創造力や表現力を養う「アート教育」のための学校施設づくり

2025.02.19
コラム
「STEAM教育」とは、科学・技術分野の成長を実現する人材の育成や、STEAM*が複雑に関係する現代に生きる人材の育成を目的とする、文部科学省が推進している教育理念です。従来のSTEM教育に、創造力や新たな技術を生み出す力としての「A(Arts)」が加わり、創造力や表現力などの重要さが問われていることが分かります。
*Science、Technology、Engineering、Arts、Mathematicsの頭文字
(参考:文部科学省STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進について

コトブキシーティングは、教室や講堂、体育館などの施設づくりを通して、子どもたちにとってよりよい学びができる環境づくりの一端を担ってきました。STEAM教育以外にも、児童・生徒・学生の探究的な思考を養うこと、自分たちが通う学校への帰属意識の醸成などに対するソリューションのひとつとしても、いま、学校空間へのアート導入が注目されています。
コトブキシーティングのグループカンパニーであるアートプレイス株式会社では、創業以来40年以上にわたって「アートワークを通じて子どもたちの感性を育む環境づくり」そして「地域とともに在る学校のための空間づくり」のお手伝いをしてきました。
今回はアートプレイス株式会社の事例を通して、学校施設におけるアートの役割や在り方について、考えていきたいと思います。



ショールームにアートウォールが登場



昨秋にリニューアルを行ったショールームの学校施設エリア。そのエリアへの動線となる通路や踊り場に、アートウォールが設置されました。

コトブキシーティングの拠点である御茶ノ水の街を舞台に、アーティスト「こた」さんが手掛けたオリジナル作品《IRODORI OCHANOMIZU》です。



《IRODORI OCHANOMIZU》と名付けられた空想世界の都市には、地域が育んだ文化と歴史が彩り豊かに織り交ざっています。教育、歴史、音楽、美術、食、スポーツなどにまつわるモチーフのほか、実在する代表的な建造物である「湯島天満宮」「神田神社(神田明神)」「ニコライ堂」、関東大震災の復興橋梁のひとつとして架けられ、神田川のランドマークにもなっている「聖橋」や「お茶の水橋」、行き交ういくつもの電車などを作品内に展開し、御茶ノ水ならではの地域性を表現しています。

では、作品の一部を簡単にご紹介しましょう。

御茶ノ水には「日本の学校教育発祥の地」として知られる湯島天満宮をはじめ、数多くの大学や専門学校があり、日本最古で日本最大の学生街(神田学生街)でもあります。
また、都内有数のクロスターミナルとして知られる鉄道網も描かれました。

学校にちなみ、教科ごとにもストーリーがたどれます。

国語といえば文学。世界最大の本の街、そして古書店街となったのは、明治時代に多くの学生たちに向けて書店が続々とオープンしたことがきっかけと言われています。
御茶ノ水の歴史的建築物の構造計算を成り立たせている物差しやコンパスなどの基礎ツールは、算数や理科・社会に関連します。
「食」は家庭科や給食。昔ながらの喫茶店の街には欠かせないクリームソーダ、数多くの文豪に愛された山の上ホテル名物のプリンアラモード、そしてカレー。その土地ならではの給食メニューも、味覚を記憶づけるひとつです。
そして音楽と体育。今も昔も多くの若者がギターを買いに来る国内随一の楽器街、また、靖国通りにずらりと並ぶスポーツ用品店もこの街を語るうえでは欠かせません。

御茶ノ水を特徴づける数多くのモチーフが描かれたリズミカルなアートウォール。観る人、訪れる人を楽しませてくれるだけでなく、その地域の特徴を感じさせてくれます。

アートプレイス株式会社 Project

アートウォールで展開する、人と人をつなぎ、感性を育む学校づくり

今回の作品は、実は直接壁に描かれた「壁画」ではありません。アーティストが描いた「原画」をもとにシート印刷を行い、アートウォールに展開しました。ひとつの「原画」からそれぞれの空間に合わせて配色や構図をアレンジし、「版画」のエディション*のように、多彩なパターンで複数の空間・環境演出を可能にします。
学校では、廊下や階段の踊り場など各教室への動線となる場所に設置することで、場の空間認知能力を高め、図を読み解く力や俯瞰する力を養いながら、移動の楽しさや活力を生み出すことが期待できます。
*エディションとは:出版物や芸術作品などの、特定のバージョンや形態を指す。同じ作品でも異なる形態や内容を持つ場合に使われる。


こたさんが描いた「原画」

「原画」からアレンジされたアートウォール


学校は、公共施設のなかでも特に地域とのつながりが強く、まちづくりや地域づくりと深い関わりがあります。施設や地域の特色や歴史、風景などを表象するなど、学校と地域とのつながりを視覚的にとらえられるアートを校内に展開することで、子どもたちや保護者、働く教職員、地域住民に親しみや誇りをもたらし、訪問者の認識を深め、共有イメージとしてコミュニケーションを生むきっかけも与えてくれます。

「歴史を築き未来を育む重要な拠点である学校施設において、ワクワクし、想像力を膨らまし、クリエイティビティを高める環境づくり、通いたくなる”想い”が生まれる場をつくることは、子どもたちにとっての今や未来を育むためにとても重要です。アートを用いた視覚的な情報からの学びは幅広く、『なぜ?』という疑問や発想、気づきをもたらしてくれます。
それは、土地やルーツ、そして他者を知り、多様な解釈、考え方、捉え方ができる柔軟な『感じる心』をも育みます。」と、アートプレイス株式会社 代表取締役アートディレクターの工藤安代氏は語ります。

100年先まで残る、学びの場へ

STEAM教育の推進を背景に、将来さまざまな分野で活躍できる、幅広い教養を有した人材を育むためにも、アート教育が「不可欠である」という認識を高め、社会で共有することが社会の発展、そして未来につながることでしょう。

100年先の未来にも残るような感性を刺激するアートが身近にある環境。それは、子どもたちや保護者、教職員だけでなく、地域の人々をはじめとした来訪者にもさまざまなインスピレーションを与えてくれます。空間を彩るだけでなく環境価値を高めることのできるアートウォール。日々の学校生活に彩りを与え、親しみを感じ、人材教育の一端を担ってくれることが期待できます。


関連リンク

アートプレイス株式会社
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アーティスト紹介 - こた|アートプレイス株式会社

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