トークイベント『好きな劇場 ニガテな劇場』~観客目線とプロ視点で“劇場”を語る~ を開催しました!中編

2018.05.31
レポート

トークイベント『好きな劇場 ニガテな劇場』~観客目線とプロ視点で“劇場”を語る~ 中編レポート。第一部「観客目線で劇場を語る」のゲストは、演劇雑誌「シアターガイド」で編集長も務めた鈴木理映子さん。劇場という空間や雰囲気をつくりあげる要素「居住性」「ロビーやホワイエの雰囲気」「劇場スタッフのホスピタリティ」、そして行き帰りの気分を大きく左右する「劇場までの交通アクセス」「劇場内の動線」などについてトークしました。

第一部「観客目線で劇場を語る」では、あえて演目以外を中心に劇場を語る!

「劇場というテーマのトークショーでは、演目について語ることが多いように思うんですけど」と語り始める、上村由紀子さん。「今回は、演目以外のポイントに注目してお話していきたいと思います」と続ける上村さんの横に座るのは、第一部のゲストである、演劇雑誌「シアターガイド」で編集長も務めた経歴を持つ鈴木理映子さんです。

劇場という空間や雰囲気をつくりあげる演目以外の要素は、スポットライトを浴びることは少ないものの、どれも重要なポイントです。例えば、「舞台の観やすさ」を筆頭に、最重要ではないけれどもある程度のチケット代を払ったからには気持ちよく過ごしたい故の「居住性」「ロビーやホワイエの雰囲気」「劇場スタッフのホスピタリティ」、そして行き帰りの気分を大きく左右する「劇場までの交通アクセス」「劇場内の動線」などが挙げられます。

トークショーで実際に取り上げられた「劇場」のトークのいくつかを、レポートします!

公立の劇場を語るに欠かせない、大・中・小の劇場を持つ「新国立劇場」

新国立劇場は大・中・小の三つの劇場から成る国立の劇場。新宿駅の隣駅である初台駅から直結しており、交通アクセスが非常に利便性の高い施設です。

オペラ劇場(オペラパレス)は、オペラ・バレエ専用劇場としてヨーロッパの劇場建築で確立されてきた、プロセニアム形式のホールです。三層から成るバルコニー席が特長的で、総席数は1,814席と、新国立劇場の中でも最大の席数を誇ります。

その次に大きい規模のホールが、プロセニアム形式とオープン形式の二つの舞台形式を持つ中劇場です。演劇とダンスを中心として、さまざまな舞台芸術作品が上演されています。

そして、もっとも小さいホールが、客席も含め劇場全体の床がすべて可動式になった小劇場。演出プランに合わせて自由に劇空間を創造できるオープンスペースの劇場です。

上村
早速なんですけど、オペラパレスに行くと、「わあ、ゴージャス!」って思いません? だって、ホワイエでシャンパンが飲めるんですよ! しかも複数の銘柄が置かれていて。奥の方ではシェフがローストビーフとか切ってるんです!(笑)
鈴木
小劇場に通ってる人からすると、本当にびっくりしちゃいます(笑)
上村
オペラパレスは、バレエやオペラが上演される劇場なんですけど、1度上演が始まると、演目によっては途中入場ができないんですよね。開演に遅れると、演目と演目の間の休憩までは、ロビーでテレビ画面越しに観ることになります。すごく厳しい。でもこの仕組みって、一方ではすごく、観る人に優しいんですよね。途中入場したお客さんによって、視界や集中力を妨げられることがないんです。
鈴木
ミュージカルや規模の大きなストレートプレイをご覧になる方なら、中劇場の利用も多いんじゃないかな。中劇場って、最大でも700席くらいのホールを指すことが多いんですけど、新国立劇場の中劇場は1,000席以上あるんです。だから、つくり手にとっては、少し難しい劇場だと感じています。でも奥行がかなりあって、機構が充実している点が魅力的ですね。
上村
シェイクスピアとかいいですよね。群衆が走り込んでくる様子とか。
鈴木
そう、遠近感のある芝居をすると、すごく効果的。
上村
小劇場のイスはなかなかハードモードかも……
鈴木
私は慣れちゃいました(笑)下北沢あたりの小劇場ではパイプ椅子か体育座りということもありますし。
これは裏方目線になってしまうんですけど、稽古のための施設がすごく充実していて、これはとても良いなと思います。スタッフさんも使いやすい。また、国立という名前だけあって、劇場以外のスペースもわりと開かれていますよね。
上村
そうそう。5階に上がると庭園があるんです。劇場を利用しない一般の方でも入れる空間で、緑もあって。お弁当が食べれるスペースもあります。
鈴木
館内にはイスも多くて、ぼーっと座っていても見とがめられることもありません。ゲストWi-Fiも飛んでいるし。情報センターという図書室のような一角もあって、かなり豊富な資料があります。新国立劇場で上演した過去の作品の一部が、ビデオ視聴もできたり。隠れた魅力がいろいろある施設です。

