コトブキシーティング株式会社

ホール・劇場・学校・スタジアム・映画館など、公共施設のイスやカプセルベットの製造・販売

アート&デザインによって「支援する人たちを支援する」劇場イスの張地に復興支援の願いを込めて

インタビュー / 2016.6.17

2011年7月より活動をスタートした「支援する人たちを支援する」プロジェクトこと、「サポサポproject」。東京藝術大学美術学部卒業生が集いアート&デザインの展示販売を行い、その収益金の一部を支援金として、震災ボランティアを行う団体に提供しています。
今回は、2016年6月24日〜26日開催「サポサポproject vol.14」に関わりのある3名にお集まりいただき、お話を伺いました。


サポサポproject代表 亀井伸二<
サポサポproject代表
亀井伸二
 

1968年、大分県別府市に生まれる。1996年、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。有限会社STORK代表。美術展のポスターやカタログ、本の装丁などを中心にグラフィックデザインの仕事に携わる。山脇美術専門学院ビジュアルデザイン科非常勤講師。

サポサポproject参加作家 時園勇
サポサポproject参加作家
時園勇
 

1992年、東京藝術大学工芸科彫金専攻修了。2000年よりミラノサローネをはじめとした海外展示会に、照明家具プロダクトを出展。現在は空間クリエイターとして店舗やオフィス、住宅等のインテリアデザインを行う。オブジェ製作などのパブリックアート製作にも携わる。

FABRIKO 澤村祐子
(株)タウンアートFABRIKO事業部
チーフテキスタイルデザイナー
澤村祐子

女子美術大学大学院修了。劇場ホールや議場、学校などを中心に、全国で300件以上の公共施設のイス張地のデザイン・提案を行う。過去に手掛けた施設は、東京芸術劇場、ロームシアター京都、東急シアターオーブ、八丈町庁舎、NHK大阪ホール、EX THEATER ROPPONNGIなど。

