高速道路の雪氷詰所にカプセルベッドを導入し
作業従事者の満足度向上を実現

2023.03.23
インタビュー
北陸自動車道、東海北陸自動車道、舞鶴若狭自動車道の建設、保全・サービス事業を行う中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)金沢支社は、高速道路の安全な通行確保を使命とし、冬期の雪氷対策を最重要課題として取り組みを進めています。除雪やツララ落とし、凍結防止剤の散布などを行う雪氷作業の最前線となるのが雪氷基地です。北陸自動車道 武生IC管理施設(雪氷基地他)では、2020年12月に雪氷作業従事者が利用する雪氷詰所が新築され、カプセルベッドが導入されました。大雪ともなれば昼夜連続の過酷な作業環境にならざるをえない雪氷作業従事者の仮眠環境を改善し、ES(従業員満足度)を向上させることが第一の目的です。
今回は当時、金沢支社 福井保全・サービスセンターで雪氷詰所の新築工事を担当されていた大村卓也氏に、カプセルベッド導入を検討された経緯、導入後の評価などについてお話を伺いました。


中日本高速道路株式会社 名古屋支社
羽島保全・サービスセンター
施設担当 係長
大村 卓也 氏

新築工事に合わせて、雪氷詰所の大幅な施設改善を検討


――雪氷詰所について教えてください。

雪氷詰所は、雪氷作業従事者が雪氷作業に出る前にミーティングや休憩・仮眠をする施設です。場所によって異なりますが、ここでは11月15日から4月15日までを雪氷作業期間としています。その期間にお客さまに安心・安全に高速道路をご利用いただけるよう、金沢支社管内では雪氷対策を最優先事項としており、雪氷詰所は雪氷作業の最前線を担う重要設備となります。
今回は北陸新幹線の金沢-敦賀駅間の建設工事に伴い、武生IC管理施設(雪氷詰所、電気室、凍結防止剤倉庫、溶液槽)が支障になるということで、旧施設を解体して移転・新築することになりました。

――雪氷詰所を新築する上で、特に意識されたことはありますか。

平成30年豪雪(2018年2月5日~2月13日の福井豪雪)では、雪氷作業従事者が24時間体制で雪氷作業と仮眠を繰り返すという過酷な労働環境となってしまいました。これを踏まえて当社では雪氷体制の強化を行い、車両の増車や人員の増員を進めています。また雪氷作業従事者については、近年、高齢化や人手不足が深刻になっているので、満足して快適に働いていただくために何かしなければという思いがありました。今回のカプセルベッドの導入は、ES(従業員満足度)向上のための取り組みの一つです。
既存の詰所は老朽化しており、暖房やトイレの換気、照明等の性能が足りていない状態でした。また、以前からの増員に伴い2回増築しているため、雪氷詰所の部屋の配置が悪く、移動距離が長い、トイレ、風呂の数が足りていないなど、増築を繰り返したが故の欠点もありました。近年、人員を強化していたため設備が伴っていなかったのです。

――カプセルベッドの導入は御社では初めてとのことですので、実行するのは大変だったのではありませんか。

中日本高速道路で雪氷詰所にカプセルベッドを導入したのは、ここが初めてです。以前から、平成30年豪雪の問題、雪氷作業従事者の減少という社会的な背景もあり、雪氷作業を持続的に維持していくためには雪氷作業従事者のES向上を考えていかなければという危機感がありました。その中で、北陸新幹線建設に伴い雪氷詰所の建て替えが必要という条件、タイミングが揃ったこともあり、何とか導入に至りました。

――平成30年豪雪は御社にとってかなりインパクトがあったのですね。

そうですね。近年、災害が激甚化している中で、平成30年豪雪において、北陸自動車道で多数の滞留車両を出してしまいました。これが、雪氷作業従事者の働き方改革を含む雪氷体制の強化に注力する契機となったと思います。

