天井の耐震工事に合わせた座席のリニューアル
2024年7月、大田区民プラザが天井の耐震化を中心とした改修工事を終え、再開しました。
ホールの天井の改修工事を行う際は、その足場を組むために、客席のイスを取り外します。既存のイスが古くなっていた場合は、この取り外しに合わせて新しいイスに入れ替えるケースが多く、大ホールのイスも同じ流れで、座席の更新が行われました。
現代人の体格にフィット、特注張地を使った張り包みの引き立つ新たなイス
リニューアル前の客席のイスは、テキスタイルを贅沢に使ったラグジュアリーなイスでした。新しいイスでこれまでのホールの雰囲気を踏襲できるようにと選ばれたのが、劇場・ホールイス「
Libretto リブレット」です。座だけでなく脚の側パネルも張り包んだ珍しい意匠で、背裏と肘当には天然木を用いました。一人分間口は、既存を踏襲したゆとりある500ミリメートル。座の奥行や座面高、背や肘の高さを現代人の体格に合わせた寸法に変更し、身体にフィットする座り心地をつくりあげました。人間の背骨のラインに沿って設計した三次元カーブの背もたれと、体圧を均等に分散する耐久性に優れた波形スプリングを内蔵したウレタンクッションの座は、長時間の着席による身体への負担を軽減し、優しく快適な客席環境を提供します。
既存のイスは張地・木部ともに茶系のクラシックなカラーでしたが、今回は張地を赤に、木部をナチュラルカラーに仕上げることによってコントラストをつけ、リニューアルを華やかに演出しています。背裏の上部には同じ張地のパッドがあり、後ろから見た時も赤い佇まいが印象的です。
張地のモチーフは、ホールに程近い破魔矢発祥の地といわれる新田神社にちなんだ、古くから縁起物として愛されてきた「矢絣(やがすり)」。コトブキシーティングのグループ会社である
FABRIKOが大ホールのためにデザインしました。
使いやすく美しく、ユニバーサルデザインに配慮した新たな機能
新しくなったイスには、既存の座席にはなかった機能があります。
一つ目は、座自動緩起立機構。離席時にイスの座が自動で緩やかに跳ね上がり、背もたれに寄り添い収納される機構です。これまでは搭載されていなかったため、着席者が自ら座を持ち上げて収納する必要があり、しまい忘れられた座が通行の妨げになることもありました。座席前の通路が通り抜けしやすくなっただけでなく、空席時にはいつでも座が確実に収納された美しい客席を保てます。
二つ目は、最前列に設置された収納式の肘メモ台です。コンテスト会場として利用される時、筆記が必要な審査員が必要に応じて引き出して使うことができます。これまでは最前列の背もたれを倒してテーブルを設置・2列目を座席として利用というスタイルでしたが、収納式の肘メモ台にすることで設営や撤収の時間が不要で、座席の利用も1列分と無駄がありません。
三つ目は、背もたれに設置された手掛け棒です。階段通路に面した78の席に設けられ、階段昇降時の自然な手がかりとなります。客席に馴染むデザインで、老若男女誰もが安心して上り下りできる環境を整えました。
施設概要
1987年10月、東急多摩川線下丸子駅前に開館した大田区民プラザは、長年に渡って大田区を代表するイベント会場として区民に親しまれてきました。近年は老朽化が顕著だったことから、施設の長寿命化のため、2023年より改修工事を実施。天井の耐震化、照明のLED化のほか、1階へフロントを新設、大ホール客席イスの入れ替えを行い、2024年7月に再開を果たしました。