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彩の国さいたま芸術劇場文学と演劇の越境 『海辺のカフカ』凱旋公演!

レポート / 2015.9.28

彩の国さいたま芸術劇場 入り口9月も後半になり、季節の移ろいを肌で感じるようになりました。この時期には、「食欲の秋」「読書の秋」「スポーツの秋」とたくさんのフレーズがありますが、今回の訪問先は劇場。「芸術の秋」を堪能するべく、彩の国さいたま芸術劇場にお邪魔しました。

昨年に開館20周年を迎えた彩の国さいたま芸術劇場の歴史は、1994年10月の誕生まで遡ります。優れた芸術文化を身近に感じることができる機会を創り、埼玉県民の芸術文化活動を支援することで、「真の豊かさ」「ゆとり」を実感できる生活の実現に寄与する劇場となることを目的とし、埼玉県さいたま市にオープンしました。2006年からは、蜷川幸雄芸術監督のもと、演劇・ダンス・音楽を中心として、芸術性の高い作品の創造・上演を続けています。
また、高校演劇の地区発表会会場を務めるほか、平均年齢75歳を超える団員による演劇集団「さいたまゴールド・シアター」や、若手演劇集団「さいたまネクスト・シアター」を生み出すなど、「創造する劇場」として埼玉から日本全国、世界に向け芸術文化の発信も行っています。
このように様々な取り組みを続けて来た、彩の国さいたま芸術劇場の年間稼働率は、90%を超えています。施設は、演劇・ミュージカル・オペラ・バレエ・ダンス等のための大ホール(776席)と小ホール(最大346席)、室内楽などコンサート開催を目的とした音楽ホール(604席)、国内外の映像作品を鑑賞できる映像ホール(150席)と、4つの専用ホールがあり、常に充実したプログラムが開催されているのです。

今回は、大ホールで9月17日(木)から上演されている、村上春樹原作『海辺のカフカ』を鑑賞して来ました。

彩の国さいたま芸術劇場 大ホールのロビー

ホワイエの祝い花ホワイエの売店の様子

平日昼公演のためか、場内は女性のお客様でいっぱいでした。祝い花を眺めたり、グッズを購入したりしながら、陽射しが入る明るいホワイエで開演までの時間を楽しんでいます。ホワイエ1階には売店もあるため、飲み物や軽食を購入することもできます。

2階ロビーから見た風景

彩の国さいたま芸術劇場の設計者は、香山壽夫氏。オープン翌年の1995年には第8回村野藤吾賞と第36回BCS賞を、1996年には日本建築学会作品賞を受賞しています。ホールに訪れた時に最初に感銘を受けるのは、円形広場「ロトンダ」ではないでしょうか。大ホールホワイエ2階の窓から見ると、この円形広場の向こうに、音楽ホールの入り口が見えます。大ホール、小ホール、音楽ホールの入り口がこのロトンダに面しており、各ホールに集う人々をつなぐ広場の役割を持っているのです。そして、この広場の真下にあるのは、舞台芸術資料室やポスター・チラシコーナーを始めとした、交流と発信のために集い合うスペース「情報プラザ」。円形広場の中心の吹き抜けから注ぎ込む明かりは、地下で「ガラスの光庭」となり、穏やかな優しい空間が生み出しています。そこを通り抜けてホールに上がることもできるため、いつもとは少し違った景色を楽しみたい方にはオススメの道順です。

『海辺のカフカ』2015年さいたま凱旋公演、舞台写真

今回観劇した『海辺のカフカ』の原作は、村上春樹氏の長編小説です。ニューヨーク・タイムズ「年間ベストブック10冊」(2005年)や、世界幻想文学大賞(2006年)にも選ばれたこの作品の初演は、2012年。昨年2014年には、新たなキャストで待望の再演が行われました。そして今年、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督でもあり、演出を務める蜷川幸雄氏が80歳になることを記念し、2014年上演時のキャストで、世界5都市を巡るワールドツアーが開催されているのです。「さいたま凱旋公演」と銘打たれたこの公演は、ロンドン、ニューヨークに続いて3都市目。この後には、シンガポール公演、ソウル公演が控えています。

『海辺のカフカ』2015年さいたま凱旋公演、舞台写真舞台上では、2つの物語が同時に進行していきます。
1つ目の物語の主人公は、少年・カフカ。カフカは、15歳の誕生日に独り家を出ます。何故ならカフカには、父親と2人で暮らすその家にいることで自分の中の何かが“損なわれる”ように感じられたから。東京都中野区の家を出たカフカは、理由も分からず惹かれる土地・四国に向かい、甲村記念図書館という小さな図書館に身を寄せます。父親の“呪い”を打ち破るべくもがくカフカを見守るのは、司書を務める「大島さん」。そして、幼い頃に自分を置いて家を出て行った母親だと信じてカフカが慕う、図書館の管理人「佐伯さん」。彼女との出会いで、カフカの心は揺れ動きます。

『海辺のカフカ』2015年さいたま凱旋公演、舞台写真『海辺のカフカ』2015年さいたま凱旋公演、舞台写真

2つ目の物語は、猫と会話ができる不思議な老人「ナカタさん」が主人公です。近所の迷い猫の捜索を引き受けたことをキッカケにして、ナカタさんの非日常が始まります。そしてあるひとつの事件によって、彼はトラックの運転手・星野と共に、カフカと同じく四国へと向かうことになるのでした。こうして、何かに導かれるようにして同じ場所にやって来たカフカとナカタさんの物語は交錯し、やがて1本の筋が通るように舞台上でひとつになります。

『海辺のカフカ』2015年さいたま凱旋公演、舞台写真

演じる俳優陣はもちろんのこと、幻想的なメロディや照明にもとても惹き付けられましたが、最も印象に残ったのは舞台美術でした。15歳という年齢では背負いきれない複雑な思いを抱えている、不安定な少年カフカの心を体現するように動くのは、美術館で作品展示のために使われるようなボックス。透明な箱の中に入った家や図書館、バス、森などは、まるで博物館の展示にも見え、歴史という名の物語が紡がれて行く様子を視覚的にも感じることができました。これらは全て人力で動かしているそうですが、海外公演も踏まえて、最小限のスタッフと一部のキャストが行っているとのこと。空気が動くようなスムーズな装置転換には、本のページをめくっているかのような不思議な感覚を覚えました。

「肉声が届く最適の客席規模」を目指した大ホールは、平日の昼公演にも関わらず満席でした。カーテンコールでは自然とスタンディングオベーションになり、少年カフカの切ない思いを通し場内がひとつになったように感じられて、何だか胸にぐっと来るものがありました。おそらくこの公演の客席には、普段は劇場ではなく、図書館やカフェで「読書の秋」を楽しむ村上春樹ファンもいることでしょう。終演後の場内やロビーでも、小説と舞台の印象を比較して語り合いながら帰路に着く人たちの姿が多く見られました。カフカやナカタさんの物語が交錯し、やがて交わっていったように、文学や演劇が芸術のジャンルを超えてひとつになる瞬間を体験できた1日でした。

『海辺のカフカ』
上演期間
2015年9月17日(木)〜10月4日(日)
会場
彩の国さいたま芸術劇場 (〒338-8506 さいたま市中央区上峰3-15-1)
チケット
S席 10,800円 A席 8,700円 (全席指定・税込)
上演時間
3時間10分(途中休憩含)
主催
公益財団法人埼玉芸術文化振興財団/TBS/ホリプロ

舞台写真:渡部孝弘
レポーター:広報企画部 M.N


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