子どもと保育士が共に成長できる園づくりを目指して

2024.02.01
インタビュー
うつのみやなでしこ保育園は、隣接する済生会宇都宮病院で働く職員の子どもと、一部地域の子どもを預かる地域型保育施設です。「未来を生きる子どもたちに『生きる力』を育てる」を保育理念に掲げ、子育て支援のさまざまなニーズに応えています。
2023年3月、クラスの増加に伴った園舎の増築が完了しました。増築にあたっては園長をはじめとした保育士やスタッフ8名からなる「増設プロジェクト委員」を発足。約2年に渡り、意見を出し合いながら完成にこぎつけました。新園舎につくられたホールには、壁面に収納できるステージを導入しました。今回は、増設プロジェクト委員のメンバーである園長の佐藤富士江氏と保育施設 課長代理(事務)の福田郁氏に園の概要や増築の目的と背景を、3名の保育士にプロジェクト参加時の様子や完成後のホールでの子どもたちの活動について、お話を伺いました。


うつのみやなでしこ保育園
園長 佐藤 富士江 氏(写真右)
保育施設 課長代理(事務) 福田 郁 氏(写真左)

働く人の多様なニーズに応える地域型保育施設


――うつのみやなでしこ保育園は、隣接する済生会宇都宮病院で働く医師やスタッフのお子さまを主に預かる認可保育園だとお聞きしました。

福田
はい。うつのみやなでしこ保育園の前身は昭和50年代に看護師寮の一部屋で保育をスタートしたことから始まります。平成に入り、子どもの数も増えて部屋が手狭になったことから済生会宇都宮乳児院へ委託し、看護師確保のための院内保育事業になりました。その後、平成27年にスタートした子ども・子育て支援新制度により、保育所より少人数の単位で、0から2歳の子どもを保育する地域型保育ができ、「うつのみやなでしこ保育園」として改めて開園したのです。

――ほかの保育園と異なる点や特徴はありますか?

佐藤
ほかの園と異なるところは、夜間保育があることです。病院のスタッフが夜勤の時にお子さまを預かり、安心して一夜を過ごせるようにしています。ほかの園ではほとんどが19時までの預かりですが当園では急にオペが入ってしまうことや、東京の病院から帰ってこられる方もいるので、最長21時半までの預かりということもありますね。
福田
お父さまが済生会、お母さまが東京の病院勤務の方もいらっしゃるんですよ。新幹線で通勤されているようです。
佐藤
病院関係者の枠は60名が定員です。看護師が多いですが、医師や薬剤師、検査技師、放射線技師など、職種はさまざまです。
福田
そのほか、地域型保育のため地域のお子さまも20名預かっているんですよ。
佐藤
宇都宮市は「住めば愉快だ宇都宮」というブランドメッセージを掲げ、「共働き子育てしやすい街ランキング」でも上位に入っており、待機児童解消にも力を入れています。保育園に入れなかったという声はほどんとありません。

――そのことと今回の園舎の増築は関係あるのですか?

佐藤
定員は変わらないのですが、小学校に上がる前の子どものための幼児クラスが増えたのです。幼児クラスは病院関係者のお子さまだけなので人数は少ないのですが、クラスが増えたため保育室が足りない、となって。そのため校舎を増築し、園庭も一つから二つに増やしました。年齢の幅が広がると、同じ園庭で一緒に活動するには少し危険です。園庭を増やしたことによって、活動の内容によって分けられ、安全性の向上を図ったのです。
福田
あと、ランチルームがあるのは保育園としては珍しいんですよ。年度毎に利用するクラスを決めています。今年度は、保育室の近い幼児クラスの子どもと一部の職員が利用していますね。


広く、使い勝手の良いホールを目指して


――ホールは、もともとの既存園舎にあったと伺いました。新しく設けた理由についてお聞かせください。

佐藤
もともとのホールは少し狭かったのです。イベントを行う時には少し離れた乳児院のホールをその都度借りていました。今回、園舎を増築するとなり、保育室以外の機能を検討した時に「広いホールが欲しい」ということになり、ホールの新設が決まりました。
福田
発表会などのイベントも、すべて園内でできるようにしたいという声があったのです。
佐藤
そのため、工事は当初の想定より少し大掛かりになってしまいました(笑)

