学際的な才能を育てる大学が取り組む
時代に即したリニューアルプロジェクト

2023.08.07
インタビュー
天主教輔仁大學(以下、輔仁大学)は、カトリック教会が直接設立したローマ教皇庁立大学で、その前身は1925年にアメリカのベネディクト会員により創立されました。世界に139校の姉妹校があり、日本の大学とも研究協定を結ぶなど、国際性が高い大学です。
台北の中心地から10kmほど離れた場所にある台北キャンパスは、台北市内ながら落ち着きのある緑豊かな環境が魅力です。40万平米を超える広大な敷地には44棟もの校舎が建ち並び、学習スタイルの変化や時代のニーズに合わせて、順次リニューアルを進めています。
2022年の冬には、キャンパスの北側、病院のあるエリアに建つ「倬章ビル」の一部がリニューアルしました。学生が、互いに交流しながら落ち着いて学べる新たな空間が広がっています。今回のリニューアルについて、プロジェクトを率いる学術副学長の王英洲氏にお話を伺いました。


王 英洲氏
輔仁大学 学術副学長
臨床心理学科 教授

「学際的な才能の育成」に力を入れる、台湾の私立総合大学

――輔仁大学について教えてください。

ローマ教皇庁直結のカトリック系の大学です。キャンパス内では、学生や教師たちがお互いに思いやりをもって生活しており、その点を評価いただくことが多いですね。勉強に集中でき、幸せに過ごせるキャンパス環境を通して、学生たちにカトリックの友愛の精神が伝わることを願っています。

――大学が、学生に期待していることは何ですか?

ローマ教皇庁立大学であり100年以上の歴史を持つ本学は、現在、12の学部と医学部の附属病院をもつ、台湾で唯一の私立総合大学です。異なる学部や学科の学生が同じ学習環境で学ぶことで、互いに協力し合い、チームワークが生まれ、卒業後もスムーズに社会や職場に溶け込んでいけると考えています。
また、本学は、自分の専門領域と隣接する他の領域の間に存在する「中間領域」の研究を行う、「学際的な才能の育成」に力を入れています。つまり、学生には専門的な能力の開発や向上に加え、第二・第三の専門性を身につけてほしいと考えているのです。

歴史ある校舎を、維持しながらグレードアップするリニューアルプロジェクト

――今回改修した倬章ビルについて、教えていただけますか。

もともとこの土地には、大学の陸上競技場がありました。そこに、医学部棟として、医学部の看護学科、公衆衛生学科、臨床心理学科、医学科を増やし、作業療法学科や呼吸療法学科、そして大学院(看護学研究科、公共衛生学研究科、臨床心理学研究科、生物医学・薬学研究所)のための校舎として1992年に建設されたのが、この倬章ビルです。オープンして、もう30年以上が経ちますね。その後、隣に國璽ビルが建てられ、建物同士がつなげられました。

――オープンして30年目の2022年12月、倬章ビルのDG308教室やその周辺のコミュニケーションスペースがリニューアルされましたね。
今回のリニューアル工事のポイントについて教えてください。

本学では、この3年間で教室をはじめとした学習空間を135箇所もリニューアルしました。リニューアルは、空間の機能ごとにテーマを決めて行いました。新しい授業形態と新しい教育理念を具現化することで、台湾の伝統的な教育を変革したいと考えたのです。その一つが、今回のDG308教室のリニューアルです。
DG308教室のリニューアルは、構想から完成まで約1年かかりました。人文科学の発展を大切にする輔仁大学として、歴史的な建築を保護すべきと考え、建物の外観はそのままに内装だけを現代に合わせてリニューアルしました。欧米や日本でも、歴史ある大学では建物の外観は変えずに室内の環境や設備を新しくすることが多いですよね。

――そうですね。歴史を感じられる趣のある外観ですが、建物内部はとても現代的な印象があります。

私の専門は心理学です。最近の学生との交流で感じているのが、対面でのコミュニケーションが減り、SNSをはじめとするインターネットを介したコミュニケーションが増えているということです。そこで、学内の廊下やコーナー部分にコミュニケーションが図れるスペースを設けることで、空き時間の居場所となり、学生同士の交流が増えるのではないかと考えました。実際、とても好評で、学生同士だけでなく、教員と学生とのコミュニケーションの場としてもよく使われているのですよ。

――たくさんの学生が利用しているのを見ました。素晴らしいスペースですね。

さまざまな用途に使える、時代に即したDG308教室

――DG308教室のリニューアルのポイントを教えてください。

本学には、多用途に使える空間があまりありません。そのため、今回のリニューアルでは、「多目的な利用が可能」ということをいちばんのポイントとしました。講義を受ける教室としてはもちろん、会議や式典でも使えますし、学生がイベントで利用することも可能です。
また、教室の雰囲気づくりも重視しました。以前の教室は、硬く、男性的な印象が強い空間でした。本学の学生の男女比は3:7と女子学生の方が多いので、机やイスのデザインやカラーは柔らかな印象のものが良いと考え、選びました。内装には、ニュートラルなアースグレー数色を組み合わせることで、学生が集中して学習できる落ち着いた環境をつくり出しています。
また、照明も、明るさを調整できるように設計してもらいました。柔らかな自然光のような光やもっと明るい光など、授業や活動の内容に応じて調整が可能です。調光の度合いによっては、十字架のようにクロスした天井の梁が浮かび上がります。
カーテンも、遮光カーテンからセミブラインドカーテンに変えました。暗く閉鎖的な雰囲気から、窓の外のキャンパスの雰囲気や天気を感じながら学べる明るい教室空間に変わり、とても良いですね。

――家具についてはいかがでしょうか。

以前は、事務用の家具を置いていましたが、多様化する学習ニーズに対応するため、リニューアルを機に出入りがしやすく使いやすいデザインの机イスに入れ替えました。教室の家具も、時代とともに進化させなければなりませんから。
今の学生は、タブレットやノートパソコンを持っていますので、机の天板を広めに確保し、机上にはコンセントも設けました。イスは背もたれにリュックサックを掛けやすいデザインで、とても機能的ですね。
今後、他のフロアや他の校舎でもリニューアルを進めていく予定です。

――今回リニューアルした教室は、学生が誰でも自由に使えるのでしょうか。

はい。本学の学生は誰でも自由に使うことができます。主に、医学部の臨床心理学専攻の学生が利用していますね。昨今の大学教育では、知識の享受を目的とした講義だけでなく、プレゼンテーションやチームディスカッション、展示会なども行います。この教室は教壇がありますので、医学部の重要な講義や白衣授与式、戴帽(たいぼう)式など、幅広い活動に活用する予定です。

――今回のリニューアルに、みなさん満足されているのですね。学生や先生方から実際の感想はありましたか。

私自身もこの教室で授業をしていますが、多くの学生が以前の教室よりもずっと快適で過ごしやすいと言ってくれます。学校が学生たちの学習環境を重要だと考えているということが伝わったようです。授業のない休憩時間に交流している姿を実際に見ると、とても嬉しいですね。教室も、とても使いやすいようですし。

――それは嬉しいですね。最後に、今後の計画について教えてください。

輔仁大学では、今後も学習環境整備の向上に継続的に取り組んでいきます。世界のサスティナビリティへの関心に合わせ、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った環境配慮型の素材やグリーン建材の積極的活用など、地球環境に対する役割も担っていきたいと考えています。

――今後の輔仁大学の発展がとても楽しみです。本日は、ありがとうございました。

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