異学年が共に活動し成長する義務教育学校の
多様な学習活動に対応した空間づくり

2021.12.09
インタビュー
小松市立松東みどり学園は、石川県では3番目、小松市では初めてとなる義務教育学校です。「ふるさとの未来を創る子供たちの育成」を目指して、2021年4月に開校しました。義務教育学校は2016年に創設された小中一貫教育の新しい形態で、一人の校長、一つの組織の下、小学校から中学校までの9年間の義務教育を行います。一貫教育の軸となる新しい教科の創設や、中学校に馴染めない「中一ギャップ」を軽減できるなどのメリットがあると言われています。
松東みどり学園には、義務教育学校の多様な学習活動に対応する施設が設けられています。その一つがアクティブルームで、木の香りが清々しい吹き抜けの広々とした空間には、簡単に展開・収納できる電動・壁面収納式のステージが備えられ、複数の学年が一緒に行う活動や各種発表会など多目的な利用が可能です。
今回は後期(中学校)教頭の南 克彦氏に、義務教育学校における様々な取り組みと、その中でのアクティブルームの使われ方や役割についてお伺いしました。
※中一ギャップ:子供たちが小学校から中学校への進学に際し、新しい環境での学習や生活に不適応を起こす現象。文部科学省が実施してきた「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によれば、不登校児童生徒数、いじめの認知件数、暴力行為の加害児童生徒数が、小学校6年生から中学校1年生になったときに大幅に増えることが経年的な傾向として明らかになっている。(「小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引き」文部科学省より)
 

小松市立松東みどり学園 後期教頭
南 克彦 氏

3つの小学校と1つの中学校が統合し
9学年が共に過ごす義務教育学校が誕生

――松東みどり学園の設立経緯について、簡単にお話いただけますか。

松東みどり学園は、3つの小学校と1つの中学校が統合された義務教育学校です。校舎は旧松東中学校の校舎を改修し、小学部棟を増築して利用しています。 松東地区では新しい時代の義務教育の形を求め、2018年から保護者や地域の方、教員、教員委員会による「新しい学校づくり推進委員会」を立ち上げ、義務教育学校設立に向けて話し合いを行ってきました。 また小学校の統合に合わせて、各学校にあった放課後児童クラブも一緒になり、校舎の一部を利用して「松東児童クラブ」が新設されました。社会福祉法人ジェイエイ小松福祉会が運営しています。

――小松市では初めての義務教育学校となりますね。

小松市では初めて、石川県では3番目になります。
小学校が前期課程、中学校が後期課程と位置づけられていますが、学びの段階は3つに分けていて、ステージⅠ(基礎期)が1~4年生、ステージⅡ(活用期)が5~7年生、ステージⅢ(発展期)が8~9年生となっています。ほかの義務教育学校もこの区切りが多いですね。中一ギャップの解消という意味で有効な分け方なのだと思います。
現在、児童生徒数は190人で全学年単学級です。そのほかに特別支援学級が二つあり、全部で11学級になります。教員は色々な支援の方も含めると30人程度です。
松東地区はもともと小松市内の中でも学区が広く、前期課程はスクールバス、後期課程は自転車通学です。ただ、ここは小松市の中でも一番雪が積もる場所で、冬は雪で自転車に乗れないので家族が車で送り迎えをしています。また、以前から広域通学の指定校になっていて、希望すれば小松市内のどこからでも通学できます。JR小松駅などのポイントを回る広域通学者用のスクールバスが出ていて、広域通学希望者も増えてきています。

――松東みどり学園の特色としては、どのような点があげられますか。

松東みどり学園では「みらい探究科」という教科を新設し、現代的な諸課題や地域の伝統文化、町づくりなどの課題の解決に向けて探究的な学習を行っています。先日の8年生の授業では、コロナ禍でも業績が伸びている会社を調べてその理由を考えて発表しました。学年ごとにテーマを決めて探究的な学習がスタートしましたが、実際にどんな成果が見られるか楽しみですね。
また、専門的な教科は後期課程の教員が前期課程の授業を担当しているのも大きな特徴です。特に英語教育については1年生から取り入れているため、後期課程の教員2名とALT(外国語指導助手)が1年生から9年生までを指導しています。 そのほか、授業以外の「縦割り活動」も充実しており、1~9学年の異学年グループで活動することで、人間関係力を育てたり自己肯定感を高めたりすることができています。

松東みどり学園の特色となる
「縦割り活動」が行われるアクティブルーム

――施設についても普通の学校にはない名前の付いた部屋がありますね。

アクティブルーム、コミュニケーションルーム、グローバルルーム、わくわくルームなどがあります。コミュニケーションルームはALTが常駐する英語の授業をする場所で、大きな電子黒板やコミュニケーションをとりやすいように配置を変えられる机・イスがあります。グローバルルームはICT環境が整備された図書館ですね。
松東みどり学園は、小松市の「ICTを活用した学びの推進モデル校」の指定を受けており、開校に合わせて全館Wi-Fiが整備され、それぞれの教室に電子黒板付きのプロジェクターが設置されるなど、GIGAスクール時代に対応できる最新の設備が整えられています。子供たちは一人1台タブレット端末を使っていますし、教員も一人1台タブレットを持っています。若い先生が積極的に使っていますので、我々ベテランも負けずに頑張っています(笑)。

