス内の建物全館は、自動的に夜8時で閉まるので、入る時には職員証や学生証をかざす仕組みになっています。レストネスト内だけでなく、校舎内に誰がいつ入ったか、全て管理がされているので、セキュリティ面は安心ですね。
河村
入室記録を見ると、予約が遅い時間だったり、夜中に出入りしたり、学生たちがコンビニエンスに使っていることがよく分かります。稼働率は平均30%です。もっともっと利用して欲しい思いもありますが、年度末など研究が佳境に入るタイミングで利用者が増えたので、狙い通りでした。今後は、平均50%くらいを目指したいです。

――学生さんや先生方以外に、職員の方が利用されることはありますか?

河村
基本は学生のための施設ですが、何人か泊まったことがあります。遠方に住んでいる職員が、入試など朝早く来る必要があるとき、利用しました。通勤路で災害があって電車が止まって帰れないときなどの緊急時の対応など、目的がしっかりしていれば、上長の許可を事前に取って、宿泊が可能です。

隣の音も部屋の光も気にならない、快適なカプセルベッド

――実際に宿泊した学生さんからは、どのような感想が集まっていますか?

大門
非常に評判がいいです。どの学生も、「きれいですね」って声をかけてくれます。シャワーは男性用が3室、女性用が2室あり、いずれも清潔でいいシャンプーが揃っていますし、洗面所にはドライヤーもあります。女子学生からは、ヘアアイロンをセットして欲しいという声が出ているくらいです。
カプセルベッドも快適です。もっと隣の音が聞こえると思っていたのですが、特に気になりませんね。自分のいびきが他の学生に聞こえているのではと心配はしていますが、聞こえてきたことはありません。カプセルが並ぶ部屋に入ると自動的にセンサーライトがつくので、夜中に誰かがトイレに行くときなどは明るくなるのですが、ベッドの出入り口にあるスクリーンを閉めていれば大丈夫です。眠りが浅いとき、たまに気が付くことがあるくらい。ベッドの幅も、長さも、高さも問題ないです。宿泊はせずに、ちょっとシャワーをする、休憩するといった使い方をしている学生もいます。静かなので、自分の世界を確保できるのがいいですね。
河村
これまで泊まった職員も、快適だと言っていました。学生からも、マイナスな評価はないですね。ニーズにうまくマッチしたのだと思います。ラウンジも、家具を無印良品さんにコーディネートしていただき、自宅のようにリラックスできる雰囲気になったと思います。
大門
毎年、いろんな地域の保護者の方との懇談会があり、去年からはレストネストの紹介も行っているのですが、保護者の方からも評判がいいです。研究室の床で寝るという話は、全国的に珍しくはないですが、親御さんからするとやっぱり心配で、こういった施設があると安心いただけるのかなと思います。


洗面所


カプセルベッド


ラウンジ

豊かなキャンパスライフを創造する次のステップ

――オープンから約1年、順調に運営が進められてきたことがわかりました。これからの目標を教えてください。

大門
この施設の存在を知らないという学生もまだまだいるので、今後の認知活動は課題ですね。
河村
学期始めなどに定期的に内覧会をしたり、オープンキャンパスで公開したりはしています。ただ、中を見てもらったとしても、実際にどういったシチュエーションで使えるかと必要性を感じ取ってもらうのが1~2年生には難しい。学年が上がって研究や先生の指導が厳しくなったときに、思い出してもらえるような取り組みをしていきたいです。閑散期に、ゼミ単位で泊まってもらう企画もスタートしました。知ってもらう、体験してもらうことが大切だと思います。
大門
全国的に、特に理系の学部は、研究室で雑魚寝したり寝袋を敷いたりするのも当たり前でしたから、こういう施設があれば清潔で安全に泊まれます。瀬田キャンパスのへの進学を検討する受験生にも知ってもらえるように、広報活動をしていきたいですね。
このような施設ができて瀬田キャンパスがさらに魅力的になればいいなと思って立案しましたが、正直、なかなか難しいだろうとも思っていました。関係者の方々の理解で実現できたプロジェクトです。次のステップにも期待したいですね。

――何か意見やアイディアは届いていらっしゃいますか?

河村
BBQする場所をつくって欲しいと言われています(笑)
大門
国内外から研究者などが来日したときに、中庭でBBQしながら交流を深めることができるような大学もあるんですよ。火の扱いなど課題はいろいろありますけど、そういうのっていいですよね。
河村
ウッドデッキやスカイデッキにはコンセントがあるので、「電気プレートでBBQするのもいいよね?」なんて声もありました。あそこは夜のライトアップも綺麗で、虫の声を聴いたり風を感じたり本当に気持ちが良いので、そういう気分になるのもわかります。
大門
レストネストも、そういった柔軟な発想から辿り着いたわけですからね。
河村
自然に心を配りながら新しいものをつくることができて、それを感じることができる場所があって、キャンパスでの生活が豊かになっていく。この流れが次に繋がっていくといいですよね。

――これからが楽しみですね。ありがとうございました。

※1 カーボンニュートラル宣言…世界的に深刻化する気候変動を背景として大学が表明した、カーボンニュートラルを先導するため国内外に表明する決意。創立400周年を迎える2039年までにカーボンニュートラルを実現することを目指し、大学運営の脱炭素化だけでなく、カーボンニュートラルの担い手となる次代の要請に応えた人材の育成に取り組むこと等を標榜している。
※2 ネイチャーポジティブ宣言…持続可能な社会の実現に向けて、ネイチャーポジティブを先導する大学としての決意を広く社会へ表明し、それに資する取り組みを推進する、日本の大学で初の宣言。2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させ回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」には世界目標が定められており、それに向けた行動が国内外で求められている。

取材日:2025年5月

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