文化・子育て複合施設に設けられた、多目的な活用が期待される大ホール
大阪府茨木市のおにクルは、旧市民会館の跡地に2023年11月にオープンした文化・子育て複合施設です。
旧市民会館の役割を受け継いだ1,201席の大ホールは、ネーミングライツパートナーの募集を経て、ゴウダホールと愛称がつけられました。可動式の舞台反射板と前舞台迫りを備えており、コンサート形式からプロセニアム形式まで多目的に利用が可能です。本格的なクラシック音楽や伝統芸能、ゲームミュージックなどの幅広いジャンルの公演のほか、「二十歳のつどい」など市のイベントも開催されています。
赤を基調とした特注張地が彩る2層の客席
ホール空間を彩るのは、内装に調和する赤がメインのイス張地です。施設全体のテキスタイルをコーディネートしたデザイナーの安東陽子氏によるデザインを元に、コトブキシーティングのグループ会社である
FABRIKOが製作を手掛けました。テーマは、「芽吹く」。一見すると赤一色のイスですが、座を開くと背もたれの下部から上部にかけて緑から赤のグラデーションになっていることがわかります。赤みを帯びた新芽の葉の色が変化するグラデーションが、「生命の息吹」を感じさせるデザインです。ホールの後方左右両側に設けられた親子室のイスも、同じ張地で統一しました。
2層から成る客席は、舞台を囲むように緩やかな弧を描きます。1階席・2階席ともに左右中央のブロックに分かれており、中央ブロックはステージの見やすさを考慮した千鳥配置です。客席から最も遠い2階席の最後列とその前列は、座面高を高く設定して、サイトラインを確保しました。着席時に足元が安定するよう、足置きのバーも備わっています。1層目の5列目までは、迫りの機構により床ごと昇降が可能。広い横通路に面した9列目には、座席を取り外して車イススペース18席分を設置できるよう、脚部に専用ユニットを備えた移動席が並びます。
バリアフリー仕様で創り上げた豊かな座り心地のイス
イスは、ホールの内装に合わせて緩やかな曲線を基調にデザインしました。隣の席と隙間なく並ぶ佇まいは客席全体に一体感を生み出し、市民が寄り添い支え合う様子を想起させます。木部は、床と調和する落ち着いたブラウンカラーに塗装。黒字に白文字の席番号は背板の小口に、列番号は通路に敷いた赤色のカーペットに大きく記し、自席の位置を認識しやすくしました。縦通路に面した席の背もたれには、通行や階段昇降時の支えとなる手掛けがあります。真っすぐに伸びた背板の端を変形させることで、手掛けの存在を目立たせることなく、客席へ自然に溶け込ませています。
背もたれは着席者の姿勢に沿って三次元カーブを描くクッションで、座は体圧を均等に分散する波形スプリングと型崩れに強いモールドウレタンで構成されており、長時間の鑑賞でもしっかりと身体をサポートします。座の形状には、ホール関係者自らが座り心地を確認して決定した、着席者の膝裏にあたる先端部を薄くした「
スペーシア」が採用されました。従来の形に比べて足元のスペースにゆとりが生まれるため、足が引きやすく、スムーズな立ち座りを可能にするバリアフリー仕様です。
施設概要
茨木市文化・子育て複合施設「おにクル」は、2015年に閉館した旧市民会館の跡地活用について、行政と市民の対話型による検討を経て、2023年11月にオープンしました。施設名には、市のマスコットである鬼のキャラクター「いばらき童子」から着想した、「怖い鬼さんですら楽しそうで来たくなっちゃうところ」という意味が込められた愛称が公募によって選ばれています。ホールや図書館、子育て支援、プラネタリウム、市民活動センターなどさまざまな機能が集まっており、幅広い舞台演目に対応する約1,200席のゴウダホールと、スタッキングチェアの客席でフレキシブルな空間使いが可能なきたしんホールには、コトブキシーティングが客席イスを納めました。7階建ての各フロアが吹き抜けの「縦の道」でつながる施設の設計コンセプトは、「日々何かが起こり、誰かと出会う」です。