――今回、弊社のステージを導入していただいたアクティブルームについて教えてください。

体育館ではないのですが、前期課程の低学年は体育の授業で使っていてミニ体育館のような役割があります。また、「縦割り活動」の一つである「朝活」はここを使っています。「朝活」は1年生から6年生の縦割り班で行う前期課程の活動で、6年生が司会・運営をして毎日遊んでいます。全学年が集まるような活動は体育館を使うのですが、2学年、3学年が集まるブロックごとの活動には使いやすい大きさですね。
それから、扉を開ければ児童クラブとも行き来できるようになっているので、児童クラブの活動スペースとしても利用しており、夏休みなどは昼食場所としても活用しています。アクティブルームは空調が入っているので、色々な意味で使い勝手が良いですね。

――基本的にはいつも解放しているのでしょうか。

日中は児童クラブとの出入り口を閉めて学校が使い、夕方からは学校からの出入り口を閉めて児童クラブが使う設計になっています。昼休みなどの空き時間にも、子供たちはアクティブルームに来てよく遊んでいますね。前期課程の子供たちにとって、長休みは体を動かす大切な時間なので、空調設備があって雨の日でも使える空間があることは貴重です。 また児童クラブにとっても、アクティブルームは学校で使っている場所なので、子供たちが遊び方を知っていますし、慣れているので安心です。

――ステージはどのような時に利用していますか。

普段はここで子供たちが走り回るのでステージは出していないですが、講演会やお客さんを招いての式典などには使っています。昨年の「学習発表会」では、市内の和菓子職人の方を招いて和菓子づくり体験を行ったのですが、ステージ上の講師の手元をスクリーンに写して、それを見ながら後期課程の子供たちが実践しました。アクティブルームは空調設備、ステージ、ICTの設備も整っているので、色々な使い方ができます。
体育館にも同じステージが入っていますが、体育館に比べるとアクティブルームは小さめで段も低いので、子供が40~50人が座って話を聞くには丁度良いですね。必要なときにはリモコンで簡単に出すことができますし、ステージがあることで一つのスペースを二通りの使い方ができることが魅力だと思います。
今後は、子供たちの発表会的なものにも使えるかなと思っています。なかなかステージに上がって人前で話す機会は少ないので、そうした経験も子供たちにしてもらいたいですね。

リーダーシップと思いやりの気持ちを育てる
学年を超えたコミュニケーション

――実際に義務教育学校がスタートしてみていかがですか?

新しい試みなので、開校前には他県の学校も視察に行き、4・3・2の学習ステージの設定や入学式の実施方法などは参考にさせてもらいました。学校によって色々スタイルも違うので、それらを参考にしながら描いた青写真をいま動かしているところです。ただ、やってみて初めてわかることもたくさんあるので、最終的に本校のスタイルができるのは今年度が終わってからだと思います。
今は1年目なので、とにかく教員同士でよく話をしながら進めています。小学校と中学校では授業の進むスピードや授業時間も違います。また校種による教育文化の違いがあったりしますので、コミュニケーションを図らないと共通理解が難しいです。でも話し合いが多いぶん、皆仲良くやっていますね。

――9学年が一緒に過ごすことで、子供たちの様子に変化はありましたか。

小さい子供はお兄さん、お姉さんが好きなので、低学年の子供たちと高学年の子供たちが一緒に過ごす姿をよく見かけます。昼休みに一緒に遊んだり、掃除も縦割りグループで行っているので9年生と2年生が一緒に拭き掃除をしたりしています。そういった意味では、他の学校では見られないほのぼのとした光景が見られますね(笑)。
小さい子供たちがいることで、中学生だけの空間より中学生の心が優しくなれるようです。それと環境が変わらないことが大きいですね。今の7年生は、松東みどり学園には中学生という形で入学したのですが、職員室に行くと小学校の時の先生もいて同じ屋根の下に後輩達もたくさんいますので、環境としてはあまり変わっていないと思います。
1年生から4年生の区切りであれば4年生がリーダーになりますし、前期課程の区切りであれば6年生がリーダーになります。環境が変わらない分、縦割り活動で上級生としての様々な活躍の場面をつくることで、子供たちにリーダーの役割や意識を持たせることがすごく大事だと思っています。
今は新型コロナウイルスの感染予防のために皆が一緒の活動をやりにくいのですが、学校行事や児童生徒会の活動などで、徐々に縦割り活動をやっていく予定です。この間は9学年でかるた大会をやりました。9年生がグループのリーダーになって、違う学年同士でも対戦しました。また2学期には、大きな行事として体育祭と文化祭があります。小学校は中学校に比べて配慮することがたくさんあるので、安全面などを考慮しながら9学年でどのように実施すると教育効果を高めることができるのか考えているところです。

――今はアクティブルームが児童クラブとの共用スペースとして活用されていますが、松東みどり学園の地域における役割、地域とのつながりについて最後にお聞かせいただけますでしょうか。

学校と児童クラブが同じ建物にあることで、親御さんもすごく安心だと思います。教員も何かあれば児童クラブの方に連絡できますし、アクティブルームで子供たちが遊んでいる姿は職員室からも見えますしね。大人の目がたくさんあることで、不審者への対応や災害時の避難誘導がしやすく、子どもたちの安全を守ることができます。
それから来年の4月には、松東地区にある2つの保育所が1つになり、松東みどり学園の隣に新しいこども園が開園します。完成すればこの地区の子供たちは、こども園入園から義務教育学校卒業までずっとこのエリアで過ごすことになります。将来の自分の姿を想像しながらたくましく育ってほしいですね。
最近、新設される校舎では地域のコミュニティ施設としての役割を担っている場合が多く、この地区でも松東みどり学園ができたことでそのような形ができつつあると思っています。

――近年は地方創生の観点からも、学校を核とした地域づくりが推進されています。松東みどり学園は松東地区の学びの拠点として、今後ますます重要な場所になりそうですね。本日はありがとうございました。

ステージ

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