コミュニティ施設の役割も担う新校舎で
地域と共に新たな学校づくりに取り組む

2022.03.25
インタビュー
立川市立若葉台小学校は、2018年4月に立川市若葉町に開校した統合新校です。現在、21学級・583名、特別支援学級(たんぽぽ学級)17名の児童が学んでいます。理念である「共に学び 共に育つ 学校づくり」を実現するために、「思う存分体を動かし、様々な体験ができる学校づくり」「学ぶ楽しさ、教える喜びが実感できる学校づくり」「明日また行きたくなる楽しい学校づくり」「地域をつなぎ、未来を拓く学校づくり」の四つのコンセプトを掲げています。
2021年に4月に完成した新校舎には、四つのコンセプトを具現化するためのさまざまな施設や空間が設けられています。地域のコミュニティ施設としての役割も備えており、その代表的な施設が「すずかけホール」(多目的室)です。ベンチタイプの移動観覧席(128席)があり、子どもたちや地域住民の新たな活動の場として利用されています。
今回のインタビューでは、すずかけホールの現在の使い方や今後期待される活用方法などについて、初代校長の井𡈽 満氏にお話を伺いました。


立川市立若葉台小学校
校長
井𡈽 満 ⽒

二つの小学校を統合し、地域の意見も反映した新校舎を建設


――若葉台小学校が統合新校として開校した経緯についてお聞かせください。

若葉町にはけやき台小学校と若葉小学校の二つの小学校がありましたが、今後両校の児童数の減少が予想され、教育委員会などで対応を協議していました。その結果、両校を統合することが小規模校の様々な課題解消につながると共に、新しい校舎が若葉町全体の活性化にもつながるとの考えから、統合し新学校を設立することになりました。
2018年3月に二つの学校を閉校した後、4月に新しく若葉台小学校として開校し、新校舎が完成するまでの3年間は若葉小学校の既存校舎と仮設校舎を使用していました。新校舎はけやき台小学校の跡地に建てられたので校地の広さは同じですが、校舎を4階建にし、プールを校舎屋上に設置するなど計画的に作られたことで、以前より校庭も広くなりました。

――2021年に4月に完成した新校舎には様々な特徴がありますね。

新校舎の計画は、学識者や地域団体等が推薦する方、公募市民、教育部長や対象校の学校長などが参加する新校舎建設マスタープラン検討委員会が策定しました。教職員へのヒアリンをはじめ、保護者や子どもたち、地域の方々にもアンケートや説明会などを行い、集まった意見も踏まえて学校づくりのコンセプトを決定しています。
新校舎はこうしたコンセプトがあちこちに反映されています。その一つがオープンスペースやテラス、多目的室など、みんなで集まれる場所がたくさんあることです。なかでも図書室と体育館、すずかけホールは、よく考えられていて特色があると思います。図書室は壁が無いことに教員が驚いていましたが、実際に使ってみると入りやすい雰囲気ですごくいいですね。上の閲覧学習室とつながっている階段はステージのようになっていて、座って読み聞かせをすることもできます。
また地域とのつながりを重視していることも大きな特徴です。学校としての機能だけではなく、地域の活動拠点としても使っていただける施設として作られています。

――学校が防災拠点の機能を備えるのは一般的になってきましたが、ここは体育館、プール、多目的室、2校の歴史を展示したコミュニティルームなど、多くの地域開放施設がありますね。また学童保育所も併設されています。

地域に開放することを前提にゾーニングが考えられているので、専用玄関が別にあり、必要があればシャッターで区切ることができます。
また、建物と地域のつながりも意識した設計になっています。例えば体育館はステージ後方が壁ではなくガラス窓で、外からも中が見えます。卒業式などの行事の際は、地域の方々にも雰囲気を感じてもらえるように始まる直前まで幕を開けています。廊下の窓には子どもたちの作品などを飾る展示棚があり、外からも学校の雰囲気や子どもたちの活気を感じていただける工夫がなされています。そのほかにも、正面入口となる北側広場は道路との間に塀がなく、緑やベンチもあるのでお年寄りなどの憩いの場になっていますね。

――統合新校としての新しい試みも多く、初代校長としては色々とご苦労もおありだと思いますが。

私は若葉町に縁があって、最初に赴任したのが若葉町の第九中学校でした。もともとは中学校の教員だったのです。第九中学校の後は各地を回り、中学の副校長もやっていたのですが、小学校の校長が足りなかったことから11年前に若葉小学校の校長として帰ってきました。そこで3年間校長を勤めて移動した後に統合の話が出て、閉校の年にまた校長として若葉小学校に戻ってきたのです。その後、統合した若葉台小学校の初代校長になったのが2018年4月です。
新校で校舎も新しく建設したのは立川市内でも17年ぶりのことで、そういう意味ではノウハウがありません。地域の方々の色々な思いもありそれなりに大変ではありますが、中学校時代の教え子たちや当時の保護者の方々が今の私を支えてくれていると思っています。

