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非常事態もスムーズな連携を果たした広島県呉市の複合庁舎くれ絆ホールも「防災に強い庁舎」を体現

インタビュー / 2019.2.15

災害に強い庁舎をテーマに掲げ、広島県呉市が新庁舎を建設してから約3年。2018年には、呉市の72時間雨量が観測史上最大を記録した「平成30年7月豪雨」の発生により土砂災害が相次ぎ、主要道路や鉄道網が寸断されました。

新庁舎の建設時には、自衛隊や警察・消防の防災拠点として利用されていることが計画されていた庁舎1階の「くれ絆ホール」は、1階の客席を収納しフラットで広い平土間スペースを生み出せることから、救援物資の受け入れ先として活躍。役所機能とホールが一体化していたため、非常事態もスムーズな連携を行うことができたそうです。

想定外の事態に備える庁舎づくりと、収納できる客席を持つホールについて、お話を伺いました。


呉市文化スポーツ部 文化振興課 主幹
﨑根 敏雄氏

2015年12月に竣工した、呉市の新庁舎

――新庁舎が誕生した背景について教えてください。

呉市庁舎(議会棟) 議場

旧庁舎が竣工したのは、昭和37年です。庁舎は、大きな災害が起きた時、対策や復興の中心拠点となって機能しなければならない施設ですが、旧庁舎は老築化が進んでおり、阪神大震災や東日本大震災のような万が一の事態に耐え切れないという懸念がありました。以前から新築の計画は上がる一方で、財政的に厳しい状況が続いていたため見合わせていたのですが、今回は合併特例債という有利な財源の後押しを得て、災害に強い庁舎の建設に満を持して踏み切ることができました。役所機能、議会事務局、そして市民ホールも備わった、複合庁舎です。

これまでの役所機能は、旧庁舎以外の2か所に分散していたので、市民の方は複数の場所を行ったり来たりしなければならないケースもあり、ご不便をおかけしていました。新庁舎は、ワンストップを目標に掲げ全ての機能を集約したので、私たちも各部署と連携が取りやすくなり、より充実したサービスを提供できるようになったと思います。

――旧庁舎から新庁舎に移行するご苦労もあったかと思います。

現在の新庁舎の敷地には、旧庁舎と市民会館が並んで建っていました。ですので、まずは、市民会館を取り壊して更地にし、その土地を利用して新庁舎の建設がスタート。建設中の役所の業務は旧庁舎で行い、新庁舎の建設後、2週間かけて旧庁舎と分散していた拠点から引っ越しを行いました。新庁舎が竣工したのは、2015年12月。翌年1月に落成式を行いました。庁舎1階にある「くれ絆ホール」がオープンしたのは、その2ヶ月後の3月です。

災害時の利用も想定した、客席が可動する「くれ絆ホール」が誕生

――新庁舎1階の「くれ絆ホール」について教えてください。

市民会館の後継にあたる市民ホールとして、建設されたホールです。地震などの災害時には、自衛隊や警察・消防の方が防災拠点として広いスペースが必要になる事態を想定して、1階の客席は全ての席を可動席とし、イスを収納し平土間を生み出せる設定にしました。

オープンから3年が経ちますが、イベントとして最も多いのは、行政の講演会ですね。パソコンでつくったパワーポイント資料を投影しながら話すのですが、ホールには400インチの大型スクリーンと高性能なプロジェクターが備わっているので、客席が明るい状態でもスクリーンが見やすいと評判です。他には、幼稚園生がダンスやお遊戯を行う発表会や、ピアノ教室の演奏会も行いました。

ホールの席数は、約600席。市民利用などもしやすい、ちょうど良いサイズなのだと思います。呉市には大きなホールとして約1,600席の呉市文化ホールが、小さなホールとして200席程度のつばき会館音楽ホールがあり、これらのホールとのバランスを鑑みて客席数を決めました。約900席あった市民会館よりも小ぶりですが、舞台は広く取っており、様々なイベントに対応できると評判です。

