“ホステル”文化を取り入れた交流・体験を提供する
新感覚のカプセルホテル

2026.02.09
インタビュー
1957年に建設された大分県別府市の別府タワーは、「別府のシンボル」として市民に親しまれている観光塔です。東京タワーや通天閣などとともに通称「タワー6兄弟」と呼ばれ、2007年には国の登録有形文化財に指定されました。2022年5月からは別府市の観光再生を目指して大規模改修工事を開始。“復元”をテーマに掲げて竣工当時の色や高さを再現し、2023年1月にリニューアルオープンしました。
その別府タワーに2025年7月にオープンしたのが「カプセルホステル 別府タワー」です。1泊2,800円からというリーズナブルな設定にも関わらず、バーカウンターやサウナ、ビアガーデンなど充実した施設を併設した新タイプのカプセルホテルとして注目されています。別府観光の今後のあり方も見据えた同施設の戦略について、運営を行う株式会社リー・エンタープライズ取締役副社長の吉田知祐氏にお話を伺いました。


株式会社リー・エンタープライズ
取締役副社長
吉田  知祐 氏

別府のシンボルタワーにオープンした「カプセルホステル」

――オープンの経緯についてお聞かせください。

カプセルホテルの"安さ"と、ホステルのような"交流の場"を掛け合わせた宿泊施設「カプセルホステル」を東京の赤羽と錦糸町で運営しています。この「カプセルホステル 別府タワー」は3店舗目になります。
2店舗を運営して実感したのは、ホテルは立地が非常に大事ということです。錦糸町の店舗は新築物件で施設も新しく、錦糸町駅から徒歩7分と非常に条件が良いにも関わらず、宿泊予約サイトの評価がある程度のレベルで止まってしまっていました。その要因が立地で、歓楽街の中心にあることが影響していたようです。
そこで次はとにかく立地が良い場所でやりたいと考えて、見つけたのが別府タワーです。別府タワーは別府市のランドマークですし、国道10号線沿いに位置してバス停が近く、別府駅からも徒歩約10分と間違いなく立地は最高条件でした。

――文化財でもある別府タワーとカプセルホテルという組み合わせは意外性がありますね。

別府タワーは経営的に厳しい時期があり、現在のオーナーであるカイセイ地所トラスト株式会社さんが2021年に取得した経緯があります。その後、65周年記念事業として大規模改修を行い、2023年1月にリニューアルオープンしたのですが、私が物件を探している当時まだ3階は空いている状態でした。
今回の改修は、歴史あるランドマークを復活させることで別府市の観光再生を目指すという想いで行われています。既存の概念にとらわれない「カプセルホステル」のような施設が加わることは、別府タワーに新たな魅力を付加するという意味で面白いのではと考えました。

――別府を選んだ理由は他にもありますか。

昨今の建設費等の高騰により、首都圏はもちろん、すでに外国人に人気の観光地で物件を探すとなると多くの資金を用意しなければなりません。でも当時、別府はまだそこまで脚光を浴びていなかったので、色々融通していただきマッチングが成功しました。
マーケティングの面でも、別府には大きなアドバンテージがありました。現在日本を訪れている外国人旅行者は、韓国・中国・台湾で7割近くを占めます。つまり隣国からの観光客が一番多いということです。現在大分空港は、韓国のソウル、台湾の台北から直通便があり、別府は短時間・安価で来ることができます。そのためリピーターも多く、毎週来るような人もいるぐらいです。
さらに別府市は、福岡市に次いで九州で2番目に宿泊施設が多いと言われており、それだけ観光都市としてのインフラが整えられています。

