今だからこそ、大切にしたい人とのつながり。東日本大震災後にオープンした、人々の絆を結ぶ「フレキシブル」なホール

2021.06.25
事例特集

東日本大地震から10年が経ったいま、私たちは新型コロナウイルス感染症の感染拡大という事態に直面しています。さまざまな未曾有の危機が訪れるなか、私たちが肌身を持って感じていることは、「人は、人との関わり合い無しでは生きていけない」ということではないでしょうか。 東日本大震災の被災地では、被災した施設の再建が進められています。いま注目されているのが、「フレキシブルな利用」を想定したホールづくり。特に、市民の日常生活に溶け込んだ公共のホールは、講演や発表の場だけでなく、軽い運動や展示会会場、災害時の避難場所や物資置場など、多様性が求められています。今回は、新たな人々の交流の場として、さまざまな活用が期待される東北沿岸部地域のホールをご紹介します。

01本格的なコンサートから日常の憩いの空間まで、町の賑いを創出

釜石市民ホール TETTO
ホールA

東日本大震災から6年9ヶ月が経った2017年12月、釜石市民ホールTETTOに「釜石の第九」が響き渡りました。震災後も絶えることなく歌い継がれた、釜石の人々にとって特別な交響曲。「歓喜の歌」とともに、新たなホールの歴史が華々しくスタートしました。

二つのホールをもつ釜石市民ホール TETTO。2層の客席から成る本格的な劇場仕様のホールAは、1階の客席を全て可動式としました。劇場イスを搭載した移動観覧席と、イスを設置した床ごと動くワゴン席で構成されています。未使用時は、全て前方に収納することが可能。そのため、本格的なホールでありながら、平土間として使用することもできる空間が生まれました。

1階の客席を収納すると、フラットなフロアが生まれます。その状態でホール後方のスライディングウォールを開けると、その奥に広がるホワイエと一続きになるのです。さらに、ホワイエとその奥のホールB、さらにその奥の広場との間に設置されたスライディングウォールをそれぞれ開けると、ホールAからホワイエ、ホールB、広場が一体となった広い空間が生まれます。コンサートから平土間を使ったイベントまで、地域の多様な催しに役立つホールです。

同じ敷地内にある釜石情報交流センターとの間につくられた広場には、大きなガラス屋根がかけられました。隣接する大規模商業施設や商店街を利用する人の通り道としてだけでなく、日常の憩いの場となっています。

02ホールの多機能化でイベントの幅が広がり、高い稼働率を実現

女川町生涯学習センター
ホール

2018年10月、女川港を見下ろす緩やかな斜面に建てられたのは、生涯学習センター・保健センター・子育て支援センターが一体となった、複合型の庁舎です。このうち、生涯学習センターには、研修室とホールが設けられました。

412席が整備されたホールは、講演やコンサートなどで多目的に利用できる、多機能イベントホールです。町民が気軽に利用しやすい規模を目指し、以前よりも一回りコンパクトなホール空間を創り上げました。客席を構成するのは、移動観覧席とスタッキングチェア。イベントの内容に応じて必要なイスを組み合わせることによって、席数を調整することができます。周辺地域のホールには既に導入されていた移動観覧席ですが、女川地域では初の採用となりました。両側の壁いっぱいまで席が広がっているため、端に落下防止の手摺を設ける必要がなく、移動式の席とは想像できないような洗練された外見です。ホールの内装とも調和し、落ち着いた装いの観覧席になりました。

イスの張地には、3色のブルーを使用。ブロックの列ごとにランダムに張り分け、女川の海の揺らぎを想起させる配色に仕上げました。オープン以来、著名人のコンサートから地元住民の発表会まで、さまざまな行事やイベントが行われ、高い稼働率で注目を集めているホールです。

03復興住宅や広場との連動を目指した、住民が気軽に利用できるホール

陸前高田市コミュニティホール
シンガポールホール

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。シンガポール赤十字社からの寄付金を基につくられたのが、地域住民のためのコミュニティ施設「陸前高田市コミュニティホール」です。

震災前、市民が気軽に利用していたのが、「陸前高田ふれあいセンター」の多目的ホールでした。市民会館よりもコンパクトな会場で利用しやすかったためです。電動で客席を出し入れできる、移動観覧席も整備されていました。そのため、新たなホールにも移動観覧席を導入することが決定。観客席を使用しない時はホール後方の壁面に収納される、壁面収納式タイプが導入されました。収納時は、壁面と揃えたデザインの化粧パネルを施すことによって、移動観覧席の存在を感じさせないすっきりとした空間をつくりあげます。移動観覧席の搭載イスと張地を揃えたスタッキングチェアを並べれば、最大330席のホールとして、多種多様なイベントに対応できます。

建物は、施設と広場が連動して活用できるよう、円形の広場を囲むようにしてつくられました。広場の向こう側にはコミュニティホール後に建設された復興住宅が隣接し、市内全域から集まった住民のコミュニティの場として、日々賑わいを見せています。

04駅直通の高い利便性で、市民が利用しやすい複合庁舎内のホール

イーストピアみやこ(市民交流センター)
多目的ホール

「イーストピアみやこ」は、岩手県宮古市の新たな庁舎です。2018年10月、市民交流センターと保健センターとの複合施設として建設されました。宮古駅前から直通の自由通路(クロスデッキ)を利用することができ、利便性も抜群。震災の経験を元に、災害発生時には災害対応拠点として、また被災者支援の拠点としても機能するよう、各種設備を備えています。

市民交流センターに設けられた多目的ホールは、クロスデッキにほど近い2階フロアにあります。通路に面した壁の一部は大きなガラス張りで、自然光が間接的に入る明るいホールです。多目的ホールの外からも中の様子がよく見え、センター全体の活気を生み出しています。

キャパシティは、最大180席。一般市民が利用しやすい規模に設計されています。客席は、さまざまなイベントや市民活動に使用したいという目的のため、展開・収納ができる移動観覧席が採用されました。他の施設の視察を経て、誰にでも簡単に操作ができるフルオートタイプの移動観覧席に決定。ステージも必要に応じて収納ができるため、ホールの多様な活用が可能です。

オープン以来、各種式典や集会に加えて、映画鑑賞会・日本舞踊の練習や発表会・地元の若者によるイベントなど、幅広い用途で多くの人が集っています。

※この記事は、過去に掲載した納入事例記事をもとにご紹介しています。

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、現在は利用を制限している施設もございます。

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