神奈川県の文化芸術の拠点として誕生した「KAAT神奈川芸術劇場」

2011年、開港以来の歴史ある横浜市に誕生した神奈川芸術劇場(通称:KAAT)。神奈川県の文化芸術の拠点とし、優れた舞台芸術作品の鑑賞機会を提供することを目的に新設された、公立の劇場です。大ホールのほか、大・中・小のスタジオを備えています。

空間は、高さ約30mの開放的な施設エントランスが特徴的。エントランス中央に位置する大階段とその先のエスカレーターが、来場者を上階のホール・スタジオへ誘う建築です。

鈴木
最初遠いなと思っていたけど、だんだん心の距離が縮まってきた劇場。おそらく、副都心線・みなとみらい線でアクセスが良くなったことが理由の一つですね。交通費高いと感じていたのも、あまり気にならなくなった。たぶん、Suicaをオートチャージにしたからかな(笑)
上村
それ、知らない間に引き落とされてますから(笑)
でも、分かる。東京在住の身からすると「都内で上演されるなら都内で」と思っちゃうんですよね。だけどプロデューサーの方とお話をすると、東京の劇場の芝居に負けないように、それでいて神奈川の劇場ならではの魅力と打ち出すためにはどうしていけばいいのか、常に考えていらっしゃることがよくわかります。
鈴木
ラインナップがホールごとに大きく違っていて、ミュージカルから渋い芝居までつくっている、面白い劇場だと思いますよ。
ホール・大スタジオ・中小スタジオの三つのホールで開演時間が被った時に、全く違う客層の人たちが一緒になってエスカレーターを上っていく様子を見ていて、すごく興味深かった。全然違うものが隣り合っているのを見ているうちに、世の中に色んな芝居が存在しているんだということが、顕著にわかるんです。
上村
そう、KAATは何と言っても、エスカレーターを上がっていくわくわく感が好きなんですよね。上っていく途中にソファスペースがあったり、図書コーナー的なものがあったりして、随所に公立劇場っぽさも感じます。大ホールのロビーは、ちょっと暗いのが気になるかな。個人的には「劇場に来たぞ!」 って高揚感がもっと高まるような明るさがあると嬉しいです。

重厚な外観と幻想的な内装を持つ、日生劇場

日生劇場は、1963年に竣工しました。劇場内はうねるような曲面で構成され、天井に2万枚ものアコヤ貝殻が散りばめられています。ロビーや階段のステップひとつひとつまで、建築家の故・村野藤吾氏の息吹を感じるかのような美しいデザインです。

イスもその建築の一部としてデザインされ、優雅な曲線を持つ独立脚タイプのイスとして誕生しました。最近では、2015年12月から2016年5月にかけて、舞台機構などを含めた劇場全体の大規模なリニューアルが実施されています。