「サポサポproject」のはじまりは、2011年3月11日の東日本大震災で抱いた無力感から

亀井
このプロジェクトの名前にもなっている「サポサポ」とは「サポートのサポート」のこと、「支援する人たちを支援する」ことをテーマとして掲げています。
「サポサポproject」を始めたきっかけは、2011年に起きた東日本大震災です。あの日、ものすごい揺れを感じました。幸いにも周囲に大きな被害はありませんでしたが、テレビに次々と映るニュース映像に、とてもショックを受けました。あの時に抱いた何とも言えない感情は、僕の中でトラウマに近い体験です。あんな風に人が辛い思いをしているのに、僕の仕事って、デザインって、何の役に立つんだろう? 自分を責めずにはいられない気持ちでした。家を直すような技術はないし、現地に届けられる食料をつくっているわけでもない。腰が悪かったりして、向こうに行って泥かきをすることさえもままならない。
澤村
私の実家は東北にあります。津波の被害こそ免れましたが、電気がなかなか復旧せず、普通の生活ができる状態ではなくて。余震のニュースが入る度、本当に毎日気が気ではありませんでした。何かできることはないだろうか、でも何もできることがない…。そんな気持ち、私もよく覚えています。
亀井
無力感を抱いていたその頃、ボランティアで被災地まで炊き出しに行く人たちに知り合ったんです。僕の事務所の近くの、行きつけのサンドイッチ屋さんで。彼らは、30人くらいの仲間を募って自力で現地まで行くのだと話していました。1回行く度の費用は、30万円。これって大きな金額ですよね。彼らは休みを使ってボランティアに行って、それ以外の休日にはフリーマーケットなどで資金を稼いでいるのだと聞いて、僕は衝撃を受けました。それと同時に、「休みなく全てを差し出して動く人たちをこの人たちをサポートすることは僕にでもできるんじゃないだろうか」とも感じたんです。そんなことを考えていたせいか、偶然、支援する人を支援するといった内容の新聞の広告が、目に止まりました。「あ、これが僕にできることだ」って思いました。僕は僕の表現活動で、サポートのサポートをできるんじゃないかって。
時園
私は元々付き合いがあった関係で、水戸地域で支援活動をしたことがあります。東北が一番大きな被害でしたけど、北関東も被災が深刻な場所でした。特に外国人観光客が多い場所でもあるから、復興のために頑張らなきゃいけない時期なのに、閑古鳥が鳴くようになっちゃって。それを受けて、寄付のできる企画展をポツポツやったりしました。その活動を通して思ったことは、自分にも何かできないだろうかって、みんなが思ってたってこと。どうすればいいのかわからない、でもやりたいという思いはある、そんな人が本当に多かった。
亀井
僕もそう感じていたので、同級生や先輩後輩に声をかけることから始めました。けれども卒業して十何年経っているし、みんなバックグラウンドがそれぞれ違うし、頻繁に会うわけでもなかったし、という状態で。キックオフミーティングだけで、なんと8時間。しかもそれでも全然決まらなくて、この先どうしようかと思いました。何とか最終的には16人が集まって、スタート地点まで漕ぎ着けました。
時園
最初はポストカードの販売からだったよね。
亀井
そうそう。狭いスペースで展示できるものも限られていたので。でもこれが、僕たちが考えていたよりもずっと大きな反響があったんですよ。まず、人がたくさん来てくれたんです。大学の授業の一環みたいな感じで、先生が大勢の学生を連れてきてくれたりもして、ひょっとしてこの活動はニーズがあるんじゃない?と感じました。2011年7月に行った第1回目のイベントで、目標の30万円を超えるお金が集まりました。時園さんみたいにお客さまとして来てくださっていたアーティストが、続々と参加してくれるようになって。16人のメンバーで始まったプロジェクトが、今は100人以上の大所帯に成長したんです。
時園
私は本業が空間デザイナーなので、出展できるような作品づくりをする機会がなかなかありませんでした。でも、参加作家だと誤解されるくらい、何度も何度も顔を出していたんですよ。何かを購入することが、当時の私の「サポサポサポ」だった。
亀井
来てくださる方がいらっしゃってこそ、成り立つイベントですから。ありがたかったです。
時園
いつかは参加してやるぞと狙っていたので、材料として何を使うかという問いかけは、常に頭の片隅に置いてありました。そんな時に、FABRIKOの澤村さんと仕事をする機会が巡って来て。張地について話を伺っているうちに、「あれ? もしかしてこれ、使えるんじゃないか?」って思ったんです。

劇場イスの張地が、「サポサポ」として生まれ変わる

澤村
劇場のイスとしてテキスタイルを使う場合は、1席あたり約1〜1.5メートルが必要なんですね。製作の過程で、どうしてもイスの張地としては使えないサイズの余剰分が生まれてしまいます。その切れ端を使って趣味で小物を作るような手先の器用な社員もいたのですが、もっと本格的に活用できないだろうかという思いは、私たちの長年の課題でした。
そんな時、とあるホールのオーナー様から、イスの張地を使用してグッズを作りたいとのお話がありました。竣工式で関係者向けの記念品として使いたいという申し出だったんです。イスの張地が、とても素敵なペンケースやブックカバーに生まれ変わりました。ご要望を伺い、そのホールのためにデザインしたオリジナルの張地だったので、そのブックカバーを受け取った方もとても喜ばれたそうなんです。このような需要があることに驚き、また喜びを感じました。最近は、FABRIKOから積極的にグッズ化のご提案を始めましたし、私たちもショールームにいらっしゃったお客様向けのノベルティとして、名刺入れやペンケースを作り始めました。

社内で試作されたグッズの一例

時園
これがノベルティだなんて、もったいない! と思っちゃいました。
澤村
ありがとうございます。お渡ししたお客さまだけでなく、社員からも欲しい! という声が上がりました。
5月にオープンした長野市芸術館からは、開館記念品としてグッズ販売をしたいとお声かけいただいて、メインホールの張地でオリジナルのトートバックを製作をしたんですよ。販売は始めてだったんですけど、好評とのことで嬉しいです。
そういった背景があったので、時園さんの「サポサポproject」の作品へ素材として利用するというご提案は、とても素敵だなと思ったんです。
時園
イスに使われている張地だから、磨耗の強度検査も厳しく、普通のテキスタイルよりもずっと丈夫。とっても価値ある素材ですよ。アーティストとしては、刺激されるし、創作意欲が湧いて来てうずうずします。メーカーは、製品の材料としては使うことができない素材の残りを持っているから、今回も絶対あるに違いないと思って、お声かけしました。裁断した端切れとか、余っていた張地とか、特別にお譲りいただいて、今回の製作が始まったわけです。

