劇場のバリアフリー、快適な「座る」「立つ」を実現できる客席づくり

2019.01.30
製品特集

劇場・ホールの客席で誰もが行う「席に座る・立つ」、この動作を軽い力で行えるよう、イスにバリアフリー機能を搭載する動きが進んでいます。鑑賞時間を快適に過ごし、その席からスムーズに立つための「スペーシア」。座り心地はそのままに、座の形状を変えることで、既存のホールでもリニューアルが可能です。

劇場・ホールには、舞台芸術鑑賞を楽しむため、多くの人が集います。演劇やミュージカル、オペラやバレエ、クラシックコンサートなど、演目や内容によって来場者の性別や年齢層は異なりますが、近年、全国の劇場・ホールでは来場客の高年齢化が顕著だと言われています。少子高齢化と言われる日本の現代社会において自然な現象である一方、その客層に対応できる劇場・ホールづくりは、まだまだ模索の途中です。

高齢のお客様が、楽に過ごせる環境整備。これは誰もに優しい施設づくりに繋がっていきます。

「年齢、杖や車いすの利用の有無などを問わず、すべての人が平等な立場で安心・安全に舞台芸術を楽しめる空間を提供したい」

そんな劇場・ホール運営者の想いに応える、客席のイスの「バリアフリー」をご存知ですか?

今回は「座る」「立つ」に着目して、劇場のイスに秘められた工夫をご紹介します。

客席で必須の「座る」「立つ」は意外と大変?

劇場・ホールの客席で舞台芸術を鑑賞する際に、席に座る・立つの動作は欠かすことができません。座る・立つは誰もが日常的に行う動きですが、約2~3時間という長い時間をじっと座り続けた後、立ち上がってスマートに離席する動作は、劇場・ホールの客席特有と言えます。年齢問わず、立ち上がる瞬間に思わず「よいしょ!」と勢いをつけたくなることも多いのではないでしょうか。

そんな劇場・ホールの客席のイスには、鑑賞時間を快適に過ごし、その席からスムーズに立つをための工夫を施しています。

イスの座が左右する、長時間の鑑賞も快適な座り心地

コトブキシーティングの劇場・ホール用の固定式のイスには、長時間の着席でも疲れづらい、独自に開発したクッションを導入しています。

臀部や腿裏のあたる表面部分には、耐久力の高いオリジナルの張地を用い、その下には型くずれしにくく反発力のあるモールドウレタンを、その底を支えるために補強ネットを、そしてさらにその下にはフェルトを敷き、丈夫なクッションを創り上げています。これらを支えるのが、波の形をした金属製のスプリングです。綿密に開発したこのスプリングの波の形によって底付き感のない、そして反発しすぎて固く感じることもない、快適な座り心地を生み出しているのです。

席からスムーズに立てる、バリアフリーを実現する座の形

席から立ち上がるため、私たちは無意識のうちにいくつかの動作を組み合わせて行っています。

まず、身体の重心を前に持って行くために前傾姿勢をとり、そして膝を曲げるために足を引く。そして膝や足に力を入れ、肘掛に手を突き、身体の支点をなるべく前側にバランスを取りながら、お尻を浮かす。そして最後に膝と脚を伸ばして、立ち上がる。

立ち上がる際に思わず「よいしょ!」と声が漏れてしまうのはを、長時間座り続けたことによってイスの背もたれ側に寄った身体の重心を動かすためなのです。

この一連の動作は、どれも些細なことのようで、「立つ」ためには欠かすことができません。重心を後ろに置いたまま立ち上がることはできず、足を引かずに膝から真っ直ぐ下ろしたままでは、立ち上がることは困難です。

しかし、劇場・ホールのイスは、家庭やオフィスで使われているイスに比べて、前述のクッションのため座に厚みがあり、立つために必要な「足を引く」動作が難しいという問題があります。足がじゅうぶんに引けない状態では、「立つ」動作の時に身体の各部に負荷がかかり、これは高齢の方ほど顕著です。

「立つ」に大切な「足を引く」動作。これを第一に考えたのが、コトブキシーティングの「スペーシア」です。

通常のイスの座

バリアフリー仕様のイスの座「スペーシア」

「スペーシア」は、イスの座の先端部分が細くなった、横から見ると三角形の形をしたバリアフリー仕様の座の愛称です。着席時に膝裏に当たる部分を細く薄くして、足を引きやすく、そして足を引く際の余裕あるスペースを確保しました。クッションは従来のイスの座と全く同じ構造のため、座り心地が劣る心配はありません。

通常の座の場合、立ち上がる時の身体のバランスを安定させるために、イスの肘掛に手を突くケースが多いですが、スペーシアであれば足をしっかりと引くことができるため、荷物やコートを抱えたままでも手を使わず楽に立ち上がることができます。

立つ時の利便性だけでなく、座っている時でもふくらはぎを圧迫しない点が好評です。また、既に誰かが着席した席の前を通り抜けたい来場者が現れた時にも、真価を発揮します。足を座の下に引ける余裕があるため、他の来場者が通行する時に、立ち上がることなく通り抜けスペースを生み出すことができるのです。着席者は立ち上がる手間が省け、通行者も着席するまでの混雑や時間のロスを回避できるのです。

今からできる! バリアフリーのためのイスのリニューアル

スペーシアは、新たに建設する劇場客席はもちろん、「客層の高齢化に合わせて、現在の客席のバリアフリー化を進めたい」というリクエストにも答えます。イスの背もたれはそのまま、座だけリニューアルするという一部改修にも対応が可能です。

イスの背はそのまま、座をスペーシアにリニューアルしたオーチャードホール。1989年竣工、座は2015年に更新。

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日本青年館は、建て替えに際してスペーシアを導入。以前は窮屈さを感じた1席分間口も、広くなりました。

「建てて終わり」ではなく、時代の変化と共に進化を続ける、劇場・ホール。「座る」「立つ」を快適に行う工夫を、客席に取り入れてみませんか?

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