地域に必要とされる特徴ある病院を目指し
最良の医療と「心安らぐ癒やしの空間」を提供

2026.04.08
インタビュー
一般財団法人 倉敷成人病センターが運営する「倉敷成人病センター(269床)」は、1971年に岡山県倉敷市に設立。一般的な慢性疾患から緊急の治療を要する急性期疾患、周産期医療などにも力を入れ、“ひとりひとりにやさしく、最良の医療を提供する病院”をモットーに幅広い診療を行っています。また一般病室を全室個室とし、無料にするなど、心穏やかに治療に臨んでいただける療養環境を提供しています。2021年にはセンター棟の改修とともに地上6階建ての新棟を増築。新棟は「心安らぐ癒やしの空間」をコンセプトに、治療や設備面での最新技術導入に加えて、患者さんやご家族の心と体への負担軽減に配慮。ゆったりとしたパーソナルスペース、開放的なエントランスや移動観覧席を備えたホール(最大340人収容)などのパブリックスペースにもこだわり、無機質で殺風景という病院のイメージを一新する趣向を凝らした内装・演出を施しています。
開院から約5年、“病院なのに居心地が良い”空間を目指した目的やその効果について、新棟建設プロジェクトのリーダーを務めた副院長 今村牧夫氏にお話を伺いました。


一般財団法人 倉敷成人病センター
倉敷成人病センター 副院長/診療支援部長
今村  牧夫 氏

ホテルのようなホスピタリティを追求した新棟


――新棟建設の目的について教えてください。

倉敷市は少し特殊な医療圏で、私たちが属してる県南西部医療圏には当院を含めて多くの病院があります。特にベッド数が1,000床を超えるいわゆる“メガホスピタル”と呼ばれる病院があり、地方では珍しい状況といえます。その中で、私たちのような269床しかない病院がどうやって生き残っていくのか、それが当院の経営テーマになっています。大きな総合病院がある地域で小さな総合病院をつくっても生き残ってはいけません。そこで診療内容はもちろん、設備や患者さんへのサービスなど、医療以外の部分にも特徴があるユニークな病院づくりに力を入れています。
新棟は2016年、医療体制と患者受け入れキャパシティの強化を目的に建設プロジェクトを立ち上げ、私がリーダーを担当しました。その際、地域の方々がすぐに思い浮かべてくれるような特徴があって、さらに今後20年、30年先にも医療面において通用するような、付加価値の高い病院をつくりたいと考えました。

――新棟は「心安らぐ癒やしの空間」がコンセプトになっています。

ホテルのような病院をつくりたいというのが創立者の発想でした。もともとホテルとホスピタル、そして現代で”おもてなし”という意味をもつホスピタリティは語源が一緒で、「旅人・客・宿主」などを意味するラテン語の「ホスペス」から来ているそうです。同じ語源であるホテルに比べて、病院はホスピタリティを軽視して専門的な医療に走ってしまっているというのが創立者の考えでした。そのため2004年に建設したセンター棟も、ホスピタリティを重視した病棟になっています。例えば病室は全室個室にしました。一般的な病院は個室の差額ベッド料金がかかりますが、当院は全室個室で、特別室3室以外はすべて無料で利用できます。
ですから新棟は、20年近く前に建設された既存棟に負けないホスピタリティの高いものをつくらなければというプレッシャーもありましたね。そこで温もりがありながらもおしゃれな内装、癒しの演出などを工夫し、病室は過ごしやすさを追求して細部までこだわりました。エントランスホールやラウンジなどのパブリックスペースも充実させ、病院にいる緊張感を忘れることができる居心地の良い空間を目指しました。

――オープンしたのは設立50周年記念の2021年でしたね。

最初から目指していたわけではなかったのですが、コロナ禍の影響もあり、結果的に50周年の年に完成しました。
新棟建設と既存棟改修はセットで一つのプロジェクトだったので、新棟の工事が終わってすぐに既存棟の改修工事に入りました。既存棟の建物自体は古くはなかったのですが、より効率的で質の高い医療が提供できるように動線を変え、病棟があった場所を外来にするなど大規模な改修を行いました。新棟は2020年12月に工事が終了しましたが、既存棟の改修工事まで全て終わったのが2021年7月になります。