実際に販売予定の時園勇さんの作品「コースター」「ペーパーバッグ」「マニラバッグ」「ランチバッグ」「メイルバッグ」

時園
今回の私の作品テーマは『再生』。封筒とか再生紙を使ってできたアイテム、よくありますよね。あれをモチーフにして、バッグにしました。実は最初この素材を見た時、コースターに使ったもっと鮮やかな張地の方が面白くて、こちらはそうでもないかな、なんて思っていたんです。でもこれを女性に見せたら、「可愛い!」って絶賛されて、すごく盛り上がった。あ、そう? ほんとに?っておっかなびっくり、製作をスタートしたんです。ここに至るまでにいろんな形のバッグを作りましたよ。トートバッグも試作しました。最終的にこの形になったんですが、もっといろいろ作ってみたくなりました。中側にはナイロンを使ったので、汚れなども目立ちにくいと思います。
亀井
綺麗な色。
澤村
多色の緯糸(よこいと)が特徴的な布地です。経糸(たていと)を解くことによって、フリンジのように見えますね。
時園
本当ならゴミになってしまうものを、再生しました。この「もったいない精神」って、日本の心みたいな部分がありますよね。「支援する人たちを支援をする」というサポサポの思想とも近いものがあると思う。
亀井
メンバーの中には、時園さんのように他の場所で支援活動をやっていた人も多くいますが、この「サポサポproject」がスタートして、継続しながら広がっている理由は、二つあると思います。
一つは、東京にいながらできる支援であること。向こうに行かなきゃいけない気持ちが強かったんですけど、行かなくてもできる活動がある。しかも、顔の見える支援先にお金を渡して、ちゃんとお金を使ってもらうところまで自分の目で見届けることができる。どこに寄付したらいいのか迷う時期でもあったから、顔の見える支援先の存在はすごく大きかったと思います。
もう一つは、表現の力を使ってできる支援であること。参加作家のみんなが抱えていたのは「何かやりたい、そしてできることならば表現の力を使いたい」っていう思いなんですね。みんなが望んでいたことだったからこそ、広がっていたのだと思います。

