現代社会を見つめる東京都写真美術館 第6回恵比寿映像祭「トゥルー・カラーズ」

2014.06.12
レポート

第6回 恵比寿映像祭「トゥルー・カラーズ」に足を運びました。1階ホールでは、ドキュメンタリー映画「電子書籍化の波紋《グーグルと知的財産》」を鑑賞。映像祭ディレクターの北澤ひろみ氏のインタビューと共に、レポートをお届け致します。

2月7日(金)からスタートした、第6回 恵比寿映像祭「トゥルー・カラーズ」に足を運んで来ました。会場は、日本で初めての写真と映像に関する総合的な美術館として1995年開館した、東京都写真美術館です。

美術館は、恵比寿ガーデンプレイス内の一角に佇んでいます。作品の展示は館内がメインですが、屋外のセンター広場にも、通りがかった人が気軽に鑑賞できる、特設パヴィリオンが設置されています。
休館日を除いて15日間開催される映像祭では、館内の入場料が無料です。映像祭期間中の開館時間は、最終日を除いて20:00まで。(※最終日のみ18:00閉館)。立地の利便性もあって、仕事帰りの方でも立ち寄り易いイベントとなっています。

 

デイヴィッド・ホックニー 《ジャグラーズ、2012年6月24日》
グリッドが複合的に合わさった画面は、フォトコラージュを発展形。映像作品は本作が日本初の公開となる。

この映像祭プロジェクトには、25ヶ国85名の作家が参加しています。作品からは国や文化の違い、そして作家ひとりひとりのユニークな個性が見てとれます。色彩も豊かで、多様性に溢れていました。

見るだけではなく、作品づくりに参加もできます。

ナルパティ・アワンガ a.k.a. オムレオ 《旅するTHIS》
解像度の高さを競い合うアートとは全く逆のピクセルアートとGIFアニメーション。

こちらは、ピクセルアートと呼ばれる作品です。
超高解像度の映像を構成するのは、ディスプレイに表示される色情報の最小単位”ピクセル”。肉眼では確認しにくいその中には、ごく単純な図案で描かれたキャラクターたちが呑気に暮らしているのかも……。そんな世界を表現し、壁一面にピクセルアートで描かれたガイコツたちが貼られています。

私も、スタッフさんからいただいたガイコツのシールを壁に貼ってきました! 映像祭初日から、訪れるお客さまにシールを配布し、作品づくりに参加してもらっているそうです。ガイコツたちはそれぞれ様々なポーズをしていますが、私は指でピストルの形を作ったガイコツのシールをいただきました。せっかくなので、他のガイコツのわき腹をくすぐるような仕草になるよう、組み合わせて貼ってきました。
私の貼ったガイコツの背後に、また誰かがシールを貼るのかもしれません。

さて、館内では、展示の他に、1階ホールで映像作品の上映も行われています。

各回入替制の自由席で、当日券1,000〜1,500円(※作品によって異なる)で鑑賞できます。この日、私が見た作品は「電子書籍化の波紋《グーグルと知的財産》」でした。

Googleは無料電子書籍化サービス“グーグル・ブックス”により欧米主要図書館の蔵書1000万冊をスキャンし、電子書籍として販売可能になったが、その6割は著作権が有効であり、アメリカで訴訟となった…。世界規模での書籍の電子化が招く情報の独占の問題に迫るドキュメンタリー。


Google and the World Brain - trailer English
ベン・ルイス《グーグルと知的財産》2012年

現存する書籍は「如何にして後世まで保存するのか」が常に問題に上がります。経年劣化は勿論、災害や紛争によって貴重な図書が消えてしまうことも少なくありません。
その問題を解決するために立ち上がったのが、Google社でした。他にはない高度な技術で低コストのスキャンを実現したGoogle社に、最初は図書館関係者も大喜びでしたが、次第にこのプロジェクトの問題点が明らかになっていきます。

Googleによる市場独占の懸念。勝手に自分の本をスキャンされたと声を上げる世界中の作家たち、そして誰がいつ何の本を閲覧したのかを知ることができるシステムでは、利用者のプライバシーを守ることができるのか、否か。インターネット情報社会とプライバシーという、私たちにとって身近な問題が提起されているドキュメンタリーです。映像を通して現代の情報社会が孕む危うさを、改めて肌で感じた時間でした。

展示から上映まで、多国籍の映像作品を楽しむことがきでる、東京都写真美術館の恵比寿映像祭。
約1年弱の準備期間から、今回のプロジェクトを進めてきたご担当者に、お話を伺いしました。


東京都写真美術館
恵比寿映像祭 ディレクター
北澤ひろみさん

今映像祭のテーマ「トゥルー・カラーズ」についてお聞かせください。

恵比寿映像祭では、第1回目から「映像とは何か」を追求し続けています。
映像は「今」や「瞬間」を即時的に映し出すものです。そこから見える現代や多様性を言葉で表現すると、どういう言葉になるのだろうと考えました。
True Colorsには、「本質を見抜く」という意味があります。色は、国旗ですとか、肌の色ですとか、一歩踏み込んだところに意味を持っていますね。ぼーっとしていても多くの映像を見る現代で、受身ではなく、見えない本質や真実を見つけ出す、そんな願いを込めて今回のテーマを設定しました。

25ヶ国85名の作家さんが参加されているとお伺いしました。

25ヶ国69名の作家さんが参加されているとお伺いしました。
テーマ設定をする中で、複数のキュレーターと何度も話し合いを重ねながら、作品の選定を行っています。様々な言語圏の作品が集まっていますが、特にバランスを取って選んでいるというわけではありません。ただ、国籍の幅広い作品を見ることができるような映像祭を目指しています。

お客様の層も幅広いですね。

そうですね。30〜40代くらいの方が一番多いでしょうか。老若男女様々な年代の方にお越しいただいています。

私は「映像”祭”」と言うと、いわゆる「お祭り騒ぎ」を想像してしまったのですが、やはり「美術館」ですね。映像の音に耳を澄ませ、熱心にスクリーンを見つめるお客様の姿が印象的でした。静かな中に情熱が伝わってくるフェスティバルで、非常に楽しませていただきました!

ありがとうございます。映像を通して、現代社会の「今」を感じていただけると嬉しく思います。

第6回恵比寿映像祭「トゥルー・カラーズ」は2014年2月23日(日)まで、恵比寿ガーデンプレイス内 東京都写真美術館にて開催されました。

レポーター:広報企画部 M.N

一覧へ戻る