――建て替えのタイミングでないとカプセルベッドの導入は難しいでしょうか。

雪氷詰所といえば昔から2段ベッドで、2段ベッドに比べるとカプセルベッドはやはり設備費用的には高くなります。でも新築なら、カプセルベッドにすることで費用を抑えられる部分があるのです。
除雪作業は除雪車3台と標識車1台の4台で梯団を組んで行い、各車両に2名乗車するので一つの梯団は8名になります。仮眠を始めるタイミングは梯団ごとに違うので、仮眠室は梯団単位で用意しなければなりません。2段ベッドの場合は8名単位の部屋を大量につくることになり、各部屋に空調や通路スペースが必要で、壁やドアや設備関係も部屋の数だけ必要になります。一方、カプセルベッドは防音性が高く一つの部屋に大勢の方が入れるので、スペースや部材、設備が削減でき、建物としての費用を抑えることにつながります。
今回のような新築や大きな改修であれば、カプセルベッド導入にあたり、設備費用のプラスと建物費用のマイナスの面が発生するので費用差が縮まり、導入しやすくなります。金沢支社管内では今回の導入事例を踏まえて、改修や建て替えなどの際にはカプセルベッドの導入を進めていく方針です。

カプセルベッドの導入がES向上、感染予防対策でも効果を発揮

――大村さん自身はカプセルベッドに寝たことはありましたか。

実は見たことも寝たこともなかったのです。でもコトブキシーティングさんのウェブサイトの納入事例を見ると、様々な画角の写真があり、色々な方のインタビュー記事も掲載されており、完成後のイメージがつかみやすく、安心して導入できました。とは言うものの、納品されるまではドキドキでした。設置されたものを見ると、整然と並んでおり、出来栄えも良く安心しましたね。
コトブキシーティングさんのことは設計事務所から聞きました。カプセルホテル向けの高価な製品だけではなく、機能的に絞った形で後付けもできる比較的安価な製品があったので、私たちのような事業者にも適していると思いました。


――導入前にアンケートを行ったそうですが、カプセルベッドについてはどのような反応だったのでしょうか。

雪氷詰所の新築計画に加え、カプセルベッドの導入も検討していることを作業従事者の皆さんに伝えた上でアンケートを取りました。その結果、カプセルベッドを希望するが57%、どちらでも良いが17%となったので、試行導入することとしました。
ベッド数は雪氷体制の人員強化を踏まえ、既設の34床から大幅に増やし、体制最大人数分の52床用意する計画としました。その中で、アンケートの要望割合に応え、カプセルベッドを34床、2段ベッドを18床と割り振りました。

――アンケートの要望はすべて設計に反映されたとのことですが、どのような所が評価されていますか。

現状の満足度を図るために新築後にもアンケートを行ったのですが、すべての面で満足度が向上していました。自分たちのことを考えて建て替えまでしてくれてありがとう、という意見が大半を占めていましたね。
その中でも満足度が高かったのは、やっぱりカプセルベッドですね。プライバシー性も向上しましたし、防音性や遮音性が高くなったので寝ていても音や光があまり気にならない。例えば普通の仮眠室だと、誰かがトイレに行くときに照明をつけると全体が明るくなって起きてしまうのですが、カプセルベッドであればそのまま寝ていられます。よって、睡眠の質の向上が大きいと考えます。
ただ、梯団ごとのコミュニケーションのために2段ベッドを使い続けたいという方も一定数はいるので、その意見を踏まえると、今回のようにカプセルベッドと2段ベッドの両方を準備するのがいいと思います。

――最近の特に若い方々には、圧倒的にカプセルベッドが人気なのかと思っていました。

梯団を組んでの除雪は普段から密にコミュニケーションを取る必要があり、梯団単位で一部屋になる2段ベッドの部屋も人気があります。カプセルベッドだと仮眠室でのコミュニケーションは困難になってしまうので、その代わりに今回は食堂を広めにしました。食堂で十分にコミュニケーションを取っていただいて、休むときはカプセルベッドで休んでいただく。そういうメリハリのついた利用も考えて、色々な需要に応えられるような設計にしています。
また、現在女性作業員はいませんが、今回女性専用の仮眠室、風呂、トイレ等も準備しました。社会的要請でもありますし、多様性に配慮することで全員が働きやすくなり、全体のES向上にもつながっていると思います。