学会や講演会での利用を想定した3分割できるホール

――新棟の最上階にはホールがありますが、以前からこうした施設があったのでしょうか。

隣接地にグループ施設である倉敷成人病健診センターがあり、その4階に大会議室がありますが、ホールのような施設はありませんでした。ではなぜできたかというと、私がつくりたかったからです(笑)。
ホールは診療の役には立たないし、1円も生み出さない施設ではあります。でもこうした施設があることで、病院の知名度や格式のようなものが上がるのではと思っています。何よりこんな素晴らしい施設がある病院だと、職員にもプライドを持って働いてもらいたい。それが一番の理由ですかね。

――どのような利用を想定されていましたか。

医療業界は学会が多いのですが、全国規模の学会ではなく地方会程度のイベントができる施設にしたいと思っていました。学会や講演会の会場になれば多くの人が集まるので、医療関係者や地域住民など患者さん以外の方にも当院を知っていただくきっかけになります。

――ホールは最大340名収容ですが、3分割できるようになっていますね。

全国レベルの学会だと数千名規模で、何十もの会場で同時に複数の発表が行われるのが一般的です。地方の学会の場合は100名、200名規模ではありますが、やはり複数の演題が同時進行することが多いので、可動パーテーションで3分割できるようにしました。そして、分割したときに効果を発揮するのが階段状の移動観覧席です。平土間にイスを置くよりも多くの席を簡単に設置できるので、3分割した時にもある程度の席を確保できます。それで設計の方に、階段状の席を入れたいと相談しました。
その際に紹介されたのがコトブキシーティングさんの移動観覧席です。仕様が色々あったので、せっかくなら妥協せずに良い物を選ぼうと思い、テーブルを付けました。またシートの色は当院のコーポレートカラーの青と赤を選択し、左右の観覧席で青と赤が互い違いになるように配置しています。

※可動パーテーションにより、ホールを3分割することが可能

――移動観覧席の導入は今村先生のご要望だったのですか。

はい。観覧席を向かい合わせにレイアウトしたのも私の要望です。アメリカの大統領選挙などで見た中央のステージを囲むように観客席がある会場をイメージして、一方向だけではなく向かい合うような形で席を配置しました。それに一方向だけで席を配置すると、ある程度の天井高がないと多くの席を設置できません。しかし天井高を上げると建築費が増加してしまうので、天井高は上げずに席数を確保する理由もありました。
また、ステージも私がお願いしました。設計の方に壁面に収納できるタイプがあることを教えていただき、気に入って採用しました。女性でも容易に引き出せるので、使い勝手も良くて便利ですね。

※移動観覧席とステージは、使用しない時は壁面に収納できる

――色々なお考えが反映されたホールなのですね。

これまでたくさんの学会に参加して色々な会場を見てきたので、つくるなら自分の経験の集大成にしたいと思いました。実はほかにもまだこだわりがあって、スクリーンがホールを3分割した時用の三つだけではなく全部で五つあります。分割せずに大ホールとして使用する際、左右の階段席からだとメインスクリーンが斜めになって見にくくなります。そのため二つのサブスクリーンでサポートすることで、どこから見ても正しい映像を見ることができるように工夫しています。

――実際の利用状況はいかがですか。

当院の職員による利用が一番多いですね。職員研修会やカンファレンスなどが日常的にあり、ほぼ毎日使用しています。現在は大ホールとして移動観覧席を設置したままの利用が多いですが、ここはホールを分割したり移動観覧席を収納できるフレキシブルなレイアウトが特徴なので、今後は会議室やその他の利用も増えることが予想されます。
院外の利用としては、学会の地方会や、地域の医療従事者向けに行う研究会や勉強会でも使っています。また一般市民の方に向けた市民公開講座、周産期センターが開催する患者さん向けの講座なども開催しています。院外の方向けの行事は以前から行っていましたが、スペースの問題で30名程度の規模でしか開催できませんでした。しかしこのホールができたことで受け入れられる人数が一気に増え、多くの方々に参加いただけるようになりました。