階段状のイスが特別感のある演出を可能にするすずかけホール


――移動観覧席を入れていただいたすずかけホールは、どのような施設なのでしょうか。

すずかけホールは地域開放の中心ともいえる多目的室で、すずかけ通りに面しているのでこの名前になりました。通り側の壁面はガラス窓になっていて、外からも中の様子が見えるようになっています。
子どもたちは、主に観るための授業の時に使っています。ホールや舞台のような使い方ですね。立川市教育委員会や立川市地域文化振興財団が主催する「落語キャラバン」や「音楽鑑賞教室」では、生の落語や弦楽四重奏を聞きました。階段状のイスが本当の劇場やコンサートホールのようで、子どもたちもうれしいみたいです。
それから子どもたちの発表の場としても使っています。2年生の朗読発表会では、詩の中の役を分担して振り付けもしていました。6年生のオリンピック・パラリンピックの学習では、教室での発表で選抜された子どもたちがここで発表をしていましたね。
若葉台小学校はGIGAスクール構想に則って、1年生から全員一人1台タブレットを使った授業を行っており、子どもたちはタブレットを使った発表を日常的にやっています。オリ・パラの発表も自分たちで調べたことをスクリーンに映し、マイクを使って説明するようなレベルの高いプレゼンテーションで、すずかけホールでやるとなお様になって見えましたね。

 


 

――観客席と舞台のような設定が教室でやるのとは違うのかもしれませんね。


オリンピック・パラリンピックの観戦も会場には行かなかったので、立川市の企業に所属しているフェンシング女子日本代表の江村美咲選手のビデオレターをすずかけホールで見て、応援気分を味わってもらいました。教室で見ても良かったのですが、すずかけホールの方がより記憶に残るかなと思いまして。
あとは学年集会にもよく使っています。体育館は体育で使っていることがありますから。一学年全員が入れる広さというのが丁度良い大きさで使い勝手がいいですね。それから放課後には、部活動で合唱クラブが練習しています。また地域の人たちが主催している放課後子ども教室もここでやっていて、これまで映画会やゲーム大会を開催したようです。
地域の方々の本格的な利用はこれからだと思いますが、先日の土日には地域の防災会議を行っていましたし、選挙の投票所にもなりました。

――今日はイスを出してありますが、イスを使うことが多いのでしょうか。

普段はイスを出したままにしています。今のところイスを出して使うのは半々ぐらいですかね。収納は手動ですが、人数がいれば5分~10分程度で済みます。それほど重くないので力の弱い人でも移動できるし、最低2人いればできるのでそれほど負担ではないです。

――井𡈽先生は、最初に移動観覧席のある施設ができると聞いたときはどう思われましたか。

正直、「えーっ?」という感じでした(笑)。使ったことがないですから。しかもイスを出したり入れたりしなければいけないということで、面倒だなという思いも少しはありました。でも実際に使ってみると、2階までの吹き抜けと階段状の移動観覧席が本当のホールのような特別感があってすごくいいのです。すずかけホールを初めて見た人は、みんな「おおーっ」と驚きの声を上げますからね(笑)。
でもこうした施設を使うのは教員も含めて初めてなので、本当にこの施設を生かした使い方ができるようになるのはこれからだと思います。今はハードが新しくてもソフトは昔の教育のままですから。例えば、すずかけホールで毎日授業をやっているような先生が出てきてもいいし、ここがもっと授業の核になっていくような新しい教育が生まれてくることを期待したいですね。 

「地域をつなぎ、未来を拓く学校づくり」の実現を目指して

――若葉町は二つの小学校が統合したことで一小学校一中学校になりました。小中で連携した活動も計画されているのでしょうか。

最初の3年間は若葉小学校の校舎を使っていたので、若葉台小学校の生徒でありながら新校舎に入れなかった子どもたちがいます。今の第九中学校の1年生から3年生です。それで卒業生を招待して新校舎を見学してもらいました。ただ見学するだけではなく、新校舎を生かして小学生と中学生、また地域のみんなで何ができるかというアイデアを考えてもらいました。一緒にコンサートをするとか、映画鑑賞とかの意見が出ていましたね。自分たちも地域の一員になっていくなかで、ここを核に色々な文化行事ができればいいと思っているようです。
第九中学校は吹奏楽部があり、うちも合唱部と吹奏楽部があるので、連携するなら最初は音楽活動かなと思っています。あとは地域にも色々な文化サークルがあるので、タイアップして発表会などができたらいいねという話はしています。

――建物はできたので、今後はどのように運営していくかですね。

今は立川市だけではなく、全国的にコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)が進んでいます。コミュニティ・スクールは学校と地域の方とが一緒になって学校運営に取り組むもので、若葉台小学校は2019年4月からコミュニティ・スクールが始まりました。若葉町は地域が小さいので、若葉台小学校と第九中学校と合同の学校運営協議会になっています。地域の様々な団体の代表者の方々がメンバーになっているので、協議会で話し合われたことは地域へ広がりますし、代表の方が吸い上げた地域の意見を学校運営に生かすこともできます。実際に管理するのは学校が中心になるかもしれませんが、運営については地域の方のご意見やアイデアを生かして進めることができると思っています。
そして、ここを卒業した子どもたちが卒業したらそれで終わりではなくて、またここへ帰ってきてほしいです。卒業生が小学生と一緒に活動したり、親になってその子どもたちがこの小学校に入ってきたりと、この学校が地域の教育や活性化の核になっていけばいいなというのが私の一番の思いですね。
若葉台小学校は、地域や保護者を始め多くの方々のご支援をいただき、皆さんの思いや期待を担ってできた学校です。施設は素晴らしいものができたので、後はそれをみんなでどう使っていくかです。地域と共に若葉町の未来の子どもたちを育てていくことが、若葉台小学校の責任であり使命だと思っています。

――これから若葉台小学校とすずかけホールの可能性はどんどん広がっていきそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。


関連リンク

立川市立若葉台小学校 Webサイト

取材日:2021年10月

動画

移動観覧席サイト RSPページ

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