サイズ・形態を変える変幻自在な教室で
80名が一緒に学ぶ新しい普通科系高校 [前編]

2024.05.07
インタビュー
令和5年4月に開校した京都市立開建高等学校は、施設老朽化などの課題により移転を検討していた京都市立塔南高等学校を、旧洛陽工業高等学校跡地に移転・再編した学校です。塔南高校は、全国初の教員養成専門学科「教育みらい科」の設置や、実社会を学びの場とする「未来デザインプログラム」など、特色のある教育を行っていました。
開建高校では、塔南高校の良き教育風土を引き継ぐとともに、「新普通科系高校」のモデルとして、新たな学びに取り組んでいます。特にホームルーム教室となるラーニングポッド(通称:L-pod)は四教室分の広さがあり、可動式ホワイトボード壁により、授業の目的や活動内容に応じて教室のサイズ・形態を自在に変化・転換できる画期的な学習空間です。ここでは、80名の生徒と複数の教員が一緒に学ぶというこれまでにない試みを行っています。“開建”の名のとおり、「次代を開き、新たな創造を生み出す学校」を目指す、校長の尾﨑嘉彦氏、事務長の山下隆夫氏、学年主任の松田賢太朗氏にお話を伺いました。


校長
尾﨑 嘉彦 氏


事務長
山下 隆夫 氏


国語科 第1学年 主任
松田 賢太朗 氏

「やってみたい」を実現する生徒が主役の学校

――開建高校の特徴について簡単にお聞かせください。

尾﨑
本校は令和5年4月に開校した、京都で最も新しい高校です。これからの社会は、本当に先行きが不透明で、何が起こるかわからない時代だと言われています。そんな中でも、生徒一人ひとりが自らの力で未来を切り開いていける力を育む教育をしたい、また卒業後は社会に貢献し活躍できる人材を育成したい、このような思いを込めて開校いたしました。
生徒たちの主体性を育む「『やってみたい』をやってみる」をキャッチフレーズに、生徒と教員がともに創り上げる「生徒が主役」の学校です。「問いから始まる学び、対話・協働の学び、個に応じた学び」という「開建高校の学びの3原則」に基づき、生徒が思わず考えてしまうような授業を展開しています。
さらに、生徒の主体性を育む取り組みにも力を入れています。学校行事や課外活動は生徒主体で行い、その中で学びの楽しさ、あるいは仲間との関係の大切さを知ってもらいたいと考えています。

――現在は開建高校1期生となる1年生以外に、2、3年生として塔南高校の生徒さんが在籍していますね。

尾﨑
はい。令和4年度までに入学した生徒は、令和5年6月下旬から新校舎へ移りましたが、学科やコースは同じで塔南高校生として卒業することになります。
開建高校を立ち上げるにあたっては、教職員や教育委員会だけで考えるのではなく、塔南高校の生徒にも学校づくりに参画してもらいました。開校の1年半ぐらい前に「未来の学校の姿を共創するKAIKEN PROJECT」を立ち上げ、生徒たちに開建高校の校章のデザインと校歌の歌詞を考えてもらいました。また塔南高校で行っていた「未来デザインプログラム」の内容は、開建高校の学校設定科目である「ルミノベーションⅠ」に引き継いでいますし、旧校舎で行ったL-podを想定した模擬授業にも参加してもらいました。
このような準備期間を経ているので、2、3年生も新たな学校への参画意識は持っていると思います。

――塔南高校の生徒さんも学校の立ち上げに参加してきたのですね。先生方はいかがですか。

尾﨑
教職員については3年前から準備を開始しました。当時私は塔南高校の教頭だったのですが、管理職だけではなく、ここにいる松田先生をはじめとした若い教職員にも入ってもらい、教育内容や学校概要について考え共有してきました。開校前年度には、学びの3原則を踏まえての授業を検討するために、体育館でデモ授業を行って教職員で意見交換をしたり、大学教授に指導助言をいただいたりと、様々な検証を行いました。

