最新機器の稼働展示と映像の効果的な活用で
課題解決型の営業を支える体験型展示場

2024.01.22
インタビュー
株式会社ダイフクは、工場や倉庫などの自動化、省人化に欠かせない、モノを効率的に保管、搬送、仕分け・ピッキングする「マテリアルハンドリング(Material Handling、略称:マテハン)」のリーディングカンパニーとして、現在、世界25の国と地域で事業を展開しています。同社のマザー工場である滋賀事業所内にある「日に新た館」は、世界最大級のマテハン・ロジスティクスの体験型総合展示場として、1994年の開館以来、世界約90の国と地域から延べ約51万人のお客さまがご来館しています。また、2022年6月には、最新システム・機器の大規模な入れ替えを行い、リニューアルオープンしました。
3階建て延床面積約2万㎡の広い館内には、同社の最新システムや機器が、実際に稼働する様子を見学できる展示場のほか、シアターや国際会議場、各種ミーティングスペースなどがあります。新たに200インチの大型スクリーンを備えたシアターは、迫力ある映像と音響で来館者を最初に出迎える場となっています。
今回は、同社における、日に新た館の役割や、リニューアルの内容について、館長の加藤康弘氏にお話を伺いました。
※社内イベント利用を含む



株式会社ダイフク
日に新た館 館長
加藤 康弘 氏

「ダイフクの最先端がここにある」をコンセプトにしたマテハン総合展示場「日に新た館」


――「日に新た館」を作られた目的について教えてください。

日に新た館は、普段は見ることができない最新の物流システムや機器が、実際に稼働している様子をご覧いただけるマテリアルハンドリング・ロジスティクスの展示場で、実物の製品を「見て、触れて、体験できる」施設として建設しました。来年で開館から30年が経ちますが、物流業界でこうした施設を作ったのは当社が初めてです。弊社の営業が一方的に製品を売り込むのではなく、お客さまが抱える課題や問題をシステムやノウハウ、知見などの様々な方法で解決する、お客さまと一緒に考えていただく場にしたいと思っています。

――確かに当時、こうした展示場は画期的だったかもしれませんね。

はい。当時、弊社ではもう一つ新たなことに取り組んでいました。カタログの発行を全てやめたのです。営業担当者は、カタログを一切持てなくなり、その代わりに一人に1台パソコンが支給されました。当時業界では、当社社員がパソコンを持って営業しているのがちょっと有名になったこともありました(笑)。
さらに、開発する製品やシステムも変わっていきました。物流機器にはコンベヤ、自動倉庫、仕分け機などがあり、一般的にはそれぞれ専門メーカーが製造していますが、ダイフクは、これらすべてを自社で開発・生産・販売しています。弊社も以前は、別のメーカーさんからの調達製品も扱っていましたが、メンテナンスや設備トラブルが生じた際の対応が難しい面があり、現在はすべてのマテハン機器をハード・ソフトともに自社で開発している、世界でも数少ないマテハン専業メーカーとなりました。

――販売内容や販売方法が大きく変わり、営業の方はかなり大変だったのではないでしょうか。

カタログがないので、営業担当者自らが自分たちで考えて、パソコンを使ってPRツールを作りました。また、引き合いのあったお客さまには、とにかくここに来ていただくようにしました。営業が話をするよりも、実際に製品が動いているところを見ていただいて、サイズ感や動きの速さを体感していただく方が効果的だったからです。これによって営業の手法も、お客さまとともに問題の解決方法を考える課題解決型へと大きく変わっていきました。こうした変化は、日に新た館の副産物とも言えますね。
また、日に新た館の管理運営費は、カタログの制作に掛かっていた費用の半分以下になったので、コスト面でもメリットが生まれています。

――日に新た館は営業面でも重要な役割を担っていたわけですね。

日に新た館のおかげで、営業のスキルが上がったと思います。私も当時、営業として現場にいましたが、最初はノウハウも何もなくて大変でした。一方で、吸収するものもたくさんあり、やっていて面白かったですね。

リニューアルで映像を積極的に活用した展示へ

――2022年6月にはリニューアルオープンされました。

近年、多くのお客さまにご来館いただいていたこともあり、長期の休館が必要となる大規模な更新を行うことが難しかったのですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020年3月から一般見学の受け入れを中止することになり、その間を利用して大規模なリニューアルを行いました。今回のリニューアルでは、新たにシステム・機器54種を展示しました。

1階には自動車生産ライン向けシステム、パレット系・ケース系の保管・管理システム、2階にはピッキングシステム、仕分けシステム、半導体生産ライン向けシステム、空港向けシステムなどの最新機器を展示し、実稼働しています。
また、過去の展示はどちらかというと、開発側がこういうコンセプトで作りましたということをPRする傾向にありました。しかし、弊社の製品はこの30年間で、お客さまと営業が一緒になって、お客さまが求める製品を考える、顧客志向の開発へと変わりました。ですから、展示についても作った側からの発信ではなく、お客さまにどのようなご提案をすべきなのか、どうすればご理解いただけるのかという視点で考えました。スタッフがご案内するための説明文は、営業と設計、そして日に新た館のスタッフも一緒になって作り上げています。