カプセルベッド導入の評価

――新型コロナウイルスの感染予防対策という意味ではカプセルベッドはいかがでしたか。

感染予防対策には空間の分離が必要だと思います。カプセルベッドは一つひとつ分離されていますし、カプセル内部に換気扇が付いていて基本的にカプセル内部に空気を吸い込む形になりますので、もし中に罹患者がいたとしても感染拡大を防止できると考えています。
逆に2段ベッドは、今は感染予防対策の関係で一部屋に定員の半分の4人しか入れていません。空間的にも分離されていないので、天井からカーテンを吊り下げてベッドとベッドの間を分離するなど新たな対策が必要でした。そういう意味ではカプセルベッドは何も対策がいらなかったので、コロナ禍でも業務継続に影響がなく、助かりました。

24時間365日、安全で安心・快適な高速道路をお客さまに提供するために

――金沢支社管内ではカプセルベッドを広げていきたいというお話でしたが、会社全体ではいかがでしょうか。

弊社では年に一回、業務改善の内容を発表する機会があります。業務改善を社内で発表してきちんと評価し、有効なものを水平展開することで、さらなる改善につなげる取り組みです。
今回のカプセルベッドを導入した経緯や費用比較、満足度調査の結果について論文を作成し、発表したところ、高評価を受け全社的に周知できました。さらに、「ゆきみらい2022 in白山」の研究発表会にも論文を投稿し、外部への発信も行っています。

――社内外に広めていきたいというお気持ちがあるから頑張れたのでしょうが、この資料をまとめる労力は大変だったと思います。

そうですね。ただ、弊社は新しいことに取り組んで、検証を行えば、評価してもらえる会社と思っています。そのため、働く側としても新たな取り組みを行いやすく、今回のES向上にもつながって、好循環が生まれているのかなと思います。
また、今回のことは雪氷詰所の設計に関する社内規定にも反映されており、雪氷体制を考慮したカプセルベッドの導入が容易になりました。

――それはすごい。実績を認めていただいたということですね。この後どこかに導入する話は聞いていますか。

富山の雪氷詰所の新築工事で計画が進んでいます。また、羽島では保全・サービスセンターの建て替え計画があり、次は私たち社員のESも考えてカプセルベッドを検討したいなと思っています。災害等の有事の際には、私たち社員も仮眠を取りながらの過酷な労働環境となりますので、改善していきたいと思います。


――雪があまり降らない地域に住んでいると、雪氷対策がどれだけ大事なものか分からないものですね。今回お話を伺ってその重要性を実感しました。

私たちは縁の下の力持ち。高速道路は24時間365日、使えて当たり前。そういう当たり前を自分たちが守っていると思っています。
最近災害が激甚化しゲリラ的に雪が降るなか、滞留車両を出さないために、融雪装置を整備したり、除雪車を増車したり、予防的通行止めを行うなど色々な形で対策に取り組んではいるのですが、自然相手なので難しい面があります。また、省人化や自動化も進めてはいますが、雪氷作業、道路の維持管理はまだまだ人に頼って成り立っているところがあり、豪雪になれば雪氷作業は数日間ずっと続くこともあります。だからこそ、休めるときには少しでも快適に休んでいただける環境を提供したかったのです。
今回のカプセルベッドの導入は、大雪が続くときにも雪氷作業体制を継続し続けるという防災面、作業者の睡眠不足による事故防止という安全面でも寄与できると思っています。

――皆さんの努力で高速道路の安全な交通が維持されているということがよく分かりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

ゆきみらい2022 in 白山「雪氷詰所におけるカプセルベッド試行導入の検証 − 人出不足が進む雪氷作業従事者のES向上を目指して −」

取材日:2022年12月

動画

カプセルベッド仮眠室

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