――色々な人が関わり、時間もかけて、新しい学校の準備が行われてきたと。

尾﨑
はい、本当に多くの方々にお世話になりました。学校関係者だけではなく、保護者の方、地域の方にも色々と協力いただいています。地域の方の関心も非常に高く、竣工式の後の見学会にも多くの方が見学にいらっしゃいました。本校には地域協働スペースがあり、カフェテリアや図書館は住民の方にも利用いただけますので、こうした施設を地域と一緒に有効に利活用していきたいと考えています。

変幻自在な学習空間を有効活用するための家具

――新校舎には特色ある施設が多くありますが、その中でもラーニングポッド(L-pod)は非常に特徴的ですね。

山下
ホームルーム教室となるL-podは、四教室分の広さで80名の生徒が一緒に学ぶということ、さらに間仕切りに可動式のホワイトボード壁を使用して、授業の目的や活動内容によって教室のサイズや形態を変えますので、当然、既存の机・イスは使えないだろうとは思っていました。
ではどのような家具が適しているのか。私たちも大学や高校など、色々と見に行っていたのですが、東京の学校に視察に行った教頭から良い製品を見たとの話があったのです。それを参考にして、今回のような機動性の高い可動式の机・イスを導入することになりました。

――どのような条件で家具を選んだのでしょうか。

山下
机・イスの選定については、複数の会社からサンプルをお預かりして、教員をはじめ教育委員会の方など、色々な人に見比べてもらいました。
この机は、動かしやすさとキャスターが必要な時だけ出てくる点が良かったです。普段はキャスターが露出していないので、足を引っ掛けてつまずいたり、壊したりする心配もありません。また、レバーを握るだけの簡単な操作で、机の上に物を置いたままでも自由に移動できることもポイントになりました。
天板の大きさについては、コトブキシーティングさんにカスタマイズしていただいています。新学習指導要領の実施に伴い、学習用のタブレットを一人1台配備する必要があったので、机の上にはタブレットを置くことが多くなります。でも既存サイズだと、タブレットを置いて作業するには少し小さかったのです。それでサイズを変更できないかご相談し、規格品よりも間口と奥行を50mmずつ大きくしていただきました。

――イスについてはいかがでしたか。

山下
イスは、机に合わせたキャスター付タイプをご提案いただきました。座面の張地は数種類あったのですが、より耐久性に優れたメッシュタイプを選んでいます。座りやすさやデザインについては教員にも聞いたのですが、背もたれのヘリンボーンのデザインは、特に女性の評判が良かったです。
コトブキシーティングさんの家具は、机・イスともに動かしやすさ、デザインなど色々良い点がありましたが、一番の決め手は耐久性かもしれませんね。
尾﨑
耐久性については、私も非常にこだわりました。旧校舎でL-podに見立てた教室を作り、可動式の家具を入れて授業実践を行ってきましたが、故障が多かったのです。
本校の学びには、自由に動かせる机・イスはものすごく重要なアイテムなので、良い家具に出会えて良かったと思っています。
松田
L-podでは教室の形が色々変わるので、従来のような机・イスでは移動だけで生徒の集中が切れる可能性があります。それがほぼノーストレスで移動できる点がすごく良いですね。授業によっては机を全部廊下に出して、イスだけで行うこともあるのですが、そうした準備も休憩時間の10分で何とかできています。

――家具の選択には、現場の方々の意見がかなり取り入れられたのですか。

山下
そうですね。建物以外の後から購入する設備備品については、ほとんど私たちの意見が集約された形になりました。
実は、L-pod以外のPCエリア、ラーニングコモンズ、自習室、調理室などは、すべてこの机・イスで統一しています。一種類しかないので生徒は操作を間違えません。また本校は予備を置いておく倉庫が少ないので、どこかの部屋で故障した場合などには使い回しがきくのもポイントです。

取材日:2023年11月8日
[後編]はこちら

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