日本女子大学の歴史と共にある、成瀬記念講堂
1901年の建学以来、時代に先駆けて女子高等教育の道を切り拓いてきた日本女子大学。2018年8月、創立120周年記念事業として、大学の象徴ともいえる成瀬記念講堂がリニューアルを果たしました。
建学からほどなくして誕生したこの講堂は、建設当時の外壁には煉瓦が使用されていました。しかし、1923年の関東大震災によって煉瓦壁が大きく損傷し、改修を余儀なくされました。震災の翌年、木骨トラスやステンドグラスなど内部の造作を残し、外壁および間仕切りの煉瓦をすべて取り除いた木造建築として再建。以降も補修工事を続けながら保存・使用することにより、現在まで大切に継承されてきました。
今回の改修工事の主目的は、耐震補強です。工事のための足場づくりのため、講堂内のイスを全て取り外す必要があったことを機に、新しいイスへの入れ替えも行われました。創建当時から受け継がれてきたステンドグラスも修復が行われ、明るさと美しさを取り戻しています。
1世紀以上に渡って培われたイメージを受け継ぐ、客席のリニューアル
リニューアル前の成瀬記念講堂の席数は、1階席が688席、2階席が407席でした。
イスの大きさは、現代の日本人の体格に対してやや小ぶりだったため、改修を機に見直しを実行。キャパシティに限りがあるため、1席あたりのスペースが拡張すると、全体の席数は自ずと少なくなります。着席時の居住性を重視する方針のもと、リニューアル後に必要な席数を丁寧に調整しました。
その結果、1階席は467席、2階席は119席(側廊のイスを除く)と全体で大幅な削減が行われましたが、1階席においてはイスの間口が50ミリメートル、前後ピッチは190ミリメートル広く設定することができ、イスに腰掛けた際の居住性が格段に向上しています。また、2階席の側廊のイスだけは文化財保護の観点から、これまでのイスが現存のまま使用せずに保存されることになりました。
一回りサイズが大きくなったイスに求められたのは、歴史ある内装に相応しい意匠です。
入替前のイスのデザインアクセントとなっていたのは、横から見た際にアルファベットの「Z」を描いていた鋳物の脚部です。新しいイスでは、アルミニウムを鋳型に流し込み、Zの形状を忠実に再現しました。背もたれの木部のカラーは、従来のイスに寄せてナチュラルに。張地には、これまでも使われていたビニールレザーを素材として受け継ぎながら、ワントーン鮮やかな色に仕立てることによって、空間のリニューアルを爽やかに印象付けました。
歴史と伝統を継承しながら、進化を遂げたイス
これまでの客席のイメージを崩さないことを第一に改修を進めた客席のリニューアルですが、新たにレベルアップした個所もあります。
入替前のイスでは、聴講時に筆記が必要になった際、座裏に備え付けられていた木板を取り出し、それをメモ台として使用していました。入替後は、筆記の利便性を図るべく、肘掛の下から回転させて引き出すことができる収納式メモ台を各ブロック最前列の席に、二列目以降の席には前席の背もたれのボックスに納まる収納式のテーブルをそれぞれ設置しました。
また、イスの座には先端部を細くした「スペーシア」を取り入れました。着席時の足元空間に余裕が生まれるため、より居住性が向上。さらに、座ったまま足を身体の重心位置まで引けるため、立ち上がる際にも、肘掛に手をついて体重を支えることなくラクに立ち上がることが可能です。
歴史と伝統を継承しながら、進化を遂げた成瀬記念講堂の客席。日本女子大学の新たな歴史の1ページを、刻み始めています。