教員目線で考える、新しい学びの空間「レクチャーシアター」の可能性

2019.01.30
インタビュー

レクチャーシアターとは、インタラクティブなコミュニケーションを意識した、新しい学びの空間です。

グループワークやディスカッションを通して知識を深めるアクティブラーニングでは、教員は学生の議論を導くファシリテーターとしての役目を担います。一方、レクチャーシアターでは学生との双方向のコミュニケーションを基に講義を展開しながら、知識を授けることが求められます。

今回は、教員の目線から考える「レクチャーシアター」の可能性や期待について、明治大学の樋渡雅幸准教授から寄稿いただきました。

 

樋渡 雅幸氏

明治大学商学部特任准教授、株式会社シンクデザイン代表取締役社長明治大学商学部卒業。コンサルティングファーム、エクイティファンドでの勤務を経て現職。現在はこれまでのキャリアを活かし大学での講義に加え、企業とのより深い協業を実現するコンサルティングの確立を目指している。著書『「実践・内部統制」リスクに強い会社のつくり方』(ダイヤモンド社)、『マーケティング戦略ハンドブック』( PHP 研究社)、『なぜこのお店に人が集まるのか』(PHP 研究所)、その他『日経情報ストラテジー』(日経BP 社)、『Chain Store Age』(ダイヤモンドフリードマン社)、『東洋経済』(東洋経済新報社)など多数の執筆がある

教室環境が講義を変え、大学を変える

現在、大学において教育効果を高めるために取り入れている学習方法として、「アクティブラーニング」があげられる。「アクティブラーニング」は学生複数名がグループとなり、グループでひとつの課題解決に取り組む(最終成果としてプレゼンテーションが行われる)。この「アクティブラーニング」を実践しているひとりとして重要視しているポイントは、学生たちをどう課題に向き合わせるかである。下記の通り3点ほどを重視しているが、その中でも今回は、グループとなった複数名のメンバーとのコミュニケーションの観点について確認したい。

アクティブラーニング時の課題への向き合わせ方

  • (コミュニケーションが苦手な日本の大学生に対して)グループでのコミュニケーションを円滑にさせること(フリーライダーへの観点を含む)
  • 課題に取り組む際のモチベーションをどう高めさせるか(セルフモチベーションを含む)
  • クライアントからの課題理解の重要性を認識させ、適切な提案をいかに効果的に行わせるか

先にあげた通り、「アクティブラーニング」ではテーマとして提示された課題に対して、グループでディスカッションを行い、課題解決を目指す。このため、グループ内のコミュニケーションが確立されていることは重要なポイントなる。しかし、右図の通り日本人(特に大学生)はコミュニケーションを苦手とする比率が他の国に比べて高い。そのことは、高校生になるまで教員からの一方向の教育を受け続け、インプットした内容を覚えているかどうかを評価されることに慣れてきた部分が大きいと考えられる。
一方で、他の国で取り組まれている教育形態は、教員=学生の関係性の中で課題を共有、解決する講義スタイル「インタラクティブラーニング」である。 “〇〇教授の白熱教室” を想像いただけると分かりやすいだろう。この「インタラクティブラーニング」を経ることに、ディスカッションを行うための素地があると考えられる。学生同士という役割が確定していないコミュニケーションの前段階として、一定の力関係が確立された“教員=学生”の中で意見を言い、教員からの指導を受けることに慣れるのだろう。

このように、「アクティブラーニング」を効果的に取り組むためには、「インタラクティブラーニング」によりコミュニケーションの確立への慣れがあることが有効なポイントになると考えられる。

次に、大学において「インタラクティブラーニング」を行う際のポイントを考えたい。大学の講義として想像されやすいゼミナール形式での輪読であるが、これは、学生が課題図書を熟読し、その内容に課題を想定し教員から指導を受けるというものであり、まさに「インタラクティブラーニング」での講義である。しかし、現在の大学教育においてゼミナール形式の講義は3・4 年次といった後半に配分されており、1・2 年次といった前半においては大教室での講義が主体となっている。また、ゼミナール形式の場合は、参加人数はどうしても限定的とならざるを得ない。このため、大教室での講義を前提とした中で「インタラクティブラーニング」を取り入れる可能性を考えることが重要となる。

そこで再度、先ほどの“白熱教室”のシーンを想像いただきたいのだが、決してゼミナール形式のような少人数での講義ではない、おそらく50 名を超える学生が同時に参画し、〇〇教授とのディスカッションを行っている。すなわち、日本の1・2年次の講義においても物理的にはこのような講義に取り組むことは可能と考えられる。しかし、現在の日本の講義風景においてこのような光景は多くは見られない。私を含めた多くの大教室での講義風景は教員からの一方向となっており、教室の後方では講義を子守唄にしていることすら日常茶飯事になりつつある。これでは、先ほど提示したコミュニケーションの確立という観点への貢献は難しいと言わざるを得ない。

そこで、提案したいのがファシリテーションの重要性である。提示した二つの講義風景(“〇〇教授の白熱教室”と日本の大学での大教室での講義)において、教員および学生といった人数構成、時間や広さといった観点において大きな差は存在しない。その中で1 点、大きな違いが感じられるはずである。それは教室という設備である。“白熱教室” についてはテレビでの効果的な映像という観点はもちろんあるが、〇〇教授と学生は必ずアイコンタクトによるコミュニケーションを取ることが確立されている。一方、日本の大教室においては、教室の構造上、アイコンタクトが存在しない死角が存在する。このことが大きく講義への参画意識に影響を与えているのである。

その効果的な教室設備であるレクチャーシアターについては、コトブキシーティングの一連のフライヤーにおいて、No.2海外事例「海外事例から日本での導入スタイルを探る」、No.3「学生の声から講義スタイルを考える」においてその導入がもたらす効果を確認しているので説明は割愛するが、先に指摘した「インタラクティブラーニング」を行うにあたり必要な要素が網羅されていると考える。

レクチャーシアターの導入検討はあくまでその一歩に過ぎないが、その導入により、高校までの教育の中で習得し切れていないが社会において重視されるコミュニケーション能力について、その習得の第一歩となる要素が提供されることは、今後の社会への貢献を考えても大きいものとなるはずである。講義の実施にあたりファシリテーションが与える影響はあくまで一部分ではあるが、促されて講義が変わり、学生がコミュニケーションへの苦手意識を払拭できれば、大学が、そして社会が変わることも期待できる。

※ページ中のグラフはJtb Communication Design ホームページ「コミュニケーション総合調査〈第3 報〉発表」から引用(参照 2018-12-05)

※この寄稿文は「リーフレット Lecuture Theater」シリーズに掲載されました

講義机イス レクチャーシアター

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