既存体育館に大型電動間仕切を導入し、
安全で使いやすい空間を整備

2024.04.03
インタビュー
渋谷教育学園渋谷中学高等学校は男女共学の中高一貫校で、国内、海外の難関大学に多くの合格者を輩出している進学校です。21世紀の国際社会で活躍できる人間を育成するため、自らの手で調べ、自らの頭で考える「自調自考」の力を伸ばすことを根幹に、国際人としての資質を養う、高い倫理感を育てる、という教育目標を掲げています。
1996年に誕生した校舎は渋谷駅から徒歩わずか7分に位置し、地下1階地上9階建ての建物内に二つの体育館やホールも含めた施設が整備されています。施設は進化する学習スタイルや経過年数に合わせて随時リニューアルが行われており、2023年3月には第2体育館に大型電動間仕切「SIKIRUTO(シキルト)」が導入されました。SIKIRUTOは「面」で衝撃を受けるため、球などを確実にブロックし、従来の防球ネットに比べてたわみが少なく、安全に活動できるのが特徴です。
今回はSIKIRUTOの導入経緯、利用状況などについて、渋谷教育学園渋谷中学高等学校校長の高際伊都子氏、事務長の河元保之氏にお話を伺いました。


学校法人 渋谷教育学園
渋谷教育学園渋谷中学高等学校
校長
高際 伊都子 氏


学校法人 渋谷教育学園
渋谷教育学園渋谷中学高等学校
事務⻑
河元 保之 氏

生徒の安全確保のために新たな間仕切りを導入


――「SIKIRUTO(シキルト)」を導入された経緯についてお聞かせください。

高際
本学には二つの体育館があり、この第2体育館は最も大きい体育館になります。通常は中央で分離して別々の体育の授業を行ったり、放課後のクラブ活動では左右で違う部が使用したりしています。また比較的、球技を行うことが多い場所です。
従来は、セパレートするのに一般的な防球ネットで仕切っていたのですが、生徒がボールを追いかけて、中央のネットがたわんでいる部分に足を取られるケースが多々ありました。そのためボールをきちんと止めることができ、かつ生徒の安全性を確保できる仕切りがないか、長い間検討しておりました。そうした中、メモリアルホールのリニューアルでコトブキシーティングさんの移動観覧席を導入し、こちらが使い勝手、座り心地がとても良かったので、学校家具の専門企業としてご相談したところ、SIKIRUTOを紹介いただき、導入したという経緯になります。

――導入を決めたポイントはどのような点でしょうか。

高際
最大のポイントは、生徒の安全性です。中高で一緒に活動するクラブもあるので、一つのクラブの部員数はそれなりの人数になります。そのため、スペースを最大限広く使いたいという要望があり、その際に生徒がケガをするリスクを下げるというのが一番の目的です。
SIKIRUTOは大学や高校への導入事例も多かったですし、この設備が学校現場に合っていると判断いたしました。
河元
防球ネットを収納する際は、隅に寄せてから上にたくし上げる方法でした。そのためきちんと上がっていないと、それも足を取られる原因になっていました。でもSIKIRUTOは、スイッチ一つで天井に収納されるので、安全性、収納の簡単さという意味でも非常に良かったです。
高際
2階にはランニングコースがあり、クラブ活動で使っているので、たくし上げた防球ネットを上に置くこともできなかったのです。その点でSIKIRUTOは非常に扱いやすく、片付けやすいのも良いところですね。

設計・施工会社の協力も得て既存の体育館に設置

――導入にあたって、特に配慮されたことはありますか。

高際
第2体育館は地下にあるため周囲からの光が少なく、照明にかなり頼っているので、窓からの明かりをなるべく遮断しないように配慮しました。そのため透過性がなく影になるソリッドの部分はなるべく少ない方がいいだろうということで、かなり低い所までメッシュにしました。また、体育の授業等では教員が両方を見ることもありますので、教員の視野を確保するという意味もあります。
河元
ソリッドの部分を大きくすると圧迫感も出てくるので、その辺のバランスを考えてソリッドとメッシュの割合を決めました。

――今回はSIKIRUTOに合わせて、防球フェンスのカバーも作りましたね。

高際
はい。2階のランニングコースがせり出しているため、SIKIRUTOを下げた時にどうしても隙間ができてしまいます。それを何とか防げないかと相談し、コトブキシーティングさんにアイディアをいただきました。
河元
防球フェンスは前からあったものですが、SIKIRUTOと同じ色のカバーを作っていただいたので、見た目にも一体感があると思います。

――SIKIRUTOの実際の取り付けについてはいかがでしたか。

河元
どのようにして天井に取り付けるかという点が最大の課題でした。体育館を設計・施工した会社にご協力いただき、一緒に検討したのですが、その段取りがSIKIRUTOの施工より時間もコストもかかりました。想像よりも大変でしたね。既存体育館に本来想定していなかった設備を取り付けることになるので、耐荷重なども慎重に検討してもらいました。学校は安全を第一に考えなければいけない施設ですので、こうした対応も避けては通れなかったとは思います。
期間的には、最初に話をしたのは導入の一年ほど前ですが、実質的な作業は半年間ぐらいです。一番大変だったのは、天井の梁とSIKIRUTOをつなぐオリジナルパーツを作ったことですね。これに時間がかかりました。また、オリジナルパーツを天井の梁に取り付けるのも、足場を組んでの作業になるので、その期間は体育館が使用中止になります。そのためできるだけ影響が少ない時期に工事をしてもらいました。
高際
今回は4月の始業式に設置を間に合わせたかったので、2月末から1カ月半ぐらいで工事をしていただきました。通常、学校は夏休みに大きな工事をやることが多いのですが、夏休みはクラブ活動が一番盛んな時期なので、学年末の試験期間を利用してクラブ活動への影響が少ない時期で工事計画を立てました。