全ての席を設置した状態。約600席。

1階席を収納した状態。1階席フロア後方の白いスライディングウォールを明け放すと、庁舎1階の廊下と一続きになる。

――可動席の座り心地は、いかがですか。

とても快適ですよ。私は呉市内のホールをいろいろ担当してきて、くれ絆ホールへ着任したのは開館2年目からです。可動席のホールに携わるのは初めてだし、これまでは固定席派だったのですが、普通に歩く分には一般的な固定席のホールとほとんど遜色ないですね。さすがに駆け上がったりするとね、多少は揺れますけど。お客様も、固定席のホールと変わりない印象で利用してくださっていると思います。客席が可動式だという認識は市民の方々にもあるようですが、実際に動いているところをご覧いただくことはないので、「どうなんってるんじゃろーね」みたいな声を聞くこともありますね。

あとは、1席の大きさも、前の席との間隔も、ちょっと広めにつくってあるので、ゆったり座れるし通りやすくて良いという感想もよくいただきます。

――ありがとうございます。1階の客席は、どのようなレイアウトで使用することが多いですか?

イスを全て設置した状態が、圧倒的に多いです。全席を収納する平土間の状態は、文化団体連合会が主催する文化祭の展示会場として、年に数回利用しています。

1階席の前方だけ収納する、後方だけ収納するというレイアウトも提案したことはあるのですが、まだ実現していません。1度やってみたいですね。

1階席は、動かして舞台上に収納することができる。前方の席は空気圧で浮かして人力で移動させ、後方の席は電動操作で折り畳み移動させる。

平成30年7月豪雨時は、ホールが救援物資の受け入れ先に

――2018年7月に発生した西日本豪雨災害の時に、ホールが救援物資の受け入れ場所になったと伺いました。

新庁舎の建設時には、このホールが、警察や自衛隊の方が来られた時の防災拠点となることをイメージしていました。対策本部は上のフロアに設置するので、その本部で決まったことを受けてどう動くかという会議ができる場所としての活用ですね。両サイドの壁の中にはLAN回線も通っているので、客席のイスを収納して、机を並べてパソコンやモニターを並べたりするような使い方を想定していました。

災害が発生した時の救援物資の受け入れ先は、本来であれば隣の体育館だったのですが、西日本豪雨災害時は、改修工事中で使うことができませんでした。ではどうするとなった時に、唯一このホールが広いフラットなスペースを確保できる場所だったのです。搬入口もあったので、大型トラックを横付けすることができる。イスは全部収納して、ブルーシートを敷いて、客席後方のスライディングウォールも開けて、受け入れ場所となる準備を整えました。

物資の受け入れが始まったのは、災害発生の翌日からだったと思います。全国からたくさんのものが届くので、飲食物とか水とか毛布とか、区画を分けて仕分けました。大型トラックいっぱいの荷物なので、人海戦術で段ボールを運び出して、それを被災場所の要求に応じて持って行く。輸送時には、自衛隊の機動力が本当に頼りになりましたね。8月いっぱいは、救援物資の受け入れ場所を担い続けましたが、正直なところ、改修前の体育館では今回のホールと同じ対応はできなかったと思います。

西日本豪雨災害の時に救援物資受け入れ場所となった、くれ絆ホール(写真提供:呉市)

――具体的には、どのような点でしょうか。

まず、救援物資として届く食糧の賞味期限への対応です。1番最初に、パンなど賞味期限のあるものが大量に届きました。1番困っている病院関係に配りましたが、そもそも病院には大量に保管するスペースがありません。まだまだ手元にたくさんの食糧がある、配布するまで適切に保管しなければならない。そこで、ホールに24時間冷房をかけ続けました。温度も19度くらいに設定して、冷蔵庫の代わりですね。そんなに長時間も冷房を使い続けることもなかったので心配でしたが、問題なく動いてくれました。

