役所機能と文化施設が一体化した複合庁舎まちづくりの拠点は、いざという時は避難所や防災拠点にも変化

2018.12.29
事例特集

市区町村が行政事務を行う庁舎や役所は、小さな子供から高齢者、障害のある人もない人も幅広い層の地域住民が訪れ・働く、生活には欠かすことができない公共施設です。誰にも優しく、誰もが使いやすい、地域に開かれた庁舎づくりは、全国の市区町村が抱く共通の課題。まちづくりの拠点となる庁舎を目指して、近年は、文化交流施設と役所機能が一体化・隣接した複合庁舎の新設が進み始めました。人の集まるスペースが集約されることにより、街に賑わいをもたらし活気を生むことから、首都圏に比べて人口の少ない地方地域で積極的に進んでいます。ホールなどの広いスペースがある庁舎は、災害時の避難所や防災拠点の役割も期待されます。近年新たに誕生した、庁舎内または併設の文化施設をご紹介します。

01移動観覧席とスタッキングチェアで汎用性の高い空間に

阿波市交流防災拠点施設「アエルワ」
アエルワホール

阿波市交流防災拠点施設「アエルワ」 アエルワホール
阿波市交流防災拠点施設「アエルワ」 アエルワホール
阿波市交流防災拠点施設「アエルワ」 アエルワホール
阿波市交流防災拠点施設「アエルワ」 アエルワホール

徳島県阿波市の役所機能は、これまで支所などで分散して行われていた9部局25課の業務が一元化され新庁舎としてまとまり、同じ敷地内に給食センターや交流防災拠点「アエルワ」が並んだ町づくりの中核施設として、2015年1月に生まれ変わりました。
市民みんなが輪になって、文化・交流を楽しみ“合える”、分かち“合える”。災害時には、支え“合える”、助け“合える”。そんな『合える輪』を築くための施設に――。そんな願いを背景に、交流防災拠点は「アエルワ」と名付けられました。
アエルワには、市民の文化・交流活動を支援する、640席のアエルワホールが設けられています。災害時における応急対策の拠点として活用するためには、広い空間がフラットに使えなければなりません。そこで、1階の客席には、移動観覧席とスタッキングチェアが選ばれました。
公演やイベントがない時は、移動観覧席をホール後方壁内に電動で収納し、スタッキングチェアを倉庫にしまうことによって、平土間の空間を設営。社交ダンスやワークショップの会場として、使用されています。災害時は支援物資の流通拠点としての活用が見込まれています。

 

024棟を一続きの空間にして、少ない労力で広い防災拠点に

くれ絆ホール

くれ絆ホール
くれ絆ホール
くれ絆ホール
くれ絆ホール

戦艦大和のまち、広島県呉市。これまでの庁舎は、1962年の竣工から呉の市政を担って来ましたが、耐震強度面の不安から、隣接した市民会館・公民館と併せて解体が決定。その跡地で建替えられた新庁舎には、呉市の中心地にふわしい新しい庁舎機能が求められました。施設構成は、庁舎棟・議会棟・市民ホール棟・駐車場の4棟。各棟はシビックモールと呼ばれる屋内通路によって結ばれれます。新庁舎は、2016年1月に竣工しました。
旧庁舎に隣接していた市民会館・公民館を引き継ぐ文化施設として、庁舎の市民ホール棟1階に誕生したのが、くれ絆ホールです。災害時には、自衛隊・警察・消防などの防災拠点として広いスペースが必要な際にホールが使用されることを想定し、1階客席には可動システムが導入されました。
客席前方のイスは、空気圧で浮かして動かせるワゴンの上に設置されています。客席後方は、階段状の席を電動で折りたたみ収納できる移動観覧席です。全ての席を収納する際には、いくつかの手順を踏む必要がありますが、イスを抱えて運ぶ労力が必要ないため、短時間・少人数で行うことができるメリットがあります。
全ての席を収納した後、客席後部のスライディングウォールを動かすと、シビックモールから一続きのフラットスペースに早変わり。庁舎内を通行する誰もが気軽に入りやすい空間を構成でき、市民交流の活性化を促進します。

 

03ワゴン席と移動観覧席で多様なセッティングを可能に

勝浦市芸術文化交流センター「Küste キュステ
ホール

勝浦市芸術文化交流センター「Küste(キュステ)」 ホール
勝浦市芸術文化交流センター「Küste(キュステ)」 ホール
勝浦市芸術文化交流センター「Küste(キュステ)」 ホール
勝浦市芸術文化交流センター「Küste(キュステ)」 ホール

勝浦市には、太平洋を漁場とした漁業の発展や400年余続いている「勝浦の朝市」など、海の豊かな資源によって街が栄え、自然と人とが共に文化を育んできた歴史があります。その一方で、海に面しており、津波など災害にも備えなければなりません。
勝浦市役所本庁舎は、役所機能を持つ公共施設として、非常時にも安全性の高い高台に建設されています。勝浦市芸術文化交流センター「Küste(キュステ)」は、その庁舎に隣接する複合文化施設として、2014年12月に開館しました。市民をはじめたとした利用者と観光客などが、安心と快適さを実感しながら、質の高い文化芸術を体験できるよう、充実した音響装置や舞台機構を備えています。一方で、災害時には避難所としても利用できるよう、施設内のホールには、可動席を導入しました。
1階の客席は、階段状に展開・収納できる移動観覧席と、3列のワゴン席で構成されています。これらは全て床下に収納することができます。全ての席を収納する際には、まずワゴン席を床下に格納し、その後、客席が折りたたまれた状態の移動観覧席を前方移動させ、同じく床下に移動させます。収納時には1階が全て平土間になる構造です。1席1席を持ち運ぶ力を必要としないため、非常時にも少人数で短時間に対応できる点が、特徴的です。また、イベントによっては、ワゴン席を収納した後、移動観覧席をやや前方に動かし、2階席と1階席最後列の間に通路とタラップを設けて間仕切ることによって、客席数を移動観覧席306席のみにセッティングすることも可能です。用途に応じて客席を変化させることで、様々な状況に対応することができます。

 

※この記事は、過去に掲載した納入事例記事をテーマごとにご紹介しています。

※くれ絆ホールは、2019年10月1日より「新日本造機ホール」へ名称変更されています。ここでは記事公開時の呼称をそのまま使用しています。

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