物理的・視覚的に空間を分割することで様々な効果

――最初に生徒さんがSIKIRUTOを見たときは、どんな反応でしたか。

高際
始業式の日に生徒の前で初めて見せたのですが、皆「オオー」と言っていました(笑)。
河元
その反応は、教員もかなり近いものがありましたね。どうやって巻き上がるのかとか、どうやってたたまれるのか、重さはどのぐらいなのか、など本当に皆が興味津々でした。一般的な体育館にはあまりない設備なので、初めて見たという人も多かったです。

――第2体育館はどのような使い方をされていますか。

高際
SIKIRUTOについては、日常の体育やクラブ活動の際は下ろしていて、よほどのことがない限り上げることはありません。一時間目の授業の時に下ろして、クラブ活動が終わった後に上げる感じですね。
また第2体育館は広いので、始業式や終業式といった学校全体が一堂に介す会場としても使っています。その際はSIKIRUTOを上げますが、ボタン一つで上下動して広い会場にできるので、大変便利に使用させていただいています。ですので稼働率はとても高く、第2体育館が静かになるのは試験中と年末年始ぐらいでしょうか。
多人数が集まる場所としては、ほかに第1体育館、メモリアルホールがありますが、中学・高校の全学年で集まれるのは第2体育館のみになります。一学年であればメモリアルホール、複数の学年であれば第1体育館、全学年になると第2体育館という流れで、それぞれの適性に合わせて会場を使用しています。

――防球ネットからSIKIRUTOに変わったことで、何か変化はありましたか。

高際
最初は生徒たちも少しびっくりしていましたが、すぐにその便利さに慣れたようです。防球ネットのように床にネットが溜まっていないので、コートが最大限広く使えるのが良いと聞いています。例えばバドミントン部の生徒は、シャトルを打つためにコートラインのギリギリまで下がるので、足元にネットがあるとライン際のシャトルが取りにくかったそうです。それが気にせず下がれるので喜んでいますね。
また足を取られないのはもちろん、反対側があまり見えないので自分たちの活動に集中しやすい、と言った声も出ており、導入して良かったと感じています。
河元
防球ネットに比べると、活動する生徒の安心感は大きいようですね。例えばボールが当たったときも、反対側に飛び出るのがかなり抑えられますし、人がぶつかったときも柔らかいので衝撃が少なく済みます。また防球ネットだと、人がぶつかると反対側に倒れてしまう可能性がありますが、SIKIRUTOだと身体も止まるので、安全性は非常に高くなったと思います。

多様な学びを支える、多様な用途に配慮した施設

――学校の施設や設備面で配慮していることはありますか。

高際
学校施設は、ある程度法律で指針が出ているため、ハードの部分はそれほど自由度があるわけではありません。ただ、今の学校現場はソフト面での変化が非常に激しいので、どのように施設を使っていくかという点については、それぞれの学校で工夫をしていると思います。
本校の場合は、施設を特定の目的で使うというよりは、すべての施設で多様な使い方ができるように工夫している点が特徴かもしれません。ですからこの第2体育館も、体育とは関係ない活動でもよく使っています。これは体育館に限った話ではなく、コトブキシーティングさんに家具を入れていただいた視聴覚室も同じですね。
河元
視聴覚室は校舎を建てたときのままだったので、今回のリニューアルで電源を確保した机と独立式のイスに変えました。パソコンを使う授業だけではなく、レクチャー形式の授業も想定していたので、机の広さを確保できる家具を選んでいます。長時間使っても疲れにくくなったことで、より汎用性の高い教室になりました。

――どう使うかが重要ということですね。生徒さん自身も使い方を考える感じなのでしょうか。

高際
はい。本校では、自分たちの施設をより良く使うためにはどうしたらいいのか、生徒自身が考えることが多いと思います。体育館の仕切りについても、防球ネットが危ないという声は生徒からも出ていました。ですので、学校としてもそういった声に応えられるように、生徒と相談しながら施設の活用を考えています。今回のSIKIRUTO導入についても、生徒や保護者の声も聞きながら行っており、それが学年の名前が入った卒業記念品となったことにもつながっています。
もともと本校は双方向授業が多く、生徒たちが先生方に自分の考えを伝える文化があるので、今回の導入もそういった一つの例かもしれません。

――そうした面でも、渋谷中学高等学校の「自調自考」の力を伸ばす校風が出ているように思います。
最後に、校長先生はここでどのような学びを得てほしいと思っていらっしゃいますか。

高際
中高時代は、人生の中で心身ともに非常に発達するときであり、自分の人生の基盤を形成する時代です。ここで、自分が他人とは違う独立した存在であること、その独立した存在同士が社会を作り一緒に生きていくのだということ、是非この二つを体験してもらいたいと思っています。そのためにも、個々に自分の目標に向かって頑張るだけではなく、友達と共同して、例えば学校行事やクラブ活動などで皆の力を合わせて一つものを作り上げていく経験を積んでほしいですね。
そして中高時代は、こうしたことがうまくいかなくても許される、やり直しがきく時代なので、新しいことに挑戦してうまくいかない経験をすることも大事です。このやり直す力は、これからの将来、非常に大切になると思っています。

――この校舎が、その様々な経験の舞台となっているのですね。本日はありがとうございました。

取材日:2023年10月

ディバイダー

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