楽屋を訪ねてvol.03水戸芸術館公式Twitter担当者

2017.04.04
インタビュー

劇場・ホールで活動するアーティストや団体を訪ねて、客席のイスをはじめとした劇場についてインタビューを行う『楽屋を訪ねて』の第3弾。些細な情報が瞬く間に拡散され、爆発的な話題にもなり得る、近年のインターネット社会。中でもSNSは、コミュニケーションツールとして目覚ましい普及が取り沙汰され、メディアのニュースでもSNS上の口コミ、写真や動画が取上げられるようになりました。特にTwitterやFacebook上で急速にトピックが広がる現象は、マーケティング用語「Buzz(口コミ)」を由来に「バズる」と呼ばれ、企業間では「バズらせる」ことを目的にしたコンテンツ作成が流行する程に、大きなPR効果が期待されています。今回は、水戸市を代表する複合文化施設・水戸芸術館の公式Twitter担当者さんのインタビューをご紹介。「バズる」体験の赤裸々な告白をはじめ、公共施設におけるSNS運営についてお話を伺いました。

些細な情報が瞬く間に拡散され、爆発的な話題にもなり得る、近年のインターネット社会。中でもSNSは、コミュニケーションツールとして目覚ましい普及が取り沙汰され、メディアのニュースでもSNS上の口コミ、写真や動画が取上げられるようになりました。特にTwitterやFacebook上で急速にトピックが広がる現象は、マーケティング用語「Buzz(口コミ)」を由来に「バズる」と呼ばれ、企業間では「バズらせる」ことを目的にしたコンテンツ作成が流行する程に、大きなPR効果が期待されています。

最近は企業のみならず、都道府県や市町村などの自治体でも同様の活動が見られるようになりました。しかし、自治体や公共施設のSNS活用は、民間企業に比べて大きな壁が立ちはだかることも。
今回は、水戸市を代表する複合文化施設・水戸芸術館の公式Twitter担当者さんのインタビューをご紹介。「バズる」体験の赤裸々な告白をはじめ、公共施設におけるSNS運営についてお話を伺いました。

劇場・ホールで活動するアーティストや団体を訪ねて、客席のイスをはじめとした劇場についてインタビューを行う『楽屋を訪ねて』の第3弾です。

 水戸芸術館公式Twitter担当者

はじめに、Twitter担当者となった経緯を教えていただけますか。

理由は非常にシンプルです。インターネットにディープに親しんでいそうな人材が私だった、それだけです。「Twitterってなに?」とか、知っていてもアカウントの作り方は知らないといったスタッフも多かったので、「それならば私がアカウントつくりますね~」と軽いノリでスタートしました。

民間企業でも、自治体や公共施設でも、SNSに抵抗感がある方・ない方で二極化し、担当が自然と決まるケースも多いようですね。

そうだと思います。というのも、既に社会人として働いている私たちのような世代って、ネットリテラシーを学校で学んでいません。デジタルネイティブの若い子たちは学校で授業があるようですが、私たちは言わば現場で叩き上げた野良ユーザー。独学でも、これまでネットの海をどうにかおぼれず泳いで来たというのは、ある種の財産なんですよ。

その経験を持った人がSNSの担当者になることは、現時点では自然な流れであり、重要なことかもしれません。

その他にも、Twitter担当者に求められることはありますか?

インターネットに親しんでいることと同じくらい大切なのは、担当者が「自分の言葉」を持っていることだと思います。

ツイートすること、つまり「短い文章を書くこと」は誰にでもできるので、扱いやすいSNSサービスです。写真も動画もアップできますが、「限られた文字数でどこまで表現できるか」が面白いツール。長い文章よりも約140文字の方が簡単に見えるかもしれないけど、実は意外に難しい時もあるんです。誤解を生まない文章をコンパクトに書く、これってなかなか神経を使うんですよね。

私は5年ほどTwitterを担当していますが、自信がない時はツイートしません。「書いてはみたけど、やっぱりボツ!」という瞬間もたくさんあるので、ツイートするペースにも波が生まれます。

Twitterは専任業務ですか?