藝大出身のアーティストが集う意味とは

亀井
「サポサポproject」は東京藝術大学美術学部卒業生による、と掲げてはいますが、特にこだわっていたわけではなかったんです。でも参加枠を広げちゃうと際限なくなるかなという気がしていたので、まずは身近なところから始めようと思って。10人集まらなかったら、その枠は撤廃しようと思っていました。でも締め切りのタイミングで11人になって、それじゃあこのルールで進めていこうかって。
澤村
大学に思い入れがあったからこそ、その枠組みができた感じですか。
亀井
うーん。そもそも僕の藝大観は、ちょっと変わっているんです。僕は大学が苦手で、藝大に対する敗北感みたいなものに長いこと包まれていました。だから、藝大の友人に声をかけたっていうことは、僕の中でひとつのチャレンジみたいな意味合いがあったんですよね。この肯定的なプロジェクトを通じてみんなと関わることができたら、当時消化できなかった『藝術大学』というテーマを、もう少しどうにかできるんじゃないかという淡い期待みたいな。在学時代の友人と集まると、今でも9割くらいバカなことしか言わない。どれだけ面白いこと言えるか選手権が始まっちゃう(笑) もうちょっとマジメなことでみんなと接点が持ちたいなって思ったのも、もしかしたらプロジェクトを始めたきっかけかもしれないですね。来てくれた人も、この枠組みはわかりやすいって言ってくれるし、みんなも楽しそうだから、これで良かったかなと思っています。
時園
亀井さんみたいに大学を避ける人と、ずっと藝大ラブな人に分かれますよ。原因は全くわからない。私は卒業してから1度も門をくぐってない側の人間で、学園祭とかも行ってないです。これまで、藝大という看板を掲げて行動しちゃうと、周りの目が極端に変わることを体感してきました。藝大だからとか、藝大のくせにとか。自分とは違う、別のフィルターを通されちゃう。それをうまく使えるときもあるけど、邪魔されるときもある。今回はすごくポジティブな方向に動いた例で、本当に良い活動だと思う。なんていうかね、みんな深刻な顔をしていないんですよ。
亀井
そう。全然深刻じゃない!
時園
同窓会みたいな雰囲気になる。久しぶりに会ってワイワイすること、みんな大好きなんだなと思った。びっくりする程、どんどん人が集まってくるし。作家自ら他の作家のものを買ったりして、流れている空気が心地良いんだよね。
亀井
集まる人それぞれいろんな背景を持っていて、明るい顔してても親戚が津波でなくなった人もいる。でも1度集合してしまえば、藝大のキャンパスで一緒に頑張ってきた仲間だから、すぐに打ち解けられるんですよね。手前味噌だけど、めちゃめちゃ気持ちのいい空間になっています。「久しぶりに会ったあいつが今こんなことやってるのか」っていう気づきも面白いですよ。支援が目的の活動なので、みんな作品に対していつもとは違う工夫をするんですよ。その工夫が実は新しい発見になってたりもしてね。このサポサポを通して、自分らしい表現活動を見つけた人もいます。いろいろ抱えながら、それでも顔を合わせると嬉しくて楽しくて、刺激や懐かしい思いがあったりして。
時園
私たちのその思いは、お客さまにも伝わっているのかもしれない。最近、並んでくださる方も多くて。
亀井
そう。ありがたいことに、イベント初日は美味しいラーメン屋なんじゃないかってくらい、大行列になります。
澤村
すごい!

東日本大震災から5年、今も被災地と繋がることができる空間が東京にもある

時園
参加作家のファンの方々の間でも、このイベントではいつもとは違う、価格帯にも手が届きやすいものが出てくるという話が徐々に広まって来ている肌感覚があります。嬉しいことです。
亀井
買うということだけでも意味があるし、それが支援に繋がるし、それを飾っておくことで、自分の空間の中に被災地との繋がりもできる。お客さまにとっても、震災のことに少し思いを馳せていただけるキッカケになっているんじゃないかな。
澤村
震災からもう5年以上、悲しいことですが少しずつ風化していく現実はありますよね。そんな今だからこそ、間接的ながら支援に関わる機会があることを嬉しく思っています。グッズを購入されるお客さまも、きっと同じような気持ちを持っていただけるはず。
時園
本当はね、こんなことやらなくて済む世の中の方がいいんですよ。災害がない方が絶対いい。そこらへんの矛盾感はあります。でも、支援のためにつくられた作品が並んでいる姿を見ていると、美術やアートは生活を豊かにしてくれるものなんだと、改めて感じるんです。大きな災害を目の前に無力さを感じている人に、ぜひ来て手に取って欲しい。
亀井
災害が起こると、アートやデザインって不謹慎って言われがちになったりするけど、支援だって眉間にしわ寄せながらじゃ続かないですよね。みんなが純粋にいい顔して会場で喋ってるとか、お客さまが嬉しそうに買って行ってくださったとか、そういうのがこの活動のモチベーションのひとつになります。今回は東北だけでなく、熊本への支援も予定しています。被災地と自分を繋ぐ場所が、東京の青山にもあるんだなと、より多くの人に感じていただければいいなと思っています。
「サポサポproject vol.14」
会期
2016年6月24日(金)〜26日(日)
時間
24日:15:00〜19:00/25〜26日:11:00〜19:00
会場
Gallery 5610(東京都港区南青山5-6-10 5610番館)
入場料
無料
主催
サポサポproject

過去のイベントの様子

取材日:2016年6月3日
取材・編集:広報企画部 M.N


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