それから、製氷機の設置。給水排水できるところでなければ置けないと言われて頭を悩ませたのですが、楽屋に洗濯機置き場があったので、何とかなりました。改修前の体育館では冷房機能もなかったし、あの暑い時期に救援物資を保管し続けることは不可能だったと思います。

――ホールの存在や複合型の庁舎であったことが、功を奏したと言えるのでしょうか。

そのとおりです。ホールも庁舎も新しくなっていて、助かった面がたくさんあります。機能が一体化していたので、連携も取りやすかったですし、今回で言えば、このホールが避難物資の受け入れ場所として対応できること、すぐ隣に市の職員がいるので、放送で一声かければ物資の搬入などの手助けもできるということが、本当に大きかったです。

呉市は、過去、台風によって陸の孤島になったことがあります。しかし今回ほど酷い災害が起こるとは、思ってもみませんでした。もし旧庁舎のままだったら、地下が水浸しになり、機械系統が全部だめになっていたかもしれません。1番しっかりしなければならない場所なのに、電気もつかない中で何ができるのかと考えると、ぞっとします。災害に強い庁舎という目的の元に建設した新庁舎があったことは、本当に不幸中の幸いでした。本庁舎の災害対策本部としての機能を、しっかり果たしていたと思います。

庁舎と文化ホールが一体化する意義

――災害時に真価を発揮したくれ絆ホールですが、災害時の体験も踏まえて、庁舎と文化ホールが一体化している特長について、改めて意見をお聞かせください。

自治体として言えば、メリットしか感じません。同じ建物内ですから、常時・非常時問わず、市の部署・職員同士で連携がしやすい点が、とても良いですね。イベントとして最も多い自治体の公演は、健康に関することから税金のことまで様々ですが、必要な荷物を車で搬出搬入する手間も時間も必要なく、台車に載せて持って来ることができます。相談があればお互いすぐ駆けつけることもできます。

――一体化していることによる、弊害もありますか?

正直なところ、ホール機能としては、独立している方が便利だと思うこともあります。

例えば、有料公演のためには切符をもぎらなければなりませんが、このホールの出入り口の部分は、庁舎との共有スペースでもあります。公演には関係のなく市民の方が利用するトイレも近いので、誤ってホール内に入ってしまうことがないよう、監視を立てる・ドア係が常に立つなどの工夫が必要です。

また、ロビーらしいロビーがないので、物品販売がしづらいかもしれません。ホール外の廊下で行うので、庁舎を訪れる方との動線が混ざってしまう可能性があるのです。公演を観ない人でもグッズを買えるという点でいえば、長所なのでしょうか。

――ホールで有料公演を行う場合には、工夫が必要ということですね。

そうですね。このホールを借りる方にとって1番のメリットは、使用料が安く、低予算の方でも本格的な設備を利用できることです。現状は、幼稚園や習い事の発表会など無料の公演が多いのですが、今後有料公演が増えてきた時には、効率の良い動線確保のパターンを、私たちから提示できるようにしたいです。

――開館から3年を経て、今後の展望を教えてください。

今年は、移動観覧席の収納位置を少し変更する予定です。

イスを畳んだ後、移動観覧席本体を舞台上まで移動させて客席に平土間を作るのですが、舞台上に移動した時の停止位置が、ちょうどスクリーンが下りるポジションと同じなのです。もう少し舞台奥に移動観覧席を収納できるようにして、平土間の時にスクリーンを下せるようにしたいと計画しています。フラットなスペースで映写会などのイベントもできますし、展示会の時はもちろん、非常時にスクリーンに何かを投影するような使い方も考えられます。

これは、ホールを使っているうちに可能性を感じて、検討するようになりました。さらに経験値を積む中で、見えてくることもあると思います。

――ホールとしての進化ですね。今後の新たな活躍にも、期待しています。ありがとうございました。

取材日:2019年1月7日


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