――別府の観光地としてのポテンシャルも重要だったのですね。

雇用面で安定していることも大きな理由です。別府には立命館アジア太平洋大学(APU)があり、APUは日本で留学生比率が最も多い大学です。現在、従業員としてアルバイト学生が約30人いるのですが、その半分がインド、バングラデシュ、ウズベキスタンなどからのAPUの留学生です。そのため皆、英語が話せます。
また日常的に英語に接する職場環境に魅力を感じて、英語を学びたい日本人学生も応募してきます。お金を払って英会話教室に通うより、給料をもらいながら英語を学んだ方がメリットがあるということですよね。だから離職率も低いです。
地方は人手不足が問題になることが多いですが、APUがあることで別府なら苦労しないと予測していました。

“宇宙”をコンセプトにしたスタイリッシュな空間づくり

――一般的なカプセルホテルに比べると施設が充実していますね。

92床のベッドには、高品質な睡眠環境を提供するために体圧分散設計で腰への負担が少ないマットレスを導入し、しっかりお湯につかれるバスタブや広めの共用洗面スペースも設置しています。カプセルベッドの形態は外国人のお客様にも問題なく受け入れられており、よく眠れると好評です。また女性専用エリアも30床あり、女性一人でも安心して泊まれる環境を提供しています。
そのほかには、ホステル文化を取り入れて宿泊者同士の交流スペースを多く設けました。エントランスにはバーカウンターやワーキングスペース、キッチン、さらに5階の屋上テラスにはビアガーデン、サウナを併設しています。宿泊者はサウナを無料で利用でき、泊まるだけではなく様々な体験ができる施設を用意しています。


宿泊者の交流場所にもなるエントランス


5階屋上テラスのビアガーデンとサウナ

――施設面で特にこだわった点があれば教えてください。

今回の店舗では初めてコンサルタントと契約したのですが、最初に言われたのは「ホテルも人間と一緒で、見た目が9割です」でした。自分でもその通りだと思い、見た目にはこだわりました。大分県はロケットや宇宙船が発着する「宇宙港(スペースポート)」の計画として「スペースポートおおいたプロジェクト」に取り組んでいることもあり、内装は宇宙をコンセプトにデザインしました。その世界観を表現するために、カプセルベッドの外装パネルには特注のシートを使用し、内装に合わせて男女エリアでシートの色も変えています。
正直、結構コストがかかっており、実用面だけでいえばここまで凝る必要はなかったと思います。ただ宿泊予約サイトに写真が掲載された時、ものすごくきれいに見えるのも事実です。予約サイトで施設を選ぶときは写真の印象が大きく左右するので、その意味では一定の効果はあると感じています。


男性エリア


女性エリア

――工事期間はどのぐらいかかりましたか。

工事期間は2~3カ月で終わらせることができました。本来は4~5カ月はかかると思いますが、コトブキシーティングさんをはじめ色々な方々に協力いただいたお陰で短期間で済みました。ただ、きちんと計画を立てて取り組めば、そのぐらいの期間でもオープンできるのがカプセルホテルの強みとも言えます。また、私はコストをかけてしまいましたが、やり方によってはイニシャルコストをかなり抑えることもできるので、カプセルホテルは既存物件で事業を始めるには非常に良いビジネスだと思います。

カプセルホテルならではの運営メリット

――どのような方が宿泊されていますか。

現在は、国籍では日本人50%、外国人50%ぐらいの割合です。
地元の方については、最初から終電需要を見込んでいました。事業を始める前に何回も現地に来て市場調査をしたのですが、その時に聞いたのが別府の運転代行の少なさです。待ち時間が1時間以上になることも珍しくなく、問題になっているとのことでした。
例えば大分から別府までのタクシー代は3,500円から4,000円、深夜だと4,500円以上になります。そうであれば、2,800円なら宿泊することを選ぶ人が増えますよね。

――そこが価格設定のポイントなのですね。

はい。もちろん採算は考えて設定しています。例えばうちは、無料でついていることが多い歯ブラシなどのアメニティグッズは追加費用がかかります。私は昔、バックパッカーとして世界中を旅していたのですが、その時の経験上、パジャマや歯ブラシは持っているから必要ないけれど、バスタオルは乾燥させないと生臭くなるので持ち歩きにくかった。そこでバスタオル以外は有料にして価格を切り詰めた結果、2,800円だったら利益が出ると考えました。
価格を安くした結果、増えたのが連泊です。普通のホテルで宿泊客から「もう一泊できますか」と聞かれることは少ないと思いますが、ここでは非常に多いです。先日はオランダの方で、最初3泊の予定が10泊した人がいました。直接カウンターで予約してくれれば、予約サイトを通さないので手数料も取られません。マーケティング費用がかからないので、連泊は施設としては非常に効率が良いのです。前日、当日になっても予約が入るのはカプセルホテルならではですね。

――それにしても1泊2,800円はかなりリーズナブルですね。

“安い”ことは私のビジネスにおけるモットーです。自分がバックパッカーをしていた時の体験から、“安いけれどクオリティも高い”宿泊施設を目指そうと思いました。
安いことはそれだけで武器になります。服飾や飲食など日本で長く続いているビジネスには、安くて質も高いというものが多い。しかし宿泊については、建築費や人件費高騰などの影響もあり、安く泊まれる業態が無くなってきています。そんな時だからこそ、価格と質を兼ね備えたカプセルホテルは注目を浴びるのではないでしょうか。

“体験”という付加価値を提供する旅の提案

――7月のオープンから約5カ月たちましたが、稼働状況はいかがですか。

土日や休日は稼働率が高いですが、平日はまだこれからという感じです。東京だと毎日稼働率97%という状況だったので、そこは大きく違っていました。
カプセルホテルは一人用のイメージがあるのか、2人連れで宿泊検索サイトを検索したときにうちの施設が出てきません。東京の施設はそれでも毎日埋まっていたので特に気にしなかったのですが、別府の宿泊客はファミリーやカップルが多いので、そこでの機会損失はあるかもしれません。今後は既存のお客様に支障がない範囲で、多様な客層へのアプローチを検討することも必要だと思っています。
実際に運営してみると、親子連れでサウナに来たり、冬でも人工芝に毛布を敷いてバーベキューを楽しむファミリーがいたりと、予想しなかった需要があることも分かったので、そこに向けた新たな戦略を考えていくのも楽しみの一つですね。

――外国人旅行者への戦略はいかがですか。

うちに宿泊する外国人は一人旅のバックパッカーが中心です。自分も同じだったので分かるのですが、そうした人は出会いを求めていることが多いので、彼らが交流するきっかけになるような企画を検討しています。まずは5階展望デッキを会場にしたイベントなどから始めるつもりです。
さらに今後力を入れていきたいのが“体験価値”です。外国人旅行者がここに滞在することで、別府ならではの体験ができる、地元の人とも交流できるようなツアーを考えています。体験価値の提供は、今後ライバルが出てきたときの差別化にもつながるはずです。
例えば周辺には無料の足湯がたくさんありますが、人が利用しなければただのお湯が出ている場所でしかありません。そうした地方の埋もれた素材を観光資源に変えて、マネタイズしていきたいのです。もちろんこうしたツアーは自分一人の力ではできません。周りを巻き込んで一緒に仕事をしていただける人を増やしていく必要があります。でもそれができるのも地方の良いところだと、別府に来てつくづく感じています。

――宿泊だけにとどまらず、別府の立地を活かした様々な展開をお考えなのですね。

弊社のミッションは「『旅』で世界を繋ぎ平和な世界を作る」です。国境や文化を超えて世界の人々が理解を深め合うことに貢献するためにも、「旅」の価値を高められるような活動をしていくつもりです。そのためにも別府を皮切りに九州、いずれは韓国をはじめとしたアジア圏にも進出したいと思っています。フランチャイズ展開にも興味がありますし、将来への夢はたくさんありますね。

――お話を聞いてカプセルホテルの様々な可能性が感じられました。本日はありがとうございました。

取材日:2025年11月

カプセルベッドホテル

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