――今回の増築工事にあたっては、保育士さんも深く関わられたんですよね。

佐藤
3名の保育士にプロジェクトメンバーに入ってもらいました。やはり現場で働く保育士の意見は大切です。子どもや保育士の動線など、彼らにしか分からないことは多いですので。三つの保育園に見学も行かせていただいて、色々と参考にしました。
福田
今回入れていただいたステージも、見学先に納められていたのを参考にしたんですよね。
佐藤
はい。そこは私が以前勤めていた園なのですが、そこのホールに電動式の収納ステージがあったのです。今回、ホールの廊下に面した壁面の扉を全て収納できるようにしたのも、その園からヒントをいただきました。広いホールが更に広くなり、活用の幅が広がりました。
少子化もありますので、保育園は「選ばれる園」にならなければなりません。それは、お子さんを預ける保護者からだけではなく、働く保育士からも、です。就職前に見学に来る保育士は、園舎もしっかり見るんですよ。
福田
保育士も女性の場合は産休・育休がありますので、常に余裕があるわけではありません。また、定員はありますが、病院関係者のお子さまの入園希望は断らないため、急に園児が増えることもあるのです。お断りすると、結局は病院が困ることになりますからね。

――保育園に入れないことがないというのは、働く母親としてはとても安心ですね。

佐藤
余談ですが、建設会社さんからの提案で、工事現場の囲いを透明なタイプにしていただきました。そのため、子どもたちが工事の様子を見ることができたのです。大きなクレーン車やダンプカーが作業する様子や基礎を打つ様子なども間近で見られ、もうみんな釘付けで大喜びでした。とても良い勉強になりましたね。

ホールの可能性を広げる収納式ステージ

――増築した園舎で、こだわったところなどはありますか。

福田
木を多用したことですね。木は呼吸をするということもあり、温もりが感じられますよね。既存園舎を建てた時には、なるべく自然に近いもの、夏は暑くて冬は寒いというのが自然なんだと感じられるようなデザインにしたと聞いています。当初は、お湯も出なかったのですが、さすがにその辺りは改修してもらいました(笑)
佐藤
あとは、やはりステージですね。見学した園では電動式でしたが、今回は手動式にしました。手動の方が故障の心配が少ないですしね。ステージがあると目を離したすきに小さい子があがってしまう心配がありますが、このステージは使い終わったらすぐに収納できるので助かります。

――ホールでは、ステージは収納されていることの方が多いと聞きました。

佐藤
そうですね。普段はステージを収納してスペースいっぱいを使っています。音楽に合わせて身体を動かすリトミックや体育教室でも使いますね。広く、ぶつかるところがないため、安心して子どもたちが走り回れます。
ステージをいちばん最初に使ったのは、卒園式ですね。この園の卒園式は、基本的に2歳児なので、ステージの前に親子で座ってもらいました。新しいホールは広いですが、ステージがあることで後ろからでも無理なく見ることができ、とても良かったです。


福田
名前を呼ばれたら子どもがステージ上にあがって卒園証書をもらうという。2歳なので泣いちゃう子も多いのですが、今回はお母さまが一緒にいたから大丈夫でしたね。
佐藤
このホールができたこと、このステージを入れていただいたことで、今までできなかったことができるようになりました。保育士も、「ステージを使ってこんなことをやってみよう」と考える機会が増えますし、アイディアの幅が広がります。それを見る子どもたちも「これがしたい」「あれもしたい」という意見が出てきます。今後は、保育士がステージを使ってプレゼンする機会を設けようと思っているんですよ。
この園の理念の一つが「生きる力を育てる」ということです。AI時代においても、やはり自分でいろいろなことを考えて生きていかなければいけない。そのためには小さいうちからの学びは非常に大切です。ひとむかし前は先生が決めたことをやるという時代でしたが今は違います。子どもたちがやりたいと決めたことに対して保育士がサポートする。そうしないと指示待ちの子どもになってしまいます。保育士も子どもと成長できる、これからもそんな園を目指していきたいですね。


取材日:2023年6月

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