水戸芸術館を満喫!後編ちょっとお昼にクラシック 客席から感じるコンサートホールの歴史

2017.02.23
レポート

水戸芸術館の探訪レポート・後編。1,500円で鑑賞できるコンサート「ちょっとお昼にクラシック」にお邪魔しました。ホール内で大きな存在感を放つのは、大理石の大きな柱。最大680席のこのホールは、2,000席近い収容人数も珍しくないクラシック音楽専用ホールの中でも、かなり小ぶりなサイズと言えるでしょう。ステージが掌、客席が指――握り締めた手をそっと広げたような、舞台と客席との距離の近さが特徴的です。客席のイスは、木をふんだんに使い、コンサートホールATMのために生み出された意匠です。

自然光が差し込む現代美術ギャラリー

自然光が差し込む現代美術ギャラリー

こちらは、現代美術ギャラリー。広さや光の状態が異なる九つの展示室は、極限まで要素を省いた、シンプルな内装が特徴的です。天井からは自然光が差し込み、天気によって異なる表情を見せます。

開催される企画展は、戦後の現代美術作品を主としながら、写真や映像、立体作品が並ぶ展示や、市民による「水戸市芸術祭」など、テーマや特色が多岐に渡ります。時には、近隣住民が思わずびっくりするような奇抜で突飛な展覧会も。その自由度の高さは、アーティストの間で「水戸芸術館で開催できない展覧会は、どのギャラリーでも受け入れてもらえないだろう」とささやかれているとの噂もあるそうです。新しい芸術創造の拠点として、旧来の美術館とは一線を画したギャラリーを目指しています。

華やかなクラシック音楽専用ホール コンサートホールATM

ギャラリーから廊下を隔てた位置にあるのが、コンサートホールATMです。ホールへの扉を開けるなり、思わずハッと息を呑むほどの華やかで美しい空間です。ホール内で大きな存在感を放つのは、大理石の大きな柱。ポルトガル産のローズオーロラと呼ばれる石で覆われています。この柱が、直径13メートルの音響反射盤を持つ円形の天井を支えているのです。

最大680席のこのホールは、2,000席近い収容人数も珍しくないクラシック音楽専用ホールの中でも、かなり小ぶりなサイズと言えるでしょう。ステージが掌、客席が指――握り締めた手をそっと広げたような、舞台と客席との距離の近さが特徴的です。

客席のイスは、木をふんだんに使い、コンサートホールATMのために生み出された意匠です。背板へ設置されたクッションが二つに分かれているこの仕様には、なかなかお目にかかることができません。腰と背中の上半分をそれぞれしっかり支えてくれる、豊かなボリュームのクッション。背中と背もたれの間に空洞をつくり、長時間の鑑賞時でも蒸れることなく快適に過ごせる効果も持っています。

張地の白っぽく変色した箇所は、汚れなのかと気になる方もいるかもしれません。でも実は、たくさんの人が座ったイスならではの、「目で見ることができるヒストリー」なんですよ。

「目で見ることができるヒストリー」の鍵を握るのは、イスの張地に使われた素材。ACM劇場と同じモケット素材が使用されています。

モケットの特徴は、座った人の身体に触れて毛の向きが変わること。最初はしっかりと毛が立っているため、本来の濃い色が見えます。着席を重ねるたびに、徐々に起毛している毛が横に寝ていき、色の薄い面が見えるようになるのです。この白化した張地から、なんだか物語を感じませんか? ぜひ、1席1席少しずつ異なる張地の色を見ながら、これまでのホールの歴史に思いを馳せてみてくださいね。

ちょっとお昼にクラシック 1,500円で本格的なコンサートが楽しめる!

さて、そんなロマンを感じるイスに座って、コンサート「ちょっとお昼にクラシック」を鑑賞させていただくことになりました。ランチタイムに気軽に本格的なコンサートが楽しめることを目指して、定期的に開催されている企画です。

チケットは全席指定の1,500円。なんと1ドリンク分の金額が含まれており、公演前後には館内のコーヒーラウンジでカフェタイムを楽しむことができるのです。平日の昼時にも関わらず、近隣住民の方を中心に客席には大きな賑わいが! 毎公演リピーターも多い人気企画だそうです。

六角形のステージの上には、お馴染みのグランドピアノ、そして緑色の装いのチェンバロが並んでいます。今回のテーマは、「世界中に広がる音楽」。演奏は「トリオ・インク」の皆さんです。ヴァイオリン、チェロ、ピアノ、チェンバロの音色とナレーション、そしてスクリーンに映し出される映像とともに、世界で愛されるようになった西洋起源のクラシック音楽の興味深い歴史が、物語形式で展開されます。

最初の一音がホール内に響いた瞬間、思わず鳥肌が立ちました。この日は後列で鑑賞しましたが、ピアノの鍵盤を叩く音やバイオリンの弦が擦れる音まで聞こえて来そうな、濃密感。そんな繊細な音までも響かせる豊潤な響きは、このサイズのホールならではかもしれません。終演後には「今後、もっと大きなホールのコンサートを聞いたら、どこか物足りなく感じてしまうかもしれない」と感じるほど、臨場感のある贅沢な音響でした。

水戸芸術館の広報担当者のお話も印象的でした。「些細で小さな音まで全部拾われてしまうため、演奏家の方の中には、水戸芸術館のステージに立つのは怖いとおっしゃる方も少なくないんです。でもその方も、またここで弾きたいと声を掛けてくださるんですよ。1度演奏すると、この響きに病み付きになってしまうようです」

音楽、演劇、美術の芸術活動で水戸の街を支える

音楽、演劇、美術の芸術活動が充実した専用空間で繰り広げられる、水戸芸術館。ここが水戸市民の生活や日常に根付いた場所であり続けることは、公立施設として担う大きな役目のひとつです。館内の至るところで集っていた人々の姿からは、「芸術文化施設にいる」ことに何の気負いもなく、生活に溶け込んだ場所として過ごす様子が垣間見えました。水戸芸術館が市民との間に積み上げて来た絆を強く感じる1日でした。

「こんな素敵な文化施設があるなら、水戸市に住みたい!」 がっつり掴まれた心に導かれて、また足を運ぶことになりそうです。

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