上村
トークショーの参加申込にあたってお願いした事前のアンケートでも、1番回答が多かったのが日生劇場でした。私自身も、とても思い入れが強い劇場です。コトブキシーティングさんとの出会いのキッカケにもなった、TBS「マツコの知らない世界」でも紹介させていただきました。
鈴木
私にとっては、大人になってから行くようになった劇場です。
上村
とにかくこの劇場は、すごいんです! まず、階段が大理石。これはスペインの山を一つ切り崩して持って来たらしく、スペインでは「ある日突然、山が消えた」とニュースになったそうですよ。
それから、ホワイエには美術品が無造作と言っても良いくらい、たくさん置かれているのも日生劇場ならではかな。幕間も積極的にホワイエで過ごそうと思える、素敵な空間です。
そして客席空間の天井に張ってあるのが、アコヤ貝。タイルが1枚1枚手作りで張ってあって、本当に美しいです。
客席のイスは、一見同じように見えるけれども、細かい角度や高さが場所によって違っているそうです。端の席は肘掛の取り外しもできたり、身体が不自由な方が座りやすいようにとバリアフリー機能も備えていて。見た目の美しさだけでなく、細やかなホスピタリティを感じます。
鈴木
最近、ビルの中に入っていて、外から見ると劇場がどこに入っているのか分からないシアターも多いじゃないですか。でも日生劇場は、存在感が半端ない。これ大事だと思うんです。
上村
終演後に客席の各扉がバーッて開いて、大理石の階段をバーッてみんなが下りていって、正面の扉をバーッて道へ出ていく。いい芝居を見たなって気分になる。バーッとしか言えないくらいイイ気分(笑)
鈴木
昭和の、古き良き劇場。古きって言い切って良いのか分からないですけど、当時の関わった人たちが、新しいことをしようと思ってつくった、そんな精神が感じられる劇場ですね。

大自然の中に佇む、SPAC(静岡県舞台芸術センター)

SPAC(Shizuoka Performing Arts Center)こと静岡県舞台芸術センターは、専用の劇場や稽古場を拠点として、俳優、舞台技術・制作スタッフが活動を行う、日本で初めての公立文化事業集団です。

劇場は、グランシップ(静岡県コンベンションアーツセンター)の先端部分にある「静岡芸術劇場」と、東京ドーム約4倍の敷地を持つ日本平北麓の緑濃い園内の野外劇場に分かれています。

上村
私が日生劇場への愛を語りまくってしまったので、次は鈴木さんの熱い思いを語ってもらおうかと思います!
鈴木
ここ、すごい! 駅前にまず一つ「静岡芸術劇場」があって、そこから車で15~20分くらい先かな、山の上に巨大な広大な空間があるんですよ、茶畑とかあって……。そこに劇場が散らばっているんです。
駅前の方の静岡芸術劇場は少しダークな雰囲気の、「闇を大事にしました」みたいな、明るさの控えめな劇場。一方で山の上にあるのは、野外劇場なんです。雨風に晒されたイスに、薄いシートみたいなものを貰って、それを自分で敷いて座る。混んで来たら、詰め詰めに座る。後ろが茶畑と森。神話的な物語とかにぴったりな場所なんですよ。雨が降ったら、自分でレインコートを着ます。
上村
野外劇場のいいところって、どんなところですか?
鈴木
気が散るところですね。普通の劇場ってステージだけに集中して鑑賞せざるを得ない場所なんですけど、野外劇場って、ちょっと飽きたなと思ったら山とか見てればいいんです(笑)大自然やマイナスイオンを感じてる途中に、ふっと舞台に引き戻されたりするあの感覚。芝居に出たり入ったりすることによって、芝居と自分の距離をオリジナルにつくれる。良いですよ、野外劇場!

あなたにとって、「良い劇場」とは?

鈴木
「経験ができる場所」であることかな。舞台を観て帰るのも、経験。でもそれだけじゃなくて、例えば今日のロビーは賑やかだなとか、案内スタッフさんのあの対応はなんだかなっていう、そういう感情も全部含めて、その「経験」をどうやってプロデュースするかが、劇場の仕事だと思っています。劇場って、そういう経験の豊かさが大事な場所だと思うんです。
上村
これはいろんなところで書いたりお話していることなんですけど、劇場って“人生を変える可能性を持った場所”だと思うんです。舞台で観たことや聴いた音楽、俳優さんの熱量をストレスなく持ち帰って最後まで余韻に浸れる劇場が私にとっての良い劇場。劇場の外に出た時に人生観が変わるくらいの経験ができると生きてて良かったと思います。

 

 

第一部のトークでは、この他にも、エンターテイメント色を打ち出したラインナップを中心に据える劇場や、100~300席規模の小劇場、現在は既に閉館と劇場も含めて、約10劇場をピックアップしてお届けしました。

熱の入ったテンポ良い二人の掛け合いに、客席からの笑い声も絶えないトークイベント前半となりました。

 

開催日:2018年5月26日

この記事内で挙げた劇場・ホールには、コトブキシーティングの製造・販売ではない劇場イスも含まれます。

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