働きやすい環境づくりの一環として
消防署の仮眠室にカプセルベッドを採用

2021.10.20
インタビュー
わが国では、高齢化の進展に伴い災害時要援護者や救急搬送者が増加するとともに、大規模化・多様化する自然災害への対応も増加し、消防・防災・救急活動を担う消防力の強化が強く求められています。特に救急出動件数は近年増加し続けており、その対応が急務となっています
こうした中で優秀な人材を確保していくために、全国の消防本部ではストレス対策など心身の健康管理、ワークライフバランスをはじめとした多様な働き方への配慮、女性職員の積極的な採用など、職場環境改善のための様々な取り組みを行っています。職員が24時間勤務する庁舎でも施設面の整備が進められ、その一つとして仮眠室にカプセルベッドが採用されています。既存庁舎の限られたスペースを活用して個室に近い空間を確保できるため、プライバシー保護や感染対策の観点からも有効だからです。
ここでは、増隊する救急隊の仮眠室にカプセルベッドを導入いただいた粕屋北部消防本部の江嶌将成氏と今富 龍氏に、導入の経緯や働きやすい職場環境への取り組みについてお話を伺いました。

※2019年中の救急自動車による救急出動件数は過去最多の663万9,767件で10年前と比べて約30%増加、それに対して救急隊設置数は2020年4月1日現在5,270隊で、10年前と比較して約7%の増加に留まっている。(「令和2年版 救急・救助の現況」「令和3年2月消防の動き 598号」より)


粕屋北部消防本部 総務課企画財政係長 消防司令
江嶌 将成 氏

粕屋北部消防本部 総務課企画財政係主任 消防士長
今富 龍 氏

救急隊の増隊に伴い、既存庁舎内での仮眠室増設を検討

――カプセルベッドを導入した経緯をお聞かせください。

江嶌
粕屋北部消防本部は福岡県古賀市と糟屋郡新宮町を管轄し、本部・本署と新宮分署を合わせて約100人の職員が所属しています。消防本部としては小規模な方ですね。本部・本署には約80人いますが、そのうち私のような事務職の約20人は平日8:30~17:00の毎日勤務、残りの約60人が救急隊と消防隊で三部制の24時間交替制勤務になっています。仮眠室を使うのは1日に約20人です。
現在、本部・本署の救急隊は1隊が専属、もう1隊は救急隊と消防隊の兼任だったのですが、救急の出動件数が増えてきたために2022年度から専属の救急隊を2隊にすることになり、救急隊専用の仮眠室がもう1室必要になりました。

――救急隊と消防隊の仮眠室は別なのですね。ちなみに仮眠時間はどのぐらいですか。

江嶌
他は違うかもしれませんが、粕屋北部消防本部では昔から消防隊と救急隊の仮眠室が分かれていました。出動件数が救急隊の方が圧倒的に多いことも関係しているかもしれません。これまでの仮眠室は救急隊の1隊分と消防隊用の2つで、1階にあります。床より高くなっている畳のスペースに布団を敷いて寝ていて、今は感染予防のために飛沫防止のカーテンを仕切りとして設置しています。
仮眠時間については規則上7時間ですが、その間に電話番などがあります。出動がなければ4、5時間は仮眠室にいることになりますかね。ただ最近は1日当たりの平均出動件数が10件程度になり、夜中に必ず出動するような状況になっていたので、2隊に増やして交互に出動できる環境にしたかったのです。
救急隊を増やすことになった時、1つの部屋で2隊・6人が寝るのは狭すぎるということで別室を作ることになりました。その際、庁舎内に作るのか、新たな建物を作るのかで検討したのですが、何とかスペースを確保できそうということで今の庁舎2階の場所になりました。最初は普通のベッドを置くつもりでしたが、感染予防対策という面もあり、このスペースにベッドを3つ並べるのは厳しいのではないかと悩んでいたところ、たまたまコトブキシーティングさんのカプセルベッドのことを知ったのです。それで今富ともう1名で体験に行ってもらいました。

――実際にご覧いただいて、弊社のカプセルベッドの印象はいかがでしたか。

今富
実は、カプセルベッドはコトブキシーティングさんのショールームで初めて見ました。インターネットなどで見たことはあったのですが、泊った経験もなかったので未知数な所がありました。ショールームに見に行ったことでカプセルベッドの良さがわかりましたし、導入したときのイメージもわきました。

江嶌
その時は今富から動画がたくさん送られてきて、室内が広くて寝心地も良いと大絶賛だったんですよ(笑)。それで、そこまで言うなら検討しようかということになりました。私は一度カプセルベッドに寝たことがあり、狭いとか臭いがしたという印象があったので、最初は仮眠室に入れることが想像できませんでした。それで結局、私も後で見に行くことになりました。
実際に見て、これなら予定している庁舎の狭い空間でも3人がゆっくり寝られると思いました。コトブキシーティングさんのカプセルベッドは、上下段のベッドが互い違いに配置できる点もポイントでした。上の段への出入りの際に下の人とぶつかる心配がなく、出動時の支障がないのが良かったです。正直、予算的には予定より高かったのですが、過酷な業務の消防職員にとって仮眠室は非常に重要なもので、そこは大事にしたいという思いが強かったからです。
決めるにあたっては、同じ福岡県の中間市消防署が採用していたのも参考になりました。実際に使っているところの生の声が聞けたのは良かったと思います。

