日生劇場(リニューアル)

2018.12.25
劇場・コンサートホール

施設説明

昭和を代表する建築として数えられる日本生命日比谷ビル

1963年9月、日本生命保険相互会社は創業70周年を記念して、日本生命日比谷ビルを建設しました。地下5階地上8階建てのビル内にあるのは、日本生命のオフィス、そして1,334席の客席空間が広がる日生劇場です。

オフィスへ出入りする職員と、芸術を楽しむ観客という要素が全く異なる二つが一つのビル内に同居できるよう見事納めたのは、当時設計を手掛けた建築家の村野藤吾氏。劇場のエントランス部を2階に設け、1階は共有部として外部に開放することによって、人の行き交う様は日比谷の街の賑わいへと違和感なく溶け込み、調和しています。

建設にあたって掲げられたコンセプトは、「100年の寿命」。当時の建築として主流だったガラスやコンクリートを使うモダニズム建築とは異なり、万成石によって仕上げられたクラシカルな外観が特徴的です。周辺ビルの建て替えが進む中、開館時から変わらぬ姿で、日比谷の街を見守っています。

美しく幻想的な日生劇場

村野藤吾氏の代表作の一つとして、そして昭和時代を代表する建築物として、今も高い評価を得ている日本生命日比谷ビル。その建築技術と芸術性は、ビルの中にある日生劇場へも、続いています。大理石の床、赤い絨毯と大階段、螺旋階段に沿う繊細な手摺、いずれも劇場という非日常空間へ誘う、繊細なデザインです。

客席内の壁面には、見る角度によって色が変わる美しいガラスタイルのモザイクが、天井には色付きの石膏へ二万枚ものアコヤ貝が貼られています。深い海底を思わせる内装はまるで海底神殿に来たかのごとく、他の劇場にはない独特の幻想的な雰囲気で観客を魅了します。

2015年12月から2016年5月までは、半年間の改修工事が行われました。この重厚で美しい空間を保ちながら、舞台機構を一新し、客席も大改修。目に映る印象はそのままに、劇場空間のホスピタリティが高まっています。

開館当時と同じデザインのままリニューアルした客席

改修工事では、イスを丸ごと入れ替えるケースも多くありますが、日生劇場のイスはこれまでも部材の丁寧なメンテナンスを経ながら、開館当時と変わらぬデザインが継承されて来ています。今回も「変えないリニューアル」を行うべく、細心の注意を払いました。

まずは全ての客席のイスを撤去し、コトブキシーティングの工場へと運び込みます。イスの内部に組み込まれている成形合板芯や、背もたれの裏側下部のFRP成形品は、再利用。背と座のクッションとなるウレタンを入れ替え、テキスタイルを新しいものに張り替えるため、1席1席のパーツを丁寧に取り外し分解しながら、修繕を進めました。

日生劇場のイスは、こんもりと丸みを帯びたラインが特徴的です。新しいウレタンでふくらむクッションを包み込むのは、これまでと全く同じ、素材・製造工程で製作した、肌触りが柔らかなサーモンピンク色のウールモケット。毛足が長いため、表面の毛の向きによって見える色に揺らぎが生じ、幻想的な空間を引き立たせます。

肘当の木部は丁寧に傷を補修し、再塗装。脚部もクリーニングを行って、開館当時と変わらぬデザインのまま、ピカピカの新しいイスに仕上げました。

また、1階席の一部は、車イスの来場者が客席のイスへ移乗しやすいよう、通路側の肘を跳ね上げる機構を新たに導入しました。イス自体のデザインを変えることなく、バリアフリーを実現しています。

波打つように緩やかなカーブを描く客席の横列に合わせるため、見た目からは分かりませんが、客席のイスは少しずつ間口が異なっています。そのため、1度取り外したイスは、1席1席取り違えることなく、同じ場所に設置しなければなりません。

繊細に創り上げられた劇場空間にふさわしい、細やかで丁寧なリニューアルを終えた日生劇場。この麗しく華やかな空間で、これからも次代に語り継がれる芸術作品の上演が期待されています。

居室データ

所在地
100-0006 東京都千代田区有楽町1-1-1 地図
施主
日本生命保険相互会社
リニューアル
2016年5月
席数
1,334
新築
1963年9月
関連リンク
日生劇場 WEBサイト
日生劇場 | 株式会社FABRIKO WEBサイト

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