――今回のリニューアルで工夫された点を教えてください。

展示のデジタル化に取り組みました。展示機器の説明だけでなく、納入事例や現場での活用方法も、場内に配置した大型ディスプレイによって映像で紹介しています。
リニューアル前の展示説明は、すべて静止画を用いたパネルで行っており、展示内容が変更になる度に作り直さなければいけませんでした。これをデジタル化したことで、データを入れ替えるだけで簡単に変更できるようになりました。使用するデータは動画を含めてスタッフで制作しており、営業が提案資料で使用しているものも利用しています。イニシャルコストはかかりましたが、ランニングコストはほとんどかからないというメリットもあります。

――エントランスのすぐ近くにあるシアターは、どのような役割を果たしていますか。

シアターは来館いただいたお客さまを最初にご案内する場所であり、スタッフが初めてお客さまと会話をする大切な空間です。ここでは、まず日に新た館の成り立ちや、ダイフクという会社の説明や事業内容を紹介する5分間の動画を大型スクリーンでご覧いただきます。シアターで、10分程度、営業からの挨拶や利用時の説明をし、その後1時間30分ほど館内をご案内しています。
48席の座席数は、大型バスで来館された場合の人数に合わせました。それで足りない場合は、後部に設けたベンチで対応しています。
 


――シアターのイスはどのような点をポイントに選ばれたのでしょうか。

このイスは、シンプルで機能的、かつ品格もありますね。コトブキシーティングさんからは、座面が起立する時に違う動きをするイスなど幾つかのタイプをご提案いただきましたが、スタッフからは今回導入したイスの評価が高かったのです。高齢の方は、一般的な跳ね上げ式の方が慣れていて座りやすく、シアターは映像をお見せするときに場内が暗くなるので、暗い中での動作は感覚で覚えている動きの方がいいのではという意見でした。
実際に採用してみて、それが正解だったことがよく分かりました。

――確かに常に初めての方が利用されるシアターでは、こちらのタイプの方が使いやすいかもしれないですね。
これまで多くのお客さまを案内されてきたスタッフの方々の経験が活かされたのだと思います。

 
 

成長しつづける最先端のマテハン技術体験の場

―――どのような方が来館されているのでしょうか。

営業担当者が、お客さまをお連れするケースが多いですが、弊社の代理店様の教育の場として、また、新入社員や若い社員の教育の場としても活用しています。地元の学校の社会科見学なども受け入れています。また、海外からも多くの方がいらっしゃっています。コロナ禍前は、年間の入館者数が約27,000名だったのですが、そのうち約7,000名が海外の方でした。特に中国などのアジア圏、アメリカなどが多いです。
この滋賀事業所は、12の工場が稼働するダイフクのマザー工場です。ですからここに来ていただければ、単に展示場で製品を見るだけではなく、ダイフクという会社の規模や施設を知っていただけるので、その点が海外の方への安心感にもつながっていると感じています。

――展示施設以外にも色々な施設がありますが、どのような時に使われているのですか。

中2階には大型スクリーンを設置したセミナールーム、応接室が10部屋あり、見学前に、お客さまに一度入っていただくお部屋です。場合によっては、そこでビデオをご覧いただいたり、打ち合わせやご質問をお受けしたりもしています。
また3階には、同時通訳設備を備えた国際会議場、レストラン&カフェのほか、最大収容人数160人の大会議室などがあり、社内での活用も多いです。大会議室は新入社員の入社式や研修にも活用しています。


国際会議場


大会議室

――製品が実際に稼働している姿を見ることができるのがポイントなのですね。

はい。それによって日に新た館は、社内では教育の場、お客さまにとっては納入前の実験の場にもなっています。ここでは、お客さまに実際に取り扱う荷物を持ってきていただいて、搬送や保管についてのテストをしていただくことが可能です。先般も、ある小売りメーカーのお客さまが荷物を持ってきて、仕分けができるかどうか試していました。試してみれば問題点が事前に分かり、エラーが出れば修正して設計し直すなどの対応ができます。お客さまにも実際に動いているところをご覧いただいているので、修正にも説得力がありますよね。

――御社のグローバルで培った多岐にわたるノウハウを活かしたシステムを、事前に色々と試せる場があることは有効ですね。

こうした対応は、商談成立の大きな要因にもなっていると思います。
また最近は、まだ製品を導入することが決まっていないお客さまの来館も増えてきました。物流や自動化についての勉強をされたいようで、ウェブサイトから直接、申し込まれる方が全体の3割ぐらいはいらっしゃいます。そうしたお客さまもここで見ていただいた結果、導入を決めていただくことも多いです。

――御社が想定してないような業種の方がいらっしゃることもありますか。

ありますよ。以前に、「真っ暗で湿度の高い倉庫の中でキノコを栽培しているが、管理面などで課題があり自動化したい」とのご依頼があり、自動倉庫を提案させていただきました。今では舞茸や、しめじなどの生産に活用されています。現在、あらゆる業界で人手不足が顕在化しており、CO2削減をはじめとした環境問題などへの対応を含めて、今後も自動化ニーズが高まっていくのでなはいでしょうか。

日に新た館は、ダイフクの発展の歴史とともに育ってきた施設です。これからもマテリアルハンドリングによって様々な課題の解決策を見出す重要な施設として、弊社に多くの効果をもたらしていくと期待しています。

――マテリアルハンドリングの技術は、今後ますます様々な産業に広がり、日に新た館の重要性も高まっていきそうですね。本日はありがとうございました。


取材日:2023年7月

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