雑音や光を遮るカプセルベッドで睡眠の質が向上

――現在は寝具の管理など、どのような使い方をされていますか。

今富
来年度に新しく救急隊専任になる職員が新しい仮眠室を使っていて、消防隊ともう1つの救急隊は従来の1階の仮眠室を使っています。今、私は救急隊と消防隊を兼任していますが、2022年度から救急隊専任になります。
寝る場所は一人ひとり決まっていて、上が小隊長で私は下の右側です。夜中にも平均1~2回の出動があるのですが、それ以外にも私ともう一人は夜の電話番があり、小隊長より起きなければならない回数が多くなります。そのため小隊長は、出入りの楽な下の段を私たちの場所にしてくれたのかもしれません。

江嶌
寝具はレンタルなので定期的に交換してもらっています。一人1セットあり、寝るときに自分で敷いて使い終わったら片付ける形です。そのため、各自が寝具を収容する棚を設けています。

――導入いただいて約2カ月たちますが、実際に使ってみた感想をお聞かせください。

今富
中が広いので快適に過ごしています。私の身長は181cmありますが、きちんと上の方に頭を置けば縦の長さも足ります。これまでの仮眠室は光や音が気になることがありましたが、そうした点はカプセルベッドになって改善されました。何より良かったのは、勤務明けに疲れが残りづらくなったことです。
以前は、勤務明けは睡眠が足りずに家に帰ってから寝ていました。でも最近は子供が小さいためなかなか寝ることができずに我慢していた面もあったのですが、今は仮眠室でしっかり眠れるので家で寝なくても大丈夫になりました。カプセルベッドになって確実に睡眠の質が上がっていると思います。
全国的にこの10年ぐらいの間に建て替えた消防庁舎は、ほとんどが仮眠室を個室にしていると思います。24時間勤務は体に負担があると思いますが、良い状態で仮眠できる環境が整うことで慢性的な疲労の蓄積を軽減でき、長期的には健康に良い影響があるかもしれませんね。

――他の方の反応はいかがですか。

江嶌
いびきがうるさいという声はまず聞かないですね。強いて言えば隣で寝がえりを打った時に振動を感じるという声はたまにあります。ただ、他の人が仮眠室に入ってきたときの音も気にならないとも聞くので、よっぽど動き回る人間の時かなとは思います。中には緊急指令が聞こえないぐらい爆睡すると言っている職員もいました。そのぐらい寝付きが良いみたいですね(笑)
それとプライベートな空間を確保できるので、仮眠以外にも使えるのが良いですね。先日は、具合の悪い職員が出たときにここで寝かせました。仮眠で使うのは夜だけなので、体調不良の職員を少し休ませるという使い方もできると思います。

様々な側面から働きやすい職場環境を目指す

――ホームページをはじめ広報活動にも力を入れていらっしゃいますね。

江嶌
消防署の活動を住民に知ってもらい住民の信頼を得ることで、災害などの有事の際にも消防の話に耳を傾けてもらえるようにというスタンスで活動しています。こうした地域に根ざした草の根的活動が、災害に強いまちづくりの推進にもつながると思っています。
また、色々な情報を発信している消防本部には受験者も集まるということもあり、採用の面でも大事だと思っています。

――採用で言えば、2021年度に初めて女性職員を採用されました。

江嶌
他に比べると女性職員の採用は遅いです。本腰を入れはじめたのは数年前からですが、1名採用するまでにも結構時間がかかりました。
女性職員用の施設はこれから工事を始める所です。もともと書庫だった場所を改修して、トイレ、お風呂、仮眠室などを整備します。今回も庁舎内に作るか、新しい建物を建てるかで悩んだのですが、別の建物だとそこに女性が一人で泊まることになるので、中の方がいいかなと。結局、24時間受付業務がある災害対策室の近くにスペースを工面して作ることにしました。
施設の整備だけではなく、各種制度などの規定も徐々に整備しているところです。男性職員が育児休暇を取った事案も過去にあり、職員の要望があれば積極的に対応していくというのが本部の方針です。
※2020年4月1日現在で女性消防吏員「0」の消防本部は、全726消防本部中、154本部(21.2%)。全国の全消防吏員数に占める女性割合は3.0%(「令和2年度消防庁女性活躍ガイドブック」より)



――最近、消防や救急が置かれた状況に変化はありますか。

江嶌
コロナ禍の影響はあると思います。事前に感染者とわかっている場合はまだいいのですが、感染者かどうかわからないという不安感が常に伴うことで、精神的負担が大きくなっているのかなと。消防隊も同様ですが、救急隊は特に強く感じているはずなので、それに対応した環境づくりが必要だと思っています。

――粕屋北部消防本部では、以前からストレスチェックなどのメンタルヘルス対策にも取り組んでいますね。

江嶌
厚生労働省の「心の健康づくり計画」に基づいて、産業医や保健師の方と一緒に心身両面の健康管理に取り組んでいます。規模が小さいからできるということもあるかもしれませんが、職員のコミュニケーションもある程度とれているのではないでしょうか。不安を口にできないとストレスが溜まっていきますが、同じ不安を抱える人間が周りにいて、常に話ができることで緩和できている気がします。
私は施設管理担当ですが、メンタルヘルスや人事など組織運営に関わる担当者と常に話し合っていて、少しずつでも働きやすい環境にしていきたいと皆で頑張っています。消防本部の予算は税金や地方債などで賄われているわけで、何にでもお金が出るわけではありません。でも職場環境改善のために本当に必要な物に対しては、必要性が伝われば予算が出るようになってきました。今回の仮眠室の前にも、1階仮眠室の棚や壁紙、床の修繕も行っており、節約しながらも大事なところは整備を進めています。
コロナ禍はまだ続くと思いますし、withコロナの中でも頑張っている現場の職員を支えられるように、働きやすい環境づくりに取り組んでいかなければと思っています。

――色々な面で働きやすい職場環境の整備が進むことで優秀な人材が増え、消防力が強化されていくことを一市民として期待しています。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


関連リンク


取材日:2021年8月

カプセルベッド仮眠室

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