鎌倉芸術館、内庭には竹林が広がる「和」の光景
神奈川県鎌倉市で、芸術の発信と発展を担う、鎌倉芸術館。開館は1993年、設計は石本建築事務所が手掛けました。エントランスホールの奥には、三層の回廊が取り囲む竹林の内庭があり、「鎌倉芸術館」の名前にふさわしい和を思わせる印象的な風景が広がっています。
テキスタイルの張替えと木部の再塗装で客席をリニューアル
オープンから24年の歳月が経過した鎌倉芸術館では、建物の老築化を受けて、2017年1月から9月にかけて大規模な改修工事が行われました。音響や照明をはじめとした舞台機構の設備の刷新や、エントランスホールの天井の張り替えをはじめとしたリニューアルです。大ホールのイスは、張地の張り替えと、木部の塗装が行われました。
張地の張り替えは、空間の印象を大きく変えないことを重視しながらも新装感を演出できるよう、新たな柄で色のトーンを近づけた、特注の張地の採用が決まりました。ベースには黄色を、織りこんだ糸には中庭に茂る竹林や「古都鎌倉」の風情を漂わせる青と緑、そして温かみを感じさせる淡い珊瑚色を使用。複数色の糸を織り込むことで、光の当たり方によって表情が変化する、美しい玉虫色のテキスタイルです。
塗装色の剥がれが顕著だった木部は、最も目立つ通路側席の肘掛や、背もたれなどを、既存色と合わせたダークトーンに再塗装しました。また、欠損など傷の大きい個所は、部分的な補修を行っています。ムラや補修漏れがないよう、1席ずつ取り外して丁寧な作業が進められました。
客席の壮麗な装いの源は、今回のリニューアルだけではありません。イスの肘掛から脚にかけての繊細な意匠や玉縁を施した背座クッションの縫製などは開館当初から引き継がれており、今も昔も変わらず、風格を保っているのです。
バリアフリーの客席へと進化を遂げた3階席
傾斜が急な3階席では、改修工事に合わせて、「手掛け棒」の設置が決定しました。
手掛け棒は、通路側の席のイスの背もたれに設置して、階段の昇降や通行を手助けする、劇場イスのオプション品です。壁や床に取り付ける大型の手摺りと比較して、通路スペースを狭めることがなく、取り付け工事も容易な点が特徴的です。
導入に際しては、通行者が自然に手を掛けて使うことができるよう、鎌倉市役所の担当者がサイズや形違いの手掛け棒を触り・握り比べた結果、真っ直ぐなラインですっきりとした現在の形状が採用となりました。手のひら大の大きさの手掛け棒は、鑑賞中の視界の妨げを最小限に抑えるだけでなく、イスの木部と同じ色のため客席空間全体に溶け込んでおり、美観を保ったままバリアフリー化を図っています。
鎌倉市芸術館の3階席に設置した手掛け棒は、全部で38本。設置後、2017年10月のリニューアルオープンを記念したイベントや公演も開催され、「来場者の方が自然に手を掛けて使ってくださっている」と評価を得ています。