B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」は、1950年にバスケットボール同好会「東芝小向」として創部以来、一貫して神奈川県川崎市で活動を続けている歴史あるクラブです。2018年には横浜DeNAベイスターズの運営を行う株式会社ディー・エヌ・エーが東芝からクラブを承継しました。
ホームアリーナとなる「川崎市とどろきアリーナ」メインアリーナは、1階3,500席(移動観覧席を含む移動席)、2階1,600席(固定席)、3階1,400席(固定席)で最大6,500席のキャパシティを誇るホールです。同施設がある等々力緑地は、広大な敷地の中に川崎フロンターレのホームスタジアム「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」をはじめ、球場やサッカー場、テニスコートなど多くの運動施設が整備され、市民スポーツの拠点となっています。今回は株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースで競技/会場運営を担当されている葛󠄀谷将司氏に、公営施設をホームアリーナとして活動するプロスポーツクラブの運営面の特徴や地域に密着した様々な活動についてお話を伺いました。

株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース
マーケティング部 アリーナコミュニケーショングループ グループリーダー
競技/会場運営担当
葛󠄀谷 将司 氏
ホームアリーナとなる「川崎市とどろきアリーナ」
――長年川崎市を拠点に活動していらっしゃいますが、ずっとホームアリーナは川崎市とどろきアリーナだったのでしょうか。
ベースはもちろん、川崎市とどろきアリーナではありましたが、以前は他の会場も使いながら活動していました。ここを本拠地として本当にどっしり構えて活動するようになったのは、B.LEAGUEに所属するようになってからです。B1ライセンスにはリーグ戦のホームゲーム数の80%以上を同じアリーナで開催するという規定があります。それでもB.LEAGUEになった最初の頃は、まだ何試合かは他の会場でやっていました。
――それは市の施設ということが影響していますか。

私たちは「かわさきスポーツパートナー」という形で川崎市とパートナーを組ませていただいているのですが、やはりアリーナを利用したい団体はほかにも多くあり、なかなか自分たちの使いたい時にいつでも使えるという状況ではありません。
私が川崎市との調整を担当しているのですが、クラブの意義とか川崎市への貢献度などを毎年アピールし続けて、やっとホームゲームの全試合をここでやらせていただけるようになってきたという状況です。クラブの人気が徐々に出てきて、市民に認められ、地域に根付き始めてきた結果だと思っています。ちなみにホームアリーナでのリーグ戦は30試合あり、その前後の準備などの日数も含めると30日の1.5倍ぐらい利用しています。
――川崎市とどろきアリーナが市の総合公園内にあるメリットはありますか。
幅広い方々に知っていただくチャンスにはなっているかもしれません。バスケットボール以外のイベントもよく行われているので、他の目的で来ている方がキッチンカーを利用してくれたり、「何をやっているの?」とスタッフに話しかけてきてくれたり、新たなお客様とのタッチポイントになっていると思います。
――2019年にはDeNA川崎ブレイブサンダースさんが参加しているグループ事業体が川崎市とどろきアリーナの指定管理者になりましたね。
指定管理者の一員になっただけですので、それで利用面の融通が利くということではありません。ただプロスポーツクラブとしてのノウハウが、スポーツ教室を開催するなどの利用促進やサービス向上の面で貢献できる部分はあると考えています。
B.LEAGUEの観戦スタイルに合わせた施設整備
――2017年にコトブキシーティングの移動観覧席を納入させていただきましたが、B.LEAGUEでは移動観覧席は当たり前に使われているイメージでしょうか。

タイプの違いはあると思いますが、移動観覧席は基本的にはどこの施設にもあると思います。1階と2階の間に移動観覧席があることで、観客席全体がすり鉢状になります。全方位から歓声が聞こえるのは選手の力になりますし、演出としても盛り上がる空間を作りやすいですね。
ただ、移動観覧席は手動でも比較的スムーズにまとめて展開できますし、イスの色もクラブカラーになっていて便利なのですが、それ以外のセッティングは一つひとつ人の手でやるしかありません。コートサイド席やアリーナ席にはパイプイスを並べるのですが、全てのイスをきちんと真っ直ぐに並べることは非常に難しいです。また2階席は全然違う色のイスなので、カバーを被せてクラブカラーにする必要もあります。
――移動観覧席がもう少し多いと楽になりますか。
はい。極論を言うと私は、パイプイスは一つも使いたくないぐらいです(笑)。一気に大量の座席をセッティングできるというのは移動観覧席の大きな魅力ですね。
――試合の時は何席で運営しているのでしょうか。

約5,000席で開催しています。中規模サイズで、運営側としては一番やりやすい規模かもしれません。観客数が5,000人を超えてくると、運営自体もやや難易度が上がってきますので。
また川崎市とどろきアリーナは、形状もほぼ正方形でどこからでも同じような距離感でコートを見ることができるので、利用者側としては非常に使いやすいです。
――施設の整備も色々と進めていらっしゃいますよね。
ホームゲームでの観戦体験価値向上を目指す“EXCITING BASKET PARK”計画の一環として、2018-19シーズンから毎年のように施設整備を行っています。センターハングビジョンやLEDリボンビジョン、ゴールビジョンなど、演出面で重要な大型映像設備を増やしました。また、照明をLEDに全面変更しました。もともとは水銀灯だったのですが、そもそも照度が足りなかったり、点灯に時間がかかったりという問題がありました。LEDにしたことで、スピーディな点灯消灯で演出面のアップデートが可能になったほか、消費電力削減にも繋がっています。そのほかに、バスケットゴールも最新モデルに新調しています。
――客席にはVIPルームも新設されました。