――6階にはホールのほかにスカイガーデン(屋上庭園)もありますね。

ホール内は飲食禁止にしているので、当初からスカイガーデンを飲食できるスペースとしてセットで考えていました。スカイガーデンにはベンチシートがあり、テーブルとチェアを置くこともできるので、休憩時間に外でコーヒーブレイクをしていただくイメージでした。
本当はそうした利用も含めてもっと活発に利用するつもりだったのですが、オープンした時がコロナ渦だったのでそうはいきませんでしたね。ですので、これからはスカイガーデンも含めて積極的に使っていきたいです。

変化する時代や地域のニーズに対応できる病院を目指して

――院外の方々からのホールの評判はいかがですか。

評判は良いですね。病院で普通にあるものではないので、皆さん「すごいですね」と言ってくださいます。そもそも6階でエレベーターを降りた段階で、「えっ?」と言われます。他のフロアの床は普通のタイルですが、ここだけは床が絨毯敷で病院らしくない雰囲気になっています。ですので見学の方がいらっしゃった時は、私は必ず最後の最後にここに連れてきます。当院を印象づける決定打になりますので(笑)。

――確かに6階はほかのフロアと雰囲気が違います。

6階の奥には新しく開設した美容科があります。この場所は、将来新しい診療科を設置できるようにとずっと空けてあったところです。このフロアの雰囲気に合う診療科ということで、当時から不妊治療や美容など自費診療での外来を想定していましたが、2025年9月、新しい診療科を設置するには良い時期と考えてオープンしました。

――本当に長期的な展望を基に新棟を計画されたのですね。

新棟建設は20年、30年先を見据えており、変化する時代や状況にも対応できるように、成長の余地を残した病院棟を設計しました。ですので、6階以外にも空きスペースを設けて、新しい診療科や設備機器を導入する場合にも対応できるようにしています。
例えば新棟には放射線治療エリアを新設し高精度放射線治療装置を導入したのですが、こうした機器は必ず更新の時期が来ます。ですが入れ替えてすぐに新しい機器が使えるわけではありません。機器を止めた後に冷却期間を置いて取り外し、新しい機器を設置してから試運転を行うので、1室しかなければその期間の診療が止まってしまいます。そこで現在稼働している治療室の隣にもう1室予備の治療室を設けて、機器を更新する際にも治療を止めなくてよいようにしてあります。これは病院のBCP対策として非常に重要なことです。また、放射線治療患者が大幅に増えた場合には、2機目の放射線治療装置を設置することもできるので、当院の成長に合わせた利用が可能です。

――新棟オープンから5年近く経ちますが、患者さんからの評判はいかがですか。

医療機関は積極的な広報活動ができません。ですので当院を利用した患者さんひとりひとりに良い体験をして帰っていただくことが大切です。そのためには医療はもちろん、それ以外の接遇や設備などについても付加価値の高いサービスを提供することを常に心がけてきました。その甲斐あってか、ありがたいことに「倉敷成人病センターは良かったよ、入院するならあそこがいいよ」と周りに言ってくださる患者さんも多く、それが一番の宣伝になっています。
私たちは「地域の人々から信頼される医療を提供する」という創立者の想いを引き継ぐと同時に、時代や地域のニーズにも柔軟に対応しながら、倉敷市で必要とされ続ける特徴ある病院を目指してきました。その想いは一貫して変わっておらず、それが今、成果となって現れてきているのかもしれません。

――きっと貴院の長年続けてきた取り組みが地域に浸透してきたのだと思います。本日はありがとうございました。

取材日:2026年1月

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