劇場型の授業を可能にする新しい講義空間、レクチャーシアター英国王立研究所の「クリスマスレクチャー」をモデルに設計・前編

2018.04.23
コラム

受動的な学習から、能動的な学習へ

新しい学習のカタチとして、近年注目を集めている「アクティブラーニング」ですが、いま、また新たな講義スタイルが幕を開けようとしていることを知っているでしょうか? それは、講師と受講者の双方向コミュニケーションが基本となる、劇場型の授業です。

アクティブラーニングと劇場型の授業の共通点は、「能動的な学習」であることです。

戦後の日本における学習形態は、教師の指示に沿って手順通り学びを進め、知識を増やしていく「受動的な学習」が基本形でした。子どもたちがこれからの社会を生き抜くためには、知識を増やすだけでなく、その知識を使う力が必要となります。

目の前にある問題や課題を見つけ、自らの学習課題として捉え、その課題を解決するための過程を導く力。「能動的な学習」は、これらの力を身に着けることができる学習スタイルなのです。

西南女学院大学 西南女学院大学短期大学部
アクティブラーニング教室

アクティブラーニングと劇場型の授業は、「能動的な学習」という共通項を持つ一方で、一線を画す大きなポイントをはらんでいます。

アクティブラーニングは、教師は生徒のグループワークやディスカッションを導くファシリテーターとしての役目を担います。しかし、劇場型の授業では、講師として「受動的な学習」と同様に、学生へ知識を授けるポジションに立つのです。

では、「講師が学生へ知識を授ける」という共通項を持つ「劇場型の授業」と「従来の授業」は、いったいどこに差があるのでしょうか。

「能動的な学習」の劇場型授業、「受動的な学習」の従来の授業

例えるならば、「受動的な学習」を行う従来の授業は、シアターでの映画鑑賞。劇場型の授業は、劇場・ホールでの舞台鑑賞です。

舞台作品は、観客の笑い声や拍手のタイミングによって、舞台上の役者と客席の観客にコミュニケーションが生まれる、言わば「生もの」です。劇場型の授業でも、講師が情報を発信したり、学生が意見を述べたりすることによって、授業が変化を遂げていく姿が期待されます。

この双方向のコミュニケーションが自然と生まれる仕掛けを施した、劇場型の授業のための空間が、「レクチャーシアター」と呼ばれる、いま注目の居室スタイルです。

いち早く「東工大レクチャーシアター」を生み出した東京工業大学

国内の大学で「レクチャーシアター」と銘打った、劇場型授業のための明確な空間をいち早く提示したのは、東京工業大学でした。

東京工業大学の東工大レクチャーシアター

東京工業大学は、これからの科学技術の発展を担う人材の育成や、地球規模の課題を解決する研究から「世界最高の理工系総合大学」の実現を目指す、日本を代表する理系大学のひとつです。

2016年4月からは、科学技術の力でグローバル社会に寄与できる人材育成のため、教育システムの抜本的な改革をスタート。日本の大学では初となる、学部と大学院を統一した「学院」も創設しました。その東京工業大学が、教育システムの改革前に着手したのが、「レクチャーシアター」の整備でした。

「東工大レクチャーシアター」づくりは、学士課程入学直後の学生を対象とする講義での活用を想定して進められました。夢や希望を抱いて東京工業大学に入学した学生へ、科学を学ぶ素晴らしさを存分に伝えられるよう、教員が行う実験を様々な角度から捉えられるカメラ、電子顕微鏡、元素分析装置、3Dプロジェクターなど、最新鋭の機器も整えました。この環境を活用し、東京工業大学の最先端研究者や、国内外から最先端の研究者やノーベル賞級の発見・発明者を講師として招き、創造的討論や実験の実演を伴った講義を開講しています。

東工大レクチャーシアターの座席は、講師が立つ演台スペースを見下ろすような、急勾配の階段状レイアウトです。学生は後方の席からでも講師を正面に捉えることができ、講師からは学生ひとりひとりの顔をしっかりと確認することができる、双方向コミュニケーションを図りやすい空間設計が施されています。

劇場のイスのデザインを踏襲した席と、収納式のテーブルを組み合わせ、ゆったりとした座り心地で授業に臨める環境を実現しました。

そんな東工大レクチャーシアターと、そこで行う授業のモデルとなったのが、英国王立研究所が実施している「クリスマスレクチャー」でした。

英国王立研究所のクリスマスレクチャー(2011年開催の様子)
©Paul Wilkinson and The Royal Institution

「レクチャーシアター」はコトブキシーティングの商標登録です。

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