失敗を恐れない「レジリエンス」を身につける場づくり

2023.08.28
インタビュー
大阪府立水都国際中学校・高等学校は、2019年4月に誕生した、全国で初めての公設民営による中高一貫教育校です。公立学校としての教育水準及び公共性を保ちながら民間の知見を活用した学校運営を行うため、大阪市が2019年に設置し、2022年に大阪府へ移管され、民間の学校法人(学校法人大阪YMCA)が運営しています。大阪府立水都国際中学校・高等学校では、「英語教育」「国際理解教育」「課題探究型授業」の三つの教育の柱を掲げ、世界への扉を開く先進的な教育を行っています。
2022年9月には、待望の新校舎(西学舎増築棟)が完成しました。新校舎には、普通教室や特別教室のほか、グローバルシアター、レクチャーシアター、大ホールという三つの「発表の場」が用意されています。大ホールには、コトブキシーティングの移動観覧席が納入されました。大ホールを利用する授業の一つが、「Suito Action Project for SDGs(以下SA)」という課題解決型探究学習の授業です。今回は、環境問題への取り組みというテーマに対して、オリジナル演劇を通して学んでいるグループの授業の様子を見学。授業の担当教員である田渕優氏に、このSAの授業をはじめとした様々な探究型学習への取り組みについてお話を伺いました。
 


大阪府立水都国際中学校・高等学校
進路主任(中学)・広報・理科教諭
田渕 優 氏

充実した設備が生徒の主体性を後押しする

――本日は授業を見学させていただき、ありがとうございました。この授業は一年を通したプログラムとお聞きしました。授業の内容を教えてください。

この授業は、最近よく言われている「課題解決型探究学習」と呼ばれるものです。学年の垣根を越えてチームを組み、生徒たちが何かしらの社会課題を見つけ、どうしたらその課題を解決できるかを、教員主体ではなく生徒主体で考え、グループで進めていく授業です。例えば、私たちのグループでは環境保護について、演劇をとおして「どんなことが発信できるか」を考える取り組みをしています。



――このような発表やプレゼン専用の場所があることは、どのように感じていらっしゃいますか。

この大ホールは、移動観覧席をはじめ、大型スクリーンや音響・照明設備など今までにない設備を有した空間です。教員としても、ここまで快適な場所を用意していただいてとても嬉しいなと思いますね。
本校では英語教育に力を入れており、よく英語科がこのホールを使って授業をしています。40人や80人単位の授業で、プレゼンターやファシリテーターがステージ上に立ち、他のみんなは思い思いの場所でそのプレゼンに参加していきます。各々がその場でパソコンを使ったインタラクティブな活動をすることも可能です。ダイナミックな授業ができ、使い勝手が良いホールですよ。
そのほか、昨年10月に外務省の方が講演に来られたときも、複数学年が一堂に集まり、ステージに近い場所や移動観覧席など、さまざまな場所から聞いていました。ICTの環境が整っているので、教員としても生徒としてもとても利用しやすい、生徒主体の教育に即応した最先端のホールになっていると思います。

―― 先生方が途中で口を挟まずに、生徒さん主体ですすめるという授業スタイルですね。

本校の生徒は物怖じせずに主張ができますし、何事にも積極的に行動することができるのが特徴です。それはひとえに、この学習環境のおかげだと感じています。現場の教員がどのように動くかということはもちろん大事ですが、教員が新しい設備をうまく使い、それを生徒たちがフル活用する。そこがうまくかみ合っているからこそ、このような学校の風土になってきたのだと思います。英語教育においては、英語ネイティブの教員がいることが「思い切りの良さ」につながっているのかもしれませんね。

――この大ホールの先生方や生徒さんからの評判はいかがでしょうか。

とても良いですよ。照明やモニター、細かい音響設備が揃っているので、授業だけでなく課外活動で使うことも多いです。2か月先まで予約で埋まっていたということがあるくらい、教員にとっても生徒にとっても人気の場所です。新校舎を使い始めてまだ1年も経っていませんが、みんな大ホールがとても素晴らしいって言ってくれています。
移動観覧席は、階段状になっているところはもちろん、このイスを完全に後ろに収納させることもできるのが良いですよね。2期生の卒業式でプロムパーティーを開催した時には、ここでステージプログラムやダンスパーティーを開いて締めくくりました。その時は移動観覧席を収納し、開けたスペースとしてもスムーズに使うことができました。

異学年授業でコミュニケーション能力を身につける

――3本柱の「英語教育」について。英語の授業ではコミュニケーションの取り方が様々だと思うのですが、入学してくる生徒さんはスムーズに参加できるものでしょうか。

入学してすぐの生徒たちは、慣れるまでに時間がかかることもあります。ただ、音の聞き慣れから始めて、表現するアウトプットの慣れだとかそういったものは大抵1~2年くらいあったらうまいことできるようになります。内部(中学)から上がってきた生徒と高校から入学してくる生徒を比べると、やはり差がありますね。中学校3年間できっちりと英語を使った生徒たちは、かなり慣れています。抵抗なく色々と吸収できているのは、英語ネイティブの教員がいるおかげですね。感謝しています。

