台湾 新竹市影像博物館は、1933年に建設された92年の歴史を誇る由緒ある建築物です。日本統治時代には地域の娯楽の象徴として親しまれ、日本と西洋の様式が融合した美しい外観は今も人々を魅了し続けています。国民政府時代を経て、映画文化を伝える博物館として25年の歩みを重ねてきた同館は、このたび老朽化した館内設備の更新と安全面の改善に着手しました。ホールの移動観覧席を最新システムのものへと刷新。会場運営の柔軟性と鑑賞の快適性を大幅に向上させました。
今回は、「地域住民の共通の記憶を育み、映像教育を普及させる」という博物館の使命をいかに担っていくか、執行長の呂宗憲氏にお話を伺いました。

新竹市映像博物館 執行長 呂宗憲氏
新竹市影像博物館(以下、影博館)の歴史
――影博館についてご紹介いただけますか?
影博館は1933年、台湾が農業から工業へと転換を遂げていく時代に建てられました。当時の日本統治下における代表的な建築物の一つです。州庁をはじめとする行政施設と異なる点は、ここが当初から「娯楽の場」として設けられた、特別なランドマークであったことです。
明治維新後、西洋で建築を学んだ日本人建築家たちは、その成果を日本国内で実現しようとしましたが、当時の厳格な法規制に阻まれることも少なくありませんでした。一方、台湾では比較的自由な設計が認められていたため、彼らの創造性が存分に発揮され、和洋折衷の独特な建築が次々と生まれました。1930年代以降に見られるこうした様式は、実は日本国内ではほとんど例のないものです。
娯楽施設ならではの意匠も随所に息づいています。たとえば壁面を飾る蔓草紋(アラベスク模様)は、アラブ文化において「天国」を象徴するもの。正面や側面に施された星形の意匠は、訪れる人々に特別な体験を予感させます。当時としては珍しく冷房を備えた欧風劇場であり、一歩足を踏み入れれば贅沢な世界が広がる——そんな夢のある空間でした。
戦時中は空襲を避けるため、建物はアースカラー(防空色)で塗装されていました。実際に爆撃の影響を受けたともいわれていますが、着弾は屋根部分にとどまったため構造的な致命傷は免れ、建物は今日まで保存されています。
戦後は、日本軍から国民政府へ引き継がれた、歴史的な場所でもあります。
ホールの多目的利用を目指したリニューアル

1階には移動観覧席(搭載イス:タイプL)、2階には固定席「Crescendo」TS-11を納入
――今回のリニューアルに踏み切った、具体的なきっかけは何だったのでしょうか?
最大の理由は「安全への懸念」です。以前の移動観覧席は、実は10年以上前から故障しており、展開収納機構が機能しない状態でした。座面が歪んだり変形したりしているイスもあり、非常に危険な状況でした。
当館には高齢の方やお子さんの来場者も多いため、壊れたイスに不格好な「×印」を貼ったりガムテープで応急処置したりして凌ぐ状況は、運営側として忍びないものがありました。多目的な活用を図りたくても観覧席を収納することができず、修理用のパーツもすでに廃番。座席のきしみ音も深刻で、市民の皆さんに安全で快適な環境を提供するために、設備の更新は避けられない課題でした。
――座席の選定や配置において、こだわった点を教えてください。
スペースを多目的に活用したいという思いから、移動観覧席であることは絶対条件でした。また、公営施設として保守・メンテナンス性の担保は非常に重要な要件です。同色の張地を少なくとも10年間は確保できると約束してくれました。これは他社の提案と比較しても、非常に心強いものでした。
加えて、以前は各段の高さが不揃いで、前の人の頭でスクリーンが見えないという不満の声がありました。今回のリニューアルでは視線の確保(サイトライン)を徹底的に計算した結果、今年の「新竹こども映画祭」では視界に関するクレームがゼロとなり、来場者数も例年の2〜3倍に増加しました。
――配色も印象的です。なぜモノトーンを選ばれたのですか?
いくつかのカラーバリエーションの中から、「映画のフィルム」をコンセプトに黒と白の配色を選びました。映像への集中を妨げないよう、反射を抑えたダークカラーの張地を基調としつつ、白いイスをランダムに配置することで、視覚的なアクセントと写真映えするデザインを両立しています。現代的な機能性を備えながら、影博館らしいアイデンティティを体現できたと思っています。
世代を超えたつながりを育む施設へ
――新しい座席を導入して、どのような変化がありましたか?
「快適さ」の向上は、来場者の皆さんが共通して強く実感されています。また、座席間隔の統一化も大きな成果だと感じています。通路や列の間隔が整ったことで移動や出入りがスムーズになり、利便性が格段に上がりました。
――新しい移動観覧席の導入後、会場の使い方は変わりましたか?

いちばんの変化は、「イスを収納できるようになった」ことです。客席状態の会場からイスが綺麗に収まっていく様子は非常に印象的で、外部のスタッフにも驚かれることが多いです。普段はイスが並んだ状態しか目にしないため、収納の過程自体が新鮮に映るようです。
この操作性の良さも大きな魅力ですが、何より嬉しいのは「以前はやりたくてもできなかったこと」が実現できるようになった点です。影博館ではかねてからワークショップや育成講座の開催を検討していましたが、観覧席を収納できないために実施できずにいました。
講座では机やイスの配置、グループワークのために1階の広いスペースが必要です。以前は外部施設を借りて対応していましたが、今回のリニューアルによって館内で完結できるようになりました。
今年の夏には、1階の座席をすべて収納し、ワークショップや青少年映画キャンプを開催しました。午前中は1階の平土間状態でグループ討論を行い、午後は2階席で映画を鑑賞するというプログラムで、その組み合わせは非常に効果的でした。実際に運用してみて、これほど柔軟な使い方が可能であることをあらためて実感し、今後の運営の指針にもなっています。このような機動的な活用は、従来の設備では実現できなかったものです。参加者にとっても、非常に有意義な体験となりました。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
影博館の使命は「映像教育の普及」です。新竹は科学園区(サイエンスパーク)の影響で移住者が多い街ですが、ここで育つ子どもたちがこの場所で映画と出会い、祖父母世代の思い出と自然につながっていく。そんな「世代をつなぐ結節点」でありたいと考えています。
観覧席の柔軟な運用が可能になったことで、トークショーや記者会見、さらには結婚写真の撮影など、映画鑑賞以外の目的でも市民の皆さんがこの歴史的空間を訪れるようになりました。活動の幅が広がり、つながる人々の層も豊かになっています。今後はより多角的な展開を進めながら、次世代との絆をさらに深めていきたいと考えています。
――地域の未来を活性化させる一助を担えたことを、大変誇りに思います。本日はありがとうございました。