2023-24シーズンから、5~11名で利用可能な観戦席付き個室として17部屋のVIPルームを販売しています。VIPルームの設置は、お客様に新しい観戦スタイルを体験していただくことが目的です。建設を計画している新アリーナを見据えての試みで、今から様々な観客席を提供し、お客様にも慣れていただくことで、スムーズに新アリーナの運営に移行したいという狙いがあります。
――そうした設備関係は、市への寄贈という扱いになるわけですか。
全てではありませんが、基本的にはそうなりますね。私たちのような第三者の団体が市の施設を改造する場合、まず川崎市に提案をして許可をいただき、最終的には市に寄贈するというスキームで動くことになります。
ファン拡大に向けた様々な戦略を展開
――来場者数も順調に増加していらっしゃいますが、どのような集客戦略を行っていますか。
やはりプロスポーツクラブの最大のコンテンツは試合なので、ホームゲームを中心に展開しています。でも、ただ単に試合を提供する、見せるというだけではなく、エンターテインメントのコンテンツとしてどうアップデートしていくかを常に考えています。映像や音楽はもちろん、本物の炎を使うなど、公共施設では難しいと思われるような大胆な演出も取り入れています。
また試合はもちろん、試合以外の部分も含めて、お客様が一日中楽しめるような空間づくりを意識しています。試合開始の数時間前から屋外広場でキッチンカーがオープンし、お子様用の遊具やフリースローコーナー、チアリーダーズやマスコット「ロウル」によるステージショーなど、入場前から楽しめる仕掛けを色々行っています。
――試合関係以外ではいかがですか。
デジタルマーケティングの領域は先行していたので、YouTubeチャンネルやSNSなどはファン獲得に大きな効果があったと思います。一方で、協賛パートナーさんのイベントや商業施設のイベントにマスコットやチアリーダーズが出演するなど、地域に密着したオフラインの活動も地道に続けています。
――来場される方々は、やはり地域のコアなファンが多いのですかね。
昔からのファンは当然いらっしゃいますが、新しいお客様も多く、川崎市以外からも来られています。比率としては、どちらかというと新しいお客様の方が多いかもしれませんね。
客層としては、野球やサッカーと比べると女性が圧倒的に多く、半々かそれ以上ですね。
――新しいお客様を増やすために特に行っていることはありますか。

ゲストをフックに来場者を集めるという方法を行っていて、結構な頻度で試合に呼んでいます。アイドルを見たくて来た人が初めてバスケットボールを観戦し、興味をもってくれて次は試合を目当てに見に来てくれるようになる、そうしたことの積み重ねで新規層を増やしています。
室内競技は会場がコンパクトで観客と選手との距離が近く、熱気も間近に伝わってきます。会場内で大歓声が上がったりするとかなりの迫力があり、一度体験すると気に入ってもらえる可能性は高いと思います。
――直接集客に繋がるわけではないかもしれませんが、SDGsへの取り組み「&ONE(アンドワン)」プロジェクトをはじめ、地域を盛り上げる活動にも数多く取り組んでいらっしゃいますね。
環境や健康に関連するイベント開催のほか、市内各所にバスケットボールを楽しめる場所を作っています。学校以外で子供たちが安心して過ごすことができ、バスケットボールを楽しめる場所として「THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS(ザ・ライトハウス)」を作りました。また私たちのオフィスが入る「カワサキ文化会館」にはバスケットボールやスケートボードが体験できるコート、複合商業施設「ラ チッタデッラ」ではバスケットボールコート「KAWASAKI BRAVE THUNDERS COURT(サンダースコート)」を運営しています。ほかにも、市内幼稚園・保育園へのゴール寄贈など、タッチポイントを増やす取り組みを行っています。

THE LIGHT HOUSE
KAWASAKI BRAVE THUNDERS

カワサキ文化会館
マルチパーパスコート

KAWASAKI BRAVE THUNDERS COURT
写真提供:株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース
――そうした活動の効果は感じられますか。
昔はイベントに出演させていただいた時に、「川崎ブレイブサンダースを知っている方は?」と聞くと誰も手を上げないということもありましたが、今は知っている方が大分多くなりました。会場の準備をしているときなど、お子さんが「川崎ブレイブサンダースだ!」と言ってくれることも増え、浸透してきていると実感しています。
――“川崎からバスケの未来を”というクラブミッションを掲げていらっしゃいますが、今後はどのような活動をお考えでしょうか。
ファンの方々に対しては、ますます多様な年代、そして属性問わずにどなたでもお楽しみいただけるようなゲームを作っていきたいです。
一方でスタッフについても、川崎市内の様々な方々に携わっていただき、楽しんでいただけるような職場にしていくことが、地域のためになるのではと考えています。そのためには、例えば機材などは力のある人しか扱えないものはできるだけ排除し、誰でも簡単に使えるアイテムを導入するなど、改善していく必要があります。その意味で新たなホームアリーナが完成すれば、バスケットボールに適した空間や設備が整備され、設営の効率が上がり、工数も少なくなるのではと期待しています。
スタッフが疲弊してしまうと、お客様への対応にも影響が出ます。でもスタッフが心から試合を楽しんでいれば、それがお客様に伝わり、ホスピタリティ向上にも繋がるのではないでしょうか。
――スタッフもお客様も皆がクラブのファンという会場の一体感が、B.LEAGUEの大きな魅力かもしれませんね。川崎ブレイブサンダースの今後のご活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
取材日:2024年12月
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関連リンク
川崎ブレイブサンダース WEBサイト