――見学させていただいたSAの授業は、異なる学年の生徒が集まったグループでしたね。学年やクラス単位ではなく、異学年が集まることでの良い面はなんでしょうか。

従来の公立の学校でしたら、異学年の生徒と接触する場は部活動くらいですよね。このSAの授業は週一回だけですが、それ以外の時間でもいろんな場面での話し合いや、パソコンのチャットでのやり取りを通して、コミュニケーションの手法をきっちりと学び取ろうとしています。SAの授業は、たくさんの生徒が楽しいと思ってくれているようです。
いちばん年齢が離れている中1と高3のように、普通ならなかなか交流のない組み合わせが、ある環境で触れ合う。チームビルディングを子供達だけで考えさせて、教員は離れたところから、背中を押してあげています。
社会人になったら、学年単位というようなものはなく、一つのグループや組織、仲間というところで動かないといけません。自分の伝えたいことをきちんと伝え、一人だけではできないこともみんなでできるように、色々な体験から学んでいってもらえる良い機会だと思っています。また、色々なバックグラウンドを持った生徒がいる中で、グローバルに活躍できる人材を育てたいというのが学校の教育目標の一つでもありますので、SAのような活動をとおして、その準備をしてもらえたら良いなと思っています。


――外務省の方を招いて講演会をされたようですが、地域の方や外部の方に向けて発表やプレゼンをする機会もあるのでしょうか。

あります。SAの取り組みを発表するアカデミックフェアというイベントを、毎年2月にやっています。その時に保護者やお世話になった方々をこのホールに招待し、生徒がプレゼンテーションをしています。

――SAの授業以外でもディスカッションや発表する機会は多いのでしょうか。

学校としては、そのような機会をかなり多くしようとしています。
私は理科を担当していますが、教科書に記述されている内容をどう解釈していくかは、生徒が五人いれば五つの解釈があり、それを真実に近い一つの形にしていくのがディスカッションと発表だと考えています。個人思考から集団思考、またそこから個人思考の時間というように、繰り返し行うことで、ようやく全体として真実に近い知識みたいなものにたどりつく。そういったワーク活動というのは、英語以外でも色々な教科で展開しています。

――校舎内には、大ホール、レクチャーシアターなど広さの異なるさまざまな「発表できる場所」がありますよね。それぞれの活用方法について教えてください。

レクチャーシアターは、クラス単位で使う場合や、同じSAの授業でももっと規模の小さいグループや生徒会のような組織など、少人数のユニットで使っています。また、コラボスペース(Co-lab space)という壁がホワイトボードになっている小さい部屋もあり、生徒が予め設備の特徴などを把握したうえで、うまく使い分けているように思います。
本校では、Googleのカレンダー機能を使ってホールやその他の場所の予約を行っています。生徒はスマートフォンやタブレットパソコンを持っていますので、大ホールやレクチャーシアターの予約はもとより、授業の予定や与えられた課題などを、どこででも確認したり提出したりできます。校内ではWi-Fiが通っていますので、場所にとらわれない学びができているのではないでしょうか。

レクチャーシアター

コラボスペース(Co-lab space)

生徒も教員も楽しみながら学ぶ

――文部科学省では探究学習を積極的に推進していますが、どの学校でも試行錯誤していながら取り組まれていると思います。貴校の特徴の一つである課題探究型授業がうまくいく秘訣について、現場の先生のお話として改めてご紹介いただけますか。

私自身のこういった探究型の授業は、以前働いていた学校でも似たような取り組みをしていましたので、ある程度のトライアンドエラーを経験してからこの学校にきました。日本らしい「失敗をできるだけしないように」という進め方や考え方で、我々教員が失敗を恐れる姿勢を見せてしまうと、それは生徒が萎縮してしまうことにつながると思います。私自身がトライアンドエラーしている姿を見せることで、生徒たちも失敗を恐れず、いろいろなことに果敢に立ち向かってくれるのではないかと考えています。
また、課題探究型学習をやっている学校の授業を実際に見に行って研究するのも、非常に勉強になります。自分のところばかりになってしまうと、どうしても視野が狭まってしまいます。私は、年間報告会や授業見学会を開いている大阪府の学校や、他府県の学校にも訪問し、実際に見て、吸収して、自分の学校ではどのように生かせるかを考えます。探究型学習の授業は簡単ではないですが、慎重にいきながらも恐れてもいけないという、二律背反なところがありますよね。

――教える側のスキルも問われていて、新しいことに取り組むということは先生方も大変なのですね。

今年度は、私自身がSAを統括する立場にあるので、色々な教員が相談に来られます。この立場になって初めて全体像が見え、新しい課題が見つかり、私自身も勉強しながらですが、楽しんで取り組んでいる側面もあります。このような学習が、他の教員にとっても楽しいものであってほしいですね。
本校は、公設民営の学校ということもあり、様々なバックグラウンドを持った教員が集まってくるという特徴があります。それが、学校の面白さにつながっていて、私立と似たような要素があるのかなと思いますね。
この学校は、決して利便性が良い所ではないのですが、良い学びの場が整っています。この学校を目指してきてくれる生徒たちの気持ちを無駄にしないためにも、私含め教員みんなが頑張っていますので、これからもぜひ応援いただければ嬉しいです。

――課題を見つけては探究していくという繰り返しは、生徒も先生も同じなのですね。この学校が、常に前向きにものごとに取り組んでいる様子がよくわかりました。今日はありがとうございました。


取材日:2023年6月

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