ボストンに建つ、歴史ある劇場がリニューアルオープン
2022年10月10日、ボストンの人々に永く親しまれてきた劇場Huntington Theatre（以下、ハンティントンシアター）が、約二年半に渡る工事期間を経てリニューアルオープンを果たしました。
改修工事では客席のリニューアルのほか、どの席からでも舞台が見やすい座席配置や新たな音響システムが導入されるなど、上質な観劇体験のための工夫が随所に取り入れられています。
2025年には100周年を迎えるハンティントンシアター。これからの時代にふさわしい劇場として、より快適な空間へと生まれ変わりました。
客席の印象を刷新する、快適性と機能性を持ち合わせたイス
2層にわたる客席には、739席のトマトレッドのイスが舞台を囲むように弧を描いて並んでいます。イスの一人分の間口寸法は、19〜22インチ（482〜558mm）。着席時の快適性を高めるために一人分のスペースを広げ、従来の席数よりも150席ほど減らしました。
イスは1席1席が際立つ背もたれの上部が丸いデザインから、隣席との連続性により客席の一体感をつくりだす、直線を基調としたデザインに一新しました。劇場全体を見渡すと、配列の美しさが際立ちます。
座席に選ばれたのは、コトブキシーティングの劇場イス
TS-71シリーズです。ニューヨークに拠点を置く関連会社「
コトブキシーティング・インターナショナル株式会社」によって販売されました。
TS-71シリーズは、コトブキシーティングが扱う劇場イスのなかでも人気の高い製品です。人体に合わせた三次元形状の背もたれと、体圧を均等に分散する波形スプリングを内蔵した座によって、長時間の観劇でも快適さを保ちます。
背もたれの下部を座のほうにカーブさせた形状により、後ろの席の足元スペースを広く確保できるため、座席の前後間隔が広く取れない場合や今回のような既存施設のリニューアルにも適したイスです。
座には、快適な座りのために開発された「
スペーシア」が選ばれました。座の先端部分が薄く、横から見ると三角形になっており、着席時に足を深く引き込むことが出来ます。そのため、開演前や幕間に立ち上がることなく人を通すことができます。
また、着席時の姿勢の自由度が高まり、血流の低下を防止するため健康のサポートにもつながるのです。
ハンティントンシアターのためのオリジナル仕様
随所に意匠を凝らした座席には、ハンティントンシアターにふさわしいイスとしてカスタマイズが施されています。
ひとつは、背もたれのパッドです。通常のイスは、背もたれを縁取るように木部が少し見えたデザインが多いですが、ハンティントンシアターでは背の端いっぱいまでパッドを広げました。柔らかなクッションと張地が、広範囲で身体を心地良く支えます。
もうひとつの特別な意匠は、寄付者プレートです。新たな客席のために寄付をした人の、名前やメッセージを記したプレートを肘当ての一部に組み込みました。淡く輝く真鍮色のプレートが、イスのグレード感を更に高めています。
また、客席内には、車イス利用者のためのスペースが複数箇所設けられました。
車イスのまま鑑賞するスペースのほか、他の観客と同じイスで観劇を楽しめる席も備わっています。後者は、イスの脚部が通路側に開くことにより、車イスからの移乗がしやすい座席です。車イススペースは、それぞれ左右前後に点在しています。車イスの観客も好きな位置を選んで観劇して欲しいという、劇場の心遣いです。
2層目のバルコニー席には、演目に合わせて柔軟に活用できるスタッキングチェアが設置されました。採用されたスタッキングチェア
TS-1212は、三次元曲面の背もたれとクッション性の高い座により、固定式の劇場イスと同等の座り心地を提供します。
新たな歴史を刻み始めたハンティントンシアター。再び幕が上がった劇場へ、多くの観客やアーティストにより命が吹き込まれることが期待されています。
施設概要
ハンティントンシアターは、1925年に米国初の非営利劇場として誕生しました。訪れた多くの人に愛され、「米国初の市民劇場」と呼ばれています。
施設の老朽化と修復、近代化を目的として、2020年3月から941日間に渡って第一段階の大規模改修工事が行われました。改修の目的は三つあります。一つ目は、建設当時のオリジナルの建築美の保存と修復、再生。二つ目が、機能のアップグレードと快適なアメニティの提供。そして三つ目が、さまざまな観客のためのユニバーサルデザインやバリアフリーの導入です。施設全体のアクセシビリティやサスティナビリティにも配慮され、工事が行われました。