開かれた議会と空間の有効活用を目指し
議場に移動観覧席を導入

2025.03.27
インタビュー
山口県美祢市では、老朽化や耐震性などの問題から60年以上経過していた本庁舎を建て替え、2023年11月から新庁舎の運用を開始しました。地上3階建ての新庁舎は、市民サービスの充実とコンパクト化を両立させ、施設のセキュリティ対策やデジタル化への対応、多種多様な相談に対する機能の充実、バリアフリーやユニバーサルデザインにも配慮しました。
本庁舎3階に配置された議場は、「議会と市民がつながる一体感のある庁舎」を基本方針に、効率的な議会運営を行うための機能を保ちつつも、市民が議会を身近に感じられる開かれた議会を目指して計画されました。議場は多目的に利用できるようにフラット形式の床とし、移動式の議場家具を採用。傍聴席にはイスを収納・展開できる移動観覧席を導入し、議会以外のイベントにも対応可能な空間となっています。今回は市民に開かれた議会を目指す議場の利用内容や運営状況について、議会事務局の岡﨑基代氏、建設課の中島高輝氏と白井宏生氏にお話を伺いました。



美祢市
議会事務局 局長 岡﨑 基代 氏(写真中央)
建設農林部 建設課 副主幹 中島 高輝 氏(写真左)
建設農林部 建設課 主査 白井 宏生 氏(写真右)

美祢市の新たなシンボルとなる新庁舎

――庁舎建替えの経緯について教えてください。

中島
全国的に市町村の庁舎建替えが進んでいると思いますが、美祢市についても新本庁舎の建設と既存の第一別館の改修が完了し、2023年11月から新たな本庁舎の運用を開始しました。
旧本庁舎は1959年に建設されたもので60年以上が経過しており、経年による老朽化の進行、耐震性の不足、繁忙期の窓口スペースやバリアフリー対応の不足、業務の分散化といった多くの課題を抱えていました。そのため、市民の利便性の向上、耐震性の向上による安全・安心の確保といった観点から、本庁舎の建替えと隣接する第一別館の全面改修を決定しました。

――駐車場だった敷地を利用されたのですよね。

中島
計画当初は美祢駅の近くや他の遊休地など、4~5箇所の候補地がありましたが、経費や利便性などを考慮して庁舎の敷地内に建てることになりました。
敷地内での配置については、継続して利用する第一別館との連続性を考えて現在の場所になっています。第一別館は本庁舎に比べて新しかったために、改修して引き続き使用し、新庁舎と渡り廊下でつなげることで一体的に利用しています。
岡﨑
新庁舎の配置については、山並みや厚狭川沿いの桜が見えるということも、大きなポイントになっています。厚狭川の桜並木は美祢市の豊かな自然の象徴ともいえる景観であり、そこに向けて開けた庁舎配置を考慮しました。

――ほかには、どのようなことに配慮して建設されましたか。

白井
市民の利便性に配慮して、今まで別の場所にあった農林課、農業委員会事務局、健康増進課、上下水道局、選挙管理委員会事務局が新本庁舎に入りました。近隣への圧迫感や日陰の軽減を図るために3階建ての低層にするなど、当初の計画より建築面積や延床面積が縮小となり設計の見直しもありましたが、予定されていた機能を可能な限り集約しています。
中島
市民の方が多く利用する窓口部門を低階層に集約するなど、利用面でのメリットは増えたと思います。


それと今回は、市のシンボルになるような市民に愛される庁舎ということもコンセプトの一つになっています。そのため建物全体に美祢市特有の材料を積極的に取り入れました。美祢市産の材木である美秋材は、ベンチやカウンターなどの造作家具や建具の一部、議場の家具や壁にも使用しています。ロビーの天井と屋外庇下のルーバーも美秋材で、1階がヒノキ、2階はスギです。
白井
また美祢市は、石灰岩や大理石の産地でもあります。そこで石灰岩を材料にしたセメントや漆喰を内装や外装に採用したほか、大理石も一部の壁仕上げ材や総合カウンターなどの家具に利用しています。

多目的利用やバリアフリーに配慮したフラットな議場

――3階の議場に移動観覧席が入っていますが、議場としては珍しいですよね。ちなみに、これまでに移動観覧席をご覧になったことはありましたか。

白井
あります。美祢市が分譲を進める来福台という住宅地があるのですが、そこのコミュニティセンター的な施設となる「美祢来福センター」に移動観覧席が入っています。
岡﨑
議場については当時の議員で検討し、せっかくなら有効活用したほうがいいのではということで、多目的に利用できる設計になりました。最近は色々な議場があり、フラットな形式の床も見るようになりましたが、移動観覧席が入っているのは珍しいかもしれませんね。
中島
議場としての機能をいちばんに考えた上で、さらに多目的に利用するにはどのような傍聴席が良いのかを試行錯誤した結果、最終的にフラットな平土間と移動観覧席にたどりついたようです。
それと、バリアフリー、ユニバーサルデザインへの対応も理由の一つです。車イスを利用される方にとっては、やはりフラットな方が利用しやすいはずです。傍聴席が高い位置にあるとそこまでのスロープを設置する面積も必要になるので、平土間が有効という結論になりました。

――以前の議場の傍聴席はかなり高いところにありましたよね。

岡﨑
傍聴席に行くためには、急で狭い階段を登らなければいけなかったので、そもそも車イスの方は傍聴することができませんでした。でも今の議場は、エレベーターで上がってくるとすぐ近くに傍聴席の入口があるので、スムーズに入ることができます。
庁舎全体に言えることですが、エレベーターが設置されたことは効果が大きいですね。以前の庁舎は階段しかなかったので、高齢者や障がいのある方には負担をかけていたと思います。今はエレベーターがあるので、「3階です」という案内もしやすいです。

――イベントを行う時の家具の収納、配置作業はどなたがやっているのでしょうか。

岡﨑
基本的には議会を行う状態で家具が並べてあり、イベントで使う時だけ家具を収納して、終わったら原状に戻しています。家具の移動は担当する課の職員が作業するのが基本ですが、場合によっては建設課(旧庁舎整備推進室)の担当職員に立ち会ってもらっています。それぞれの家具をどうやってたたむとか、どこに収納するかなどのマニュアルがあり、それを見ながらやっています。手順通りに上手に収納しないと、倉庫に入らなくなるのです。
中島
家具を収納するにあたっては、どういう順番でどこに置くか、どういうふうに並べるかなど細かい注意点が色々ありまして、庁舎整備推進室の元室長がウンウン言いながらマニュアルを作っていました(笑)。
普通、家具の取扱説明書は、イス、机などそれぞれ分かれていますよね。そこでこれらをひとつにまとめて、議場の家具全部の出し入れの流れを整理した手順書を作成したものです。

――通常何人ぐらいで作業しているのでしょうか。

中島
最低でも4人は必要だとは思いますが、できれば10人程度いると助かります。
移動観覧席については、おそらく一般的には電動タイプが主流だと思いますが、保守点検などのランニングコストが増えますよね。そのため、なるべくメンテナンスフリーにしたいということで、ここは手動タイプを導入しました。

市の行事を中心に様々なイベントで議場を活用

――議場は、実際に議会以外にも使われていますか。

岡﨑
はい。ほかの市町村が貸出しする場合、利用料金を取っているところもあると思いますが、美祢市ではそうした運用は行っていません。庁舎の中の会議室のひとつというイメージなので、一般の人が誰でも借りられるというわけではないのです。現在の利用は市の担当課が主催する行事、言い方を変えると担当する課が使用について責任を持てるイベントという考え方です。

――現在の利用状況を教えてください。

岡﨑
3、6、9、12月に定例議会があり、その月の5日間ぐらいが実際に議会で利用されている日数です。それ以外の1、5、8、11月にも臨時議会があります。
議会以外でこれまでに使用したのは、落成記念式典、功労者表彰式、戦没者追悼式などの市のイベント、子ども議会、中学生の立志式などですね。

中島
新庁舎の市民説明会などで議場の多目的利用という意見は出ていましたので、市民の中にも新しい議場を使ってみたいという要望があるようです。
岡﨑
特に議場は壁にも美秋材が使われていて、雰囲気が良いですよね。最初の頃は木の香りもかなりしていました。
10月5日に行われたコンサートは、市民の方から議場でやりたいと要望があったそうで、美祢市教育委員会に共催していただくことで実現しました。コンサートのタイトルが「136人のためのコンサート」で、この議場の席数が名前の由来になっています。この時は移動観覧席に加えて、前にスタッキングチェアを並べて使用していました。

――以前の議場でも議会以外に使ったことはありましたか。

岡﨑
旧庁舎の議場でも、市の功労者表彰では毎年使用していました。でも可動式ではない家具を動かすのは本当に大変でしたね。
中島
その時に比べれば、今はかなり楽になったと感じています(笑)。

新庁舎整備をスタートにまちづくりが本格化

――新しい議場になって、傍聴者が増えるなど何か変化はありましたか。

岡﨑
傍聴する方の中に、いわゆる議会のコアなファンではない方、私が見たことのない方がいらっしゃることがあるので、人数が増えたかもしれません。中に入らなくても外の傍聴ロビーにあるモニターで議会中継を見ることができるので、何かのついでに寄ってみたという感じで見ている方もいらっしゃいますね。
白井
議会の様子は庁舎内の全部のモニターに映っているので、議場のあるフロア以外でも見ることができます。エントランスホールの大型モニターをはじめ庁舎の主要な所にモニターがあり、市民だけではなく職員も見ていますね。
中島
旧庁舎の時は、傍聴席に上がる階段のところまで行って聞いていたのですが、今は自席でも見ることができるようになりました。

――まさに市民に開かれた議会という感じですね。

岡﨑
そうですね。以前から議会の情報発信やPRについては意識していました。これまでは、美祢市有線テレビという地元のケーブルテレビ局のカメラマンが議会を撮影し、録画したものをテレビで放送していました。今は議会システムにより、リアルタイムに議会の様子を庁舎内で流すことができるようになり、また録画したものをケーブルテレビで放送しています。

――新本庁舎が完成したことで、市民の生活にも色々変化がありそうですね。

白井
本庁舎の整備は終わりましたが、現在本庁舎以外にも美東地域・秋芳地域のまちづくりセンター(新総合支所)の庁舎整備事業が進んでいます。建物は2024年度中に完成予定です。
また図書館についても今は庁舎の敷地内にありますが、別の敷地での建設が検討されています。市庁舎と美祢駅をつなぐ厚狭川の桜並木の辺りが候補となっており、これらを連携させることで美祢市の新たな人の流れや賑わいづくりに取り組んでいく予定です。

――そんなに多くの整備事業が同時に進んでいるのですか。

岡﨑
美祢市は2008年に当時の美祢市、美祢郡美東町、秋芳町の1市2町が合併してできた市で、以前の町役場だった建物が総合支所になります。合併した市町村が借り入れできる合併推進債の期限があったので、それに合わせて各庁舎の整備計画なども進めていった状況です。
中島
美祢市ではこれまで市役所周辺の中心市街地地区整備に向けて、市民ワークショップも行いながら様々な計画を進めてきました。庁舎完成後はこれらの集大成として、本格的にまちづくり事業に移行していくことになると思います。

――すべての整備が完成した時の美祢市が楽しみです。本日はありがとうございました。

取材日:2024年9月

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