やがて開館30周年を迎える「Bunkamura」
平成の幕開けとなった1989年、日本初の大型複合文化施設として「Bunkamura」は誕生しました。
クラシックコンサートの開催を主目的としたコンサートホール「オーチャードホール」、演劇を筆頭にさまざまな舞台芸術作品を公演する劇場「シアターコクーン」、最新鋭のデジタル映写システムも完備したハイグレードなミニシアター「ル・シネマ」のほか、ミュージアムやギャラリーも備えており、約30年にわたり、渋谷の街から世界へと文化芸術を発信し続けています。
常に進化を続けて来たオーチャードホールの客席
オーチャードホールは、国内最大規模のシューボックス型ホールです。世界の三大ホールと呼ばれるウィーンのムジークフェラインザール、アムステルダムのコンセルトヘボウ、ボストンのシンフォニーホールに倣った高い天井と、垂直の両側壁、浅いバルコニー席の建築が特徴的です。
客席に並ぶのは、赤みの強い木部と深紅の張地の組み合わせが印象的なイスです。繊細な意匠のポイントとなったのは、背・座のクッションを抱き込むような曲木加工と、着席者の背に沿って真っ直ぐに伸びる背板のライン。金色の席番プレートは背板の木口ではなく背もたれの正面上部にあり、ホールのイスに欠かせない席番号という機能を持ちながら、デザインのアクセントにもなっています。
2011年には、開業以来初となる施設改修工事が行われ、客席は1階前方中央ブロックのイスが、見やすさを重視した千鳥配置へとリニューアルしました。そして2015年に、更なるホスピタリティのレベルアップを目指して、イスに機能的な変更が施されたのです。
客席のホスピタリティ向上をテーマに、イスの座には「スペーシア」を導入
より快適な客席を追求して行われたのは、イスの座の更新です。改修前の座は、真横から見た時に四角形を描いていましたが、コトブキシーティングが「スペーシア」と銘打った新たな座は、三角形。着席者の膝裏にあたる部分を臀部側に比べて薄くしたことで、四角形ではなく三角形の形をしています。
「スペーシア」によって、着席している時の足元のスペースには、余裕が生まれます。それだけではなく、自分が座った席の前を通り抜けたい来場者が現れた時にも、座ったまま足先を引くだけで、他の来場者が通行するスペースを生み出します。着席者は立ち上がる手間が省け、通行者も着席するまでの混雑や時間のロスを回避できるのです。
また、イスに座ったり立ち上がったりする時に誰もが自然に行う「足を引く」動作がスムーズに行えることも、「スペーシア」の特長のひとつです。座ったまま足を身体の重心位置まで引くことができるため、立ち上がる時に肘掛に手をついて体重を支えなくても、楽に起立が可能。ホールを訪れる全ての人に優しい設計です。
今回の座の更新にあたって、旧形状の座・スタンダードタイプ・スペーシアを運び入れ、既存の座との違いを関係スタッフが体験。「スペーシア」の形状が快適であることを、実際のホール客席で確認行い、決定しました。
また、「スペーシア」への変更と合わせて、各列の端のイスに設置された列番プレートも、より文字が識別しやすい大きなサイズに変わりました。さらに、後列からでも席が探しやすいよう、後背もたれの裏側にも席番プレートを設置。来場者からも好評なリニューアルです。
2018年7月からはBunkamura施設全体の改修も予定されています。2019年には開館30周年を控えており、今もなお色褪せぬ芸術文化の殿堂として注目を浴びています。