二つの専用ホールをもつ歴史ある県立劇場
熊本県立劇場は1982年に開館しました。コンサートホールと演劇ホールを有した大きな劇場です。
2016年4月には熊本地震の被害を受け閉館を余儀なくされましたが、築30年以上の建物にもかかわらず致命的な損傷は無く、安全が確保できる状態で4ヶ月後には再開館しました。再開館後は、上質な芸術作品で傷ついた熊本の人々の心を癒しています。
どこの席からも演者の表情はしっかり見えるよう設計された、演劇ホール
敷地内の木々の間を歩いてエントランスをくぐると、「成層圏ブルー」と呼ばれる青色の天井が真っ直ぐに続いています。その正面に見えるのが、演劇ホールの入り口です。入り口にかかる鉄製の仕切りカーテンは、建物の設計を手掛けた前川國男氏によってデザインされました。
舞台芸術の専用ホールとしてつくられた演劇ホールは、三層から成る1,172席の大きなホールです。一層目の客席を後ろから囲むような形の二層目は、前方で一層目とつながっています。二層目に重なるようにつくられた三層目は、前に座る人の頭部で視界を遮られないよう、床の段差を高めに設定しました。
客席から舞台までの距離をできる限り近づけた、最後列からでも演者の表情がしっかりと見えるホールです。
ホールのあたたかな雰囲気をつくり出している、熊本県立劇場のためのイス
客席には、併設のコンサートホールと同じく、前川國男氏によるオリジナルデザインのイスを採用しました。
成形合板を曲げた背板は、当時の最先端の技術を駆使して製作されました。木の力強さと温もりが感じられるデザインです。脚部はひとつひとつ手作りの鋳鉄でつくられました。強固でがっちりとした素材ですが、シンプルでスッキリとした見た目に仕上げています。
1・2層目のイスは、スタンダードタイプ。3層目は、背が高いハイバックタイプです。通常は、背板をそのまま縦方向に伸ばした設定とすることが多いですが、熊本県立劇場ではスタンダードタイプの背の上部に、自動車のシートのように枕状の小さな背もたれを設置しました。背もたれよりも角度を起こすことで、より身体にフィットした座り心地をつくり出しています。
張地のベース色には、コンサートホールの濃紺とは異なる茶色を採用。イスにふんだんに施された木部や床のカーペットの色と相まって、ホール全体の温かな雰囲気をつくりだしています。
2018年には舞台機構のリニューアルも行い、より多彩な演目も上演出来るようになった演劇ホール。これからも、舞台芸術の素晴らしさや楽しさを、発信し続けていきます。