いえ、普段はパンフレットをつくったり、事業の対応をしたり、取材で稽古場にいたり……。そんな業務の合間にツイートしています。ですから、公式アカウントが静かな時は忙しい時です(笑)

ときどき、夜に自宅からポツポツとツイートすることもありますよ。業務時間外につぶやくのはアリなのかナシなのか、未だに判断が難しいですが(笑)、今だ! と思ったらそのテンションを逃さないようにしています。たまに夜遅くツイートすると「残業ですか?おつかれさまです」って心配してくれるフォロワーさんもいるんですけど、残業するほど忙しい時にはツイートしないので大丈夫です!!

水戸芸術館内カフェ・サザコーヒーの「徳川将軍珈琲」

水戸芸術館内カフェ・サザコーヒーの「徳川将軍珈琲」

主なツイート内容について教えてください。

館の公式アカウントは私の所属する広報係で運営しているもののほかに、コンサートホールATM、ACM劇場、現代美術センターの独立したアカウントも存在しています。各アカウントや水戸市内の気になった情報などのリツイートも織り交ぜつつ、公演情報のお知らせをしています。

広報係の私が運営するアカウントをフォローしてくれている方が1万人以上いることもあって、販売促進面における効果を期待される場合もあります。チケットが売れたら嬉しいですが、それがツイートをする1番の目的にならないよう、気をつけています。まずは水戸芸術館の存在、企画の存在を知ってもらうこと。そして情報でも冗談でも、こちらが発信した何かに興味を持った方が、ときどき振り向いてくれる。そのくらいの距離感がちょうど良いツールなんじゃないかな。

自動で時間指定ツイートが可能な「botシステム」を利用しないポリシーも、同じ理由ですか?

はい。私が公演情報をツイートする時は、全て自分で文字を打ちます。単なるお知らせ情報でも、自動配信できるbotシステムなどは一切使っていません。

これは個人的な意見ですが、時間になったら自動で流れるシステムを使うと、文字がどこか機械的になってしまう気がするんです。フォロワーさんにも、つまらない印象を持たせてしまうかなって。私は、私自身の血が通った文字で伝えたい。

このポリシーを掲げているせいで、打ち間違いも多々あるんですが、いっそ、それでもいいかなと。誤字のリスクよりも、人間らしさを優先したいです。Twitterというツールの向こう側に「私」という一人の人間の存在を感じてコミュニケーションが生まれるきっかけになるかもしれません。ポジティブすぎますか?(笑)

お知らせ情報の向こうに、「中の人」の人柄が見えるのが面白いんでしょうね。

誤字はアクシデントですけど、時々見える「中の人」の素顔を、面白いと思ってくださる方がいる。これはやっぱり嬉しいですね。普段は個別のお返事は行っていませんが、時間がある時は、質問コーナーを設けてフォロワーさんとコミュニケーションを取ってみたり。フォロワーさんからの質問がユニークなものばかりで、毎回楽しくお返事しています。スピード重視の大喜利風なので、終わった後はぐったりしますが。(笑)

日々のバランスとしては、8割くらいは公式然と、残り2割を「中の人」のキャラクターが感じられるように。なんとなくですが、意識して発言しています。

先日は、朝のテレビ番組でツイートが紹介されましたね!

そう、2割しか出さないパーソナルな部分のネタツイートが、たまーにバズるんですよ…。


5,000RTを超えたネタツイート

「このツイートを番組で紹介したい」とテレビ局さんから電話をいただきました。深く考えずに軽いノリでOKしたんですけど、後から「水戸芸術館の発言として公に放送されるものだから、上司に判断を求めるべきだったのか?」と思い当たり、慌てて上司に報告したんです。でも、「芸人さんの自己紹介のフレーズがありまして。そのフレーズを使った自己紹介ツイートがTwitterで流行っていたので、私もやってみました!」 ……なんて説明をしても、何も伝わらない。(笑)

ツイートしたものを実際に読み上げてと言われたら私がいたたまれなくなるし、Twitter上での言葉遊びという、ノリと勢いしかないものを、真面目に上司に報告しなければならない時は、本当に困ります。(笑)


「上司に説明をした」ツイートも約600RTされた

Twitterの活動は、「中の人」の判断で進むことが多くなりがちですね。

仕事で良し悪しの判断に迫られた時、通常業務の場合は、何かあれば上司に相談できます。でもTwitter上でのやりとりは即時性が求められるので、ひとつひとつ上司に相談していられません。だけど、何か問題が発生した時は、水戸芸術館全体の問題になります。不安だし、ひとりで言葉選びに迷って、うんうん唸ることもしばしばです。

前例がなくマニュアルもない、明確なルールがない世界。でもSNSに限らず、新しいことを始めた時って、こういう状態に陥りがちかもしれませんね。私の場合、判断基準は自分の良心。ツイート内容に迷った時は、良心という名の上司の声を聞くようにしています。

「インターネットに親しみがある」というシンプルな理由で担当に選出されたTwitterですが、自分自身にリテラシーを問いかけ続ける、難しい仕事でもあると思います。5年以上にも渡って担当を続けている理由とは?

実は、Twitterを立ち上げたのは、東日本大震災の直前でした。その頃、水戸芸術館のWebサイトリニューアルを行っていて、リニューアルオープンと同時にFacebookページやTwitterの展開を予定していたんです。その矢先に、震災が起きた。ホールの照明の一部やパイプオルガンのパイプなどが落下し、全体的に酷い壊れ方はしなかったものの休館を余儀なくされました。Webサイトはリニューアル中だったので、休館情報などの発信のため、積極的にTwitterを使った記憶があります。

休館中って、当たり前なんですけど、敷地に人がいないんです。私たちは仕事があるので毎日出勤しましたが、とにかくガラーンとしていて。タワーの周りの芝生で子供たちが遊んでいたり、館内を歩いている方がいたり、そういった日常がどこにもない。毎日毎日、誰もいない。すごく寂しい景色でした。

でも、再び水戸芸術館がオープンするとお知らせした瞬間から、たくさんの人が反応して、来館してくださったんです。その時、この場所に集まってくれるひとりひとりの存在によって、水戸芸術館の景色がつくられているという当たり前のことを、初めて実感できた気がします。

心のどこかで、イベントをやったり、来てくださいと告知をしたりする私たちが、この景色をつくり上げている気になっていたんですね。でも、全く逆だったんです。その感謝の気持ちをツイートしたら、たくさんのあたたかいお返事をいただきました。水戸市民の方からも、市民ではない方からも。嬉しかったですね。


震災後、開館のお知らせをしたツイート

その時の気持ちが、「中の人」を続けている理由なのでしょうか。

そうかもしれません。「私個人の感情を水戸芸術館公式アカウントで伝えること」に目覚めたきっかけだし、変わらずTwitter担当者を続けているエネルギーの源だと思います。水戸芸術館を愛してくれる人たちと繋がっていられることは、とても楽しいし幸せです。

最近は、公演アンケートの来場理由欄にTwitterを挙げてくださる方も増えました。これからも真面目な中にも気持ちの温度を感じられるようなツイートで、水戸芸術館の情報を届けていきたいと思っています。

もし、SNSの活用を迷っている公共施設の方がいれば、チャレンジしてみませんかと背中を押したいです! SNSの利用は確かにマニュアルもないし、扱い方によっては諸刃の剣にもなりえますが、インターネットの世界も、画面の向こう側にいるのはひとりの人間。人と人とを繋げる、あたたかい呟きが溢れていますよ!

ありがとうございました。

水戸芸術館

取材日:2017年2月
取材:広報部 M.N

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