1888年の開学以来、136年の歴史をもつ千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院。2016年の学校法人武蔵野大学との合併を機に、様々な変革を進めてきました。2018年に旧:千代田女学園高等学校を男女共学化し現在の名称へ変更、千代田区初の国際バカロレア認定校となりました。また2022年には、旧:千代田女学園中学校を男女共学化し現在の名称へ変更、一時休止していた中学校の募集を再開しています。そして2025年4月からは学校名を「千代田中学校・高等学校(予定)」へと変更し、中高一貫校として再スタートすることになりました。
こうした新体制に向けて、施設のリニューアルも進められています。その一つとなる視聴覚室は、2024年3月に家具のリニューアルが終了。120席の座席は、鮮やかな赤のイスの中に黒のイスがアクセントとして配置されており、劇場を思わせるような印象的な空間となっています。今回は千代田国際中学校と武蔵野大学附属千代田高等学院の校長であり、視聴覚室のリニューアルにも関わられた木村健太氏に、学校における環境づくりの重要性についてお話を伺いました。

学校法人 武蔵野大学
千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院
校長
木村 健太 氏
学校コンセプトを反映した施設リニューアル
――この視聴覚室は30年以上コトブキシーティングの机・イスを使っていただいていました。今回のリニューアルでは、木村先生も積極的に打ち合わせに参加されていたそうですね。

学校にとって施設は、目的に合わせて整備することはもちろんですが、学校のコンセプトや想いのようなものを反映する場所としても重要です。特に視聴覚室は、学年集会のように大人数で集まることが多いですし、生徒以外の保護者や外部の方々が利用される機会も多い場所です。施設の印象が与える影響力が大きいので、単なる修繕ではなく、学校のコンセプトを反映するようなリニューアルにしたいと思いました。
私は、ここ(視聴覚室)は何かを主張する場所というよりは、共有する場所、みんなでシェアする場所だと考えています。もちろん生徒はITでもつながっていますし、メタバース上でもやりとりしていますが、やはり一堂に会する場は大切です。このステージに立ったら、生徒は緊張するかもしれませんが、同時にワクワクするのではないでしょうか。ハレの舞台に立ち、その場で投げかけられた質問に答え、その場にいる人たちの色々な想いをシェアする、そうした体験の場にして欲しいと思っています。
――視聴覚室以外でもリニューアルを行っているのですか。

校舎全体を建て替えるような大規模な工事ではありませんが、ピンポイントでは進めています。いま急ピッチで進めているのは、サイエンス関連の施設です。
本校が取り組む「研究」を軸にした学びは、実験設備や器材なども必要ではありますが、“本物”である外部の専門家の方々との連携が非常に重要です。そのため、生徒たちが様々な人から話を聞き、ディスカッションできる施設が必要ということから、視聴覚室を優先的にリニューアルしました。コミュニケーションスペースとしては、ほかにも2018年にできたARC(アカデミックリソースセンター)という施設があります。アクティブラーニングスペースや個人学習エリアを備えた図書室で、プロジェクターにもなるホワイトボード、移動式テーブルなどがあります。ARCはIT設備が充実し、視聴覚室は大勢で情報を共有できるという特徴があるので、目的によって使い分けています。
――視聴覚室の主な用途を教えてください。
中学・高校の両方で利用しています。生徒の学年集会や模試の会場として、また授業では英語のほかに、個人やグループで発表する時に使っています。本校では教科以外にも「リベラルアーツ・プログラム(LAP)」という時間があり、専門の外部講師の方を招いて実社会とのつながりを学んでいるのですが、その際の議論を行う場にもなっています。まだ使い始めて2か月程度ですが、全授業のうち3割程度で使用していますね。
そのほかには、軽音楽部や吹奏楽部の活動も行われています。先日は、軽音楽部のライブをやっていました。前4列ぐらいに座っていた生徒はみんな飛び上がっていたので、家具が壊れないかと心配して見ていましたが(笑)。
――生徒さんや教職員の方以外が利用されることも多いですよね。
最近では、保護者後援会総会や入学説明会、海外研修プログラム説明会などで使用しました。また本校には、PTAに代わる独自の機関としてPTC(Parents:親、Teacher:教師、Conference:協議)という組織があるのですが、その理事評議委員会でも使っています。
「シアター」をイメージしたオリジナルデザイン
――今回の視聴覚室のリニューアルでは、木村先生が「シアターのような雰囲気にしたい」と要望されたそうですね。

映画や観劇、コンサートなどのために映画館や劇場に行くときは、みんな楽しみでワクワクした感じで施設に入りますよね。「シアター」と言ったのは、生徒たちがここでプレゼンテーションを行う時にも、同じようにワクワクした気持ちになれる場所にしたかったのです。
ここは外部やPTCの方も利用されるので、ある程度オーソライズされた雰囲気は必要です。でもそれだけだとちょっとつまらない。先ほどお話しした「シェアする場所」という目的を考えると、話す側はもちろんですが、それ以上に聴く側もワクワクできる、ここにいる全員が楽しい気持ちで参加できる施設にしたいと考えました。ですので、知的な落ち着いた感じもありながら、今までにない新しさやインパクトもある、そんな雰囲気をイメージしました。
――家具を選ぶ上では、どのような点をポイントにされましたか。
デザインにはこだわりました。イスの色は、シアターをイメージした赤をメインにしていますが、アクセントカラーとして黒もランダムに入っていて、少し外した感じが気に入りました。張地は無地という選択肢もあったものの、柄があった方がワクワクする感じが出ると思い、この水玉模様のキルティングデザインを採用しました。張地の色とステッチの色はわざと変えてあり、赤には黒、黒には赤のステッチなのも良かったです。
私は、一部だけちょっと違うものが混ざっているとか、ランダムな感じが好きです。本校にも色々な生徒がいますが、違いはあるけれどみんながそれぞれの良さを認め合い、お互いに助け合えることが大事だと思っているので、全体としてバランスは取れているけれどダイバーシティも感じられる、そんなデザインに惹かれます。
――機能面では、広さのあるテーブルを希望されたと聞きました。
テーブルは、やはりあって良かったです。イスにメモ台が備え付けられているタイプも検討したのですが、それだと個人専用になります。でもこのテーブルなら、資料が広げられるし、隣同士で相談するなどの共同作業もできます。また最近は一人一台PCを持っているので、何でもPCに入力するかと思いがちですが、やっぱり紙に書きたい、そうでないと頭に入らないという生徒もいます。自分に合った学びのスタイルを模索するのも大事なことで、私はそれもリテラシーだと思っています。そのため、色々な選択肢がある環境は重要で、作業スペースは大きい方がいい。メモ台のサイズだとPCかノートか、どちらか一つしか置けないですよね。
――イスについてはいかがですか。

イスは深く座るように設計されていることで、自然と正しい姿勢を取れるのが良いですね。最近はストレートネックで姿勢が悪い子も多いですから。それと、イスの後ろの動線を確保できたのも良かったです。大勢で移動する時は出入りだけでも結構時間かかかりますので、人が座っていても後ろを通れるのは便利です。この家具になってから通行面で困ったという話は聞いていないですね。
――木村先生のイメージを形にしていく上で、どのような進め方をされたのですか。
コトブキシーティングさんとは「黒はこんな割合ですかね」とか、現場で一緒に色々話し合いました。それと、デザインイメージを出していただいたのが良かったです。学内でどのようなデザインにするかをシェアする時に、言葉で「ちょっとだけ外したデザインにしたい」と言ってもなかなか伝わらないですよね。特に今回のようなオリジナルデザインの場合は、周りに理解してもらうのが難しいですが、絵があることで他の人ともイメージを共有しやすくなりました。
――実は導入いただいたタイプの製品で、ステッチや柄、配色も全部オリジナルとなるカスタムデザインで納品したのは初めてとなります。今回、木村先生の想いをデザインに反映できたのであれば、メーカーとしては非常にうれしいことです。
そうだったのですか。私立学校の場合オリジナリティは重要ですから、ここにしかない家具というのは魅力的ですね。
コトブキシーティングさんとのリニューアルは、業者さんというよりは同じ方向を向いて一緒に考えてくれる仲間のような感じで進められたので、私はその過程にもワクワクしました。今回のような丁寧なカウンセリングをしていただけるのであれば、お世辞ではなく、それぞれの学校に合った施設ができるのではと思います。
生徒が「未来をつくる」ための学校を目指して
――学校教育において、施設や家具も含めた環境は重要と思われますか。
教育において環境はかなり重要です。ハード面・ソフト面含めて、そこにはバリュー、価値観のようなものがあると思うのです。環境によって求められる成果も変わるし、成長の方向性も変わってしまいます。ですので、どのような教育を目指していて、何に価値を置いているのか、ということも学校が提供する環境の一つです。
――確かに何を求められているかによって、目指す方向も変わりますね。

例えば今の学校の学びは、基礎ができてから応用、活用というように順番に積み上げていく形式が一般的かもしれません。しかし本校では、生徒が「面白い」「好き」と思うところからスタートしています。それは生徒のワクワク感、学ぶことを“楽しい”と感じる気持ちを大切にしたいと考えているからです。本人が興味を持って始めたのであれば、いずれ「これはどうなっているのだろうと」と様々なことを知りたくなり、基礎も学び始めるはずです。そのため本校では、生徒の「楽しい」を軸に循環できるようなカリキュラム、「循環型」の学びを目指しています。
さらには、自分は面白くないと思っている数学をメチャメチャ楽しいと思っている人がいると知った時に、相手が何を楽しいと思っているのか、その想いをシェアするという体験も学校ならではの学びです。生徒一人ひとりが“楽しい”と感じるものを起点にした個別最適な学び、そして生徒同士、さらには学外の人たちとの想いを共有していく協働的な学び、その両方を提供することが、本校が大切にする環境なのだと考えています。その意味で今回の視聴覚室は、環境をつくる上で重要な要素の一つといえるかもしれませんね。
――2025年に中高一貫校として再スタートとなりますが、どんな学校にしていきたいとお考えですか。
新しい学校のコンセプトは、「生徒が『未来をつくる』学校」です。主語はあくまでも生徒で、学校とは生徒たちとともに未来をつくる場所だと定義しています。
私は、中高生たちの可能性はすごいということを生徒たちに教えられてきました。その意味で、彼ら彼女らが地球レベルでの未来をつくる、これからの世の中をつくると本気で信じていますし、私たちも一緒にやるつもりです。現在の知を結集しても、世界では紛争が続き、経済格差が広がり、地球環境も悪化の一途を辿っています。こうした課題を解決するために考えるのは私たち、そして、子どもたちの世代です。でも考えるためには、そのための知識が必要です。だから私も含めた教員、さらには学外の様々なエキスパートが自分たちの知っていることは全部教えるから、私たちと一緒に、楽しみながら自分もみんなも幸せになる人類の未来をつくっていこうと。そんな学校になる予定で、今はその時が来るのが楽しみでしかないんです。
――木村先生のお話を伺って、私たちも2025年のスタートがとても楽しみになりました。本日はありがとうございました。
取材日:2024年5月
#千代田国際中学校 #武蔵野大学附属千代田高等学院 #視聴覚